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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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鉄の巨鳥

 やがて、数えて十一機目の機体を、カイトが真上から踏みつけて半壊させた時。今まで途切れることのなく広場に木霊(エコー)し続けていた、機関砲による凶悪な連射音が不意に止まった。

 唐突な静寂(せいじゃく)へと包まれる空気に、カイトは奇妙な違和感を覚えて物陰へと滑り込む。

 そこから周囲の様子を覗き見た彼は、その突然に訪れた沈黙の理由を知り、慄然とした。


 カイトへの制圧射撃を中断した攻撃機は、銃口より立ち昇る煙を後に引きながら、更に上空へと高度を上げていた。

 そして、広場全域を睥睨(へいげい)できる位置に停止したそれは、背部を覆っていた長方形の蓋を展開し、その下より十数もの飛翔体(フライング・オブジェクト)を直上へと打ち上げた。

 激しい燃焼音と白煙(バック・ファイア)を上げて空に飛び上がったそれらは、間を置かず軌道を山形(やまなり)に変え、真下へと進路を転じる。広範囲に広がりつつ、カイトのいる市場を目掛けて飛来するその姿は、間違いなく搭載型|空対地誘導弾(ASM)のものだった。


 痺れを切らしたかのような攻撃機の新たな一手に、カイトは泡を食ってその着弾範囲から逃れようと駆け出す。しかし、彼が三歩も進まない内に広場の上へと到達したミサイル群は、同時に側面の外壁を切り離(パージ)し、内蔵していた数十発もの弾頭を一斉に放出した。

 |多弾頭式(MIRV)ミサイルから射出された集束爆弾(クラスター)による無数の子弾(ボンブレッツ)は、雨となって広場に降り注ぎ、一帯に鮮やかな火炎の華を咲かせる。

 辛くも直撃を(まぬが)れたカイトは、しかし全方位から押し寄せる衝撃波の前に、容易(たやす)く吹き飛ばされる。(もてあそ)ばれるように宙を舞った彼の体は、敷き詰められた煉瓦が剥がされ、黒く湿った土が顕わとなった床へと叩き付けられた。


 頭上から様々な破片が降りしきる中、カイトは即座に防御姿勢を解き、地面へと立膝を突く。

 幸いにも、義身への深刻な損傷(モータル・ダメージ)はない。

 しかし、撹乱(かくらん)に用いていた市場の障害物は、先の絨毯爆撃(カーペット)で根こそぎ消し飛ばされている。

 もはや、この場所でのこれ以上の継戦は、カイトにとっては不利でしかなかった。


 辺りには爆発から生じた、灰色の粉塵が厚く立ち込めている。思わぬ副産物ではあったが、攻撃機側の目から逃れたいカイトにとって、それは願っても無い状況だった。

 カイトは周囲に目を凝らし、離脱の経路(ルート)を瞬時に見定める。そんな彼を引き留めるかのように、視覚外から飛来した(アンカー)付きの鉄線(ワイヤー)が、その左腕を手首へと巻き付く形で捕えた。


 カイトの腕を絡め取った線の先には、機体横の射出器(ランチャー)とそれを繋いだドローンが、土煙の中を浮遊していた。

 不意打ちから拘束されたカイトは、束縛を解こうと慌てて腕を振り回す。拘束具を外そうと躍起になる彼に、ドローンは捕えた獲物を逃すまいと、ワイヤー伝いに高圧の電流を見舞った。

 ワイヤー内部に通された、伝導率の非常に高い金属繊維で編まれた導線は、その圧倒的な電気の奔流を余すところなくカイトへと流し込む。

 左腕から全身へと巡る凄まじい電撃に、彼は視界を荒い砂嵐(ノイズ)に包まれながら崩れ落ちる。

 ドローンが放電した電流は、生体器官を絶縁体で保護しているカイトには、ほとんど物的な損害(ダメージ)を与えはしなかった。だが、対サイボーグ用の波長(パルス)へと調節されたそれは、脳幹部からの伝達信号を阻害(ジャミング)し、義身の動作を鈍重なものへと変えていた。


 関節部が固まってしまった左腕を、カイトは活を入れてどうにか駆動させようと試みる。

 そんな彼の努力を嘲笑(あざわら)うように、遅れて周りへと集結した他のドローン二機が、仲間と同じ箇所を狙ってアンカーを撃ち出す。左腕を()()きとして、更に高圧の電気で攻め立ててくる数本のワイヤーに、カイトは完全に体の自由を失って昏倒した。

 標的の抵抗を完全に封じたドローン達は、三角形の陣形を組みながら上昇を始める。

 全身を強い麻痺に襲われていたカイトは抵抗の仕様もなく、されるがままに広場の上空へと引き上げられていった。


 地面を離れた彼の体は、一本の糸で支えられた人形のように宙吊りとなる。

 カイトは()え切った四肢に力を込め、何とか拘束から逃れようと足掻く。そんな彼の、虚しく時計回りに回っていた視界へと、攻撃機の巨影が映り込んできた。

 ドローン達に合わせて高度を下げてきていたそれは、無抵抗のまま一本釣りとされているカイトを、黒目勝ちな一つ目でじっくりと見詰める。

 まるで、獲物の(さば)き方を考えているかのようなその様子に、カイトは必死になって身を震わせるものの、左腕に絡み付く鉄縄は緩む気配さえない。


 無意味な反抗を続ける彼の前で、攻撃機の機関砲が、ゆっくりと回転を開始する。

 |装甲車(AC)さえも鉄屑(スクラップ)とする程の集中砲火の前に、残骸も残さずに砕け散る自身の義身。

 そんな走馬灯(そうまとう)染みた光景を幻視した直後、焦点の定まらないカイトの視界を、鮮烈な閃光が斜めに切り裂いた。

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