鉄の巨鳥
やがて、数えて十一機目の機体を、カイトが真上から踏みつけて半壊させた時。今まで途切れることのなく広場に木霊し続けていた、機関砲による凶悪な連射音が不意に止まった。
唐突な静寂へと包まれる空気に、カイトは奇妙な違和感を覚えて物陰へと滑り込む。
そこから周囲の様子を覗き見た彼は、その突然に訪れた沈黙の理由を知り、慄然とした。
カイトへの制圧射撃を中断した攻撃機は、銃口より立ち昇る煙を後に引きながら、更に上空へと高度を上げていた。
そして、広場全域を睥睨できる位置に停止したそれは、背部を覆っていた長方形の蓋を展開し、その下より十数もの飛翔体を直上へと打ち上げた。
激しい燃焼音と白煙を上げて空に飛び上がったそれらは、間を置かず軌道を山形に変え、真下へと進路を転じる。広範囲に広がりつつ、カイトのいる市場を目掛けて飛来するその姿は、間違いなく搭載型|空対地誘導弾(ASM)のものだった。
痺れを切らしたかのような攻撃機の新たな一手に、カイトは泡を食ってその着弾範囲から逃れようと駆け出す。しかし、彼が三歩も進まない内に広場の上へと到達したミサイル群は、同時に側面の外壁を切り離し、内蔵していた数十発もの弾頭を一斉に放出した。
|多弾頭式(MIRV)ミサイルから射出された集束爆弾による無数の子弾は、雨となって広場に降り注ぎ、一帯に鮮やかな火炎の華を咲かせる。
辛くも直撃を免れたカイトは、しかし全方位から押し寄せる衝撃波の前に、容易く吹き飛ばされる。弄ばれるように宙を舞った彼の体は、敷き詰められた煉瓦が剥がされ、黒く湿った土が顕わとなった床へと叩き付けられた。
頭上から様々な破片が降りしきる中、カイトは即座に防御姿勢を解き、地面へと立膝を突く。
幸いにも、義身への深刻な損傷はない。
しかし、撹乱に用いていた市場の障害物は、先の絨毯爆撃で根こそぎ消し飛ばされている。
もはや、この場所でのこれ以上の継戦は、カイトにとっては不利でしかなかった。
辺りには爆発から生じた、灰色の粉塵が厚く立ち込めている。思わぬ副産物ではあったが、攻撃機側の目から逃れたいカイトにとって、それは願っても無い状況だった。
カイトは周囲に目を凝らし、離脱の経路を瞬時に見定める。そんな彼を引き留めるかのように、視覚外から飛来した鉤付きの鉄線が、その左腕を手首へと巻き付く形で捕えた。
カイトの腕を絡め取った線の先には、機体横の射出器とそれを繋いだドローンが、土煙の中を浮遊していた。
不意打ちから拘束されたカイトは、束縛を解こうと慌てて腕を振り回す。拘束具を外そうと躍起になる彼に、ドローンは捕えた獲物を逃すまいと、ワイヤー伝いに高圧の電流を見舞った。
ワイヤー内部に通された、伝導率の非常に高い金属繊維で編まれた導線は、その圧倒的な電気の奔流を余すところなくカイトへと流し込む。
左腕から全身へと巡る凄まじい電撃に、彼は視界を荒い砂嵐に包まれながら崩れ落ちる。
ドローンが放電した電流は、生体器官を絶縁体で保護しているカイトには、ほとんど物的な損害を与えはしなかった。だが、対サイボーグ用の波長へと調節されたそれは、脳幹部からの伝達信号を阻害し、義身の動作を鈍重なものへと変えていた。
関節部が固まってしまった左腕を、カイトは活を入れてどうにか駆動させようと試みる。
そんな彼の努力を嘲笑うように、遅れて周りへと集結した他のドローン二機が、仲間と同じ箇所を狙ってアンカーを撃ち出す。左腕を簀巻きとして、更に高圧の電気で攻め立ててくる数本のワイヤーに、カイトは完全に体の自由を失って昏倒した。
標的の抵抗を完全に封じたドローン達は、三角形の陣形を組みながら上昇を始める。
全身を強い麻痺に襲われていたカイトは抵抗の仕様もなく、されるがままに広場の上空へと引き上げられていった。
地面を離れた彼の体は、一本の糸で支えられた人形のように宙吊りとなる。
カイトは萎え切った四肢に力を込め、何とか拘束から逃れようと足掻く。そんな彼の、虚しく時計回りに回っていた視界へと、攻撃機の巨影が映り込んできた。
ドローン達に合わせて高度を下げてきていたそれは、無抵抗のまま一本釣りとされているカイトを、黒目勝ちな一つ目でじっくりと見詰める。
まるで、獲物の捌き方を考えているかのようなその様子に、カイトは必死になって身を震わせるものの、左腕に絡み付く鉄縄は緩む気配さえない。
無意味な反抗を続ける彼の前で、攻撃機の機関砲が、ゆっくりと回転を開始する。
|装甲車(AC)さえも鉄屑とする程の集中砲火の前に、残骸も残さずに砕け散る自身の義身。
そんな走馬灯染みた光景を幻視した直後、焦点の定まらないカイトの視界を、鮮烈な閃光が斜めに切り裂いた。




