援軍と救援物資、来る
カイトの背後から飛来したそれは、攻撃機の頭部ユニットの側面へと突き刺さる。
突然に左頬を打たれた攻撃機は、衝撃に大きくよろめくと、仰け反るように体勢を崩す。
直後、先走る形で放たれた機関砲の弾丸は、的であったカイトから逸れ、その上にいたドローン達の二機を誤射してしまった。
共に、機体の半分以上が消し飛んだそれらのドローンは、歪な傷口より電導液と火花を撒き散らしながら落下する。撃墜された両機とワイヤーで繋がったままであったカイトも、その息絶えた二機に引きずり落とされるように、急降下から地面へと叩き付けられた。
電撃からの打撃に身悶えする彼を、唯一被害を免れていた一機は、仲間の死骸ごと持ち上げようと懸命に引き続ける。しかし、そんな努力も虚しく、再び空を裂いた一条の稲光によって、それもまた一個の鉄屑となって地上へと墜とされた。
外部感覚器の一時的な不具合から、外部環境の感知がほぼ不可能になっていたカイトは、何が起こっているのか分からないまま、激しい眩暈に頭を揺らす。と、輪郭が幾重にも重なった、色彩を欠いた視界の端に、不意に黒い塊が映り込んできた。
「カイト、無事かい!? 怪我……は、してないか!?」
遅れて、頭上より反響が掛かり、間延びした鋭い声が降ってくる。痙攣じみた動きで上げられたカイトの視線の先には、彼を庇うようにして仁王立ちした、ヒルデブレヒトの姿があった。
倒れ伏すカイトへと寄り添う位置に立ち、広場上空の攻撃機と対峙する彼の手には、武器らしき装置が握られていた。
おそらく、彼が腰に帯びていた得物であるらしいそれは、非常に不可思議な形状をしていた。
重厚感のある鉄色を帯びたその武器は、攻撃機へと差し向けられた長い銃身や、引き金の付いた握り柄から、一見すると遠距離狙撃銃のようである。しかし、その銃身は直刀を横倒しにしたみたいな扁平形であり、明らかにカイトの知る物とは異なる構造をしていた。
ヒルデブレヒトの持つ武器を、ルチアは『魔鋼器』という耳慣れない単語で呼んでいた。
つまりは、彼が攻撃機やドローンを銃撃したその装備は、自分の常識の範囲にはない、こちらの世界の独自の技術を用いた物であるようだった。
「カイト、しっかりしなさい! 早く、こっちだって!」
ぼんやりとした頭で助っ人の能力を推測していたカイトは、不意に後ろから肩を小突かれる。彼が振り返ると、そこには狭い額を汗に濡らした、メリッサの蒼白となった顔があった。
「一旦、彼女と退くんだ! ここは僕が抑える!」
彼女がカイトの傍に付いたのを流し見たヒルデブレヒトは、鋭い早口で二人へと呼び掛ける。
単身で攻撃機を相手取ると宣言する彼に、カイトはまだ良く呂律の回らない口で反論した。
「止め、ろ、お前は普通の、人間だろ!? あれを、倒せる訳が、ない! 死ぬぞ!」
「ご心配どうも。でも、僕はこれでも一応、鋼骸種退治の専門家の端くれだからね。おとなしくやられるつもりも、殺されるつもりもないさ。だから、あいつはひとまず、僕に任せて!」
カイトからの忠告を、ヒルデブレヒトはやんわりと、しかし決然とした口調で断る。
重ねて引き留めようとしたカイトだったが、既に相手は聞く耳を持たず、攻撃機の方へと駆け出していく。独り巨大な敵へと立ち向かっていく彼を尻目に、メリッサは未だ手足に麻痺の残るカイトを支えながら、広場の外へと向けて懸命に歩を進めていった。
「大丈夫よ、魔鋼化の騎士サマってのは、鋼骸種を狩るのが、仕事なんだから! だから、あんたもちゃんと、前向いて歩きなさいって、重いんだからっ!」
メリッサの文句と悲鳴に叱咤されながら、カイトは広場に面した建物の合間の、裏道として使われているらしい隘路へと逃げ込む。
カイトは物陰になっている箇所に、壁へと背中を預けて腰を落とす。不整脈を打つ疑似心臓を落ち着かせつつ、彼は隣に座り込みながら肩で息をしているメリッサを流し見た。
「おい、どうして、戻ってきたんだ……? せっかく逃がしてやったのに、バカだろお前……」
「ハァ、もう、うっさいわね……ボロボロにやられてたくせに―。私があの騎士を連れてこなかったら、あんた、絶対にやられてたじゃない。鋼骸種ってのは、お礼も言えない訳?」
「別に、助けは必要なかった―ってのは、さすがに無理があるよな、やっぱり。すまなかったな、メリッサ。おかげで、命拾いしたぜ」
乱れた息を整えながら、カイトは苦笑を交えてメリッサへと礼を述べる。
素直に感謝を伝える彼に、メリッサは高揚から赤みを差していた頬を歪め、苦み走った表情となってそっぽを向いた。
「ほ、ホントはこんな危ない所に、私も戻りたくはなかったし―ただ、あんたとは契約のこともあるし、それに、あの騎士やルチアも、何だかんだ私にいろいろ頼んできたからで……って、あっ、そうだった! ちょっと、ここで待ってなさい!」
言い訳を呟いていたメリッサは、突然、何かを思い出したように大声を上げると、路地の奥の方へと駆け込んでいった。
何の脈絡もなく放置されたカイトが、呆気に取られたまま待機すること数分。
広場の方から激しい銃撃音が響く中、行きで消えていったのと同じ突き当たりの角から、正面の壁にぶつかりそうな勢いで彼女が転がり出てきた。
再び現れたメリッサは、布で全体が包まれた、何か筒らしき物を抱えていた。
駆け足でカイトの元へ戻った彼女は、強く抱きしめていたそれをカイトへ差し出す。
「これ、ルチアが、あんたにって……。ホントは、後で確かめてもらうつもり、だったみたいだけど、どうせだったら、鋼骸種相手に使ってみたら、助けになるかもしれないって……」
荒い息継ぎ混じりのメリッサの言葉に、カイトは初め意味が分からなかった。
しかし、彼女からの物資を受け取り、その覆いを外した彼は、即座に送り主の真意を理解した。
手にしたルチアからの思わぬ贈り物を、カイトは茫然として凝視する。言葉を失ったまま、それを一心に見つめ続ける彼を、メリッサは訝しげな面持ちで恐る恐る覗き込んだ。
「ど、どうなの? あんた、それを使えそう?」
「いや、試してみないことには、分からない……だが、試す価値は、充分にありそうだ」
メリッサの問いへと躊躇いがちに返したカイトは、自らの手にある信頼性と可用性を著しく欠き、大きな可能性と希望に満ちたそれを強く握り締める。
どの道、現在の危機的状況を打開するための手段を、選んでいる余裕はない。
ここは、未知数なまでの危険性を度外視しても、ルチアの賭けに乗るしか他になかった。
覚悟を決めたカイトは、そのまま攻撃機に対する最適の対策方法を練り始める。
やがて、一つの計画へと到った彼は、隣で固唾を呑んでいたメリッサへと、やや気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「メリッサ、悪いがもう一度、少し危ない役目を頼まれてくれないか?」




