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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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鋼骸種達は異世界で戦う

 カイトからの牽制攻撃を全て受け切った攻撃機は、改めて彼らの方へ機首を巡らせる。

 臨戦態勢となって身構える敵対勢力を、それは距離を置いたまま静かに観察する。


 と、不意にその鋼鉄の体躯(たいく)が鳴動し、腹部に二列になって生え揃っていた鱗が持ち上がる。

 次の瞬間、その十数枚の鉄鱗の下から、攻撃機と似通った外見をした複数の個体が、続々と外へ飛び出してきた。

 一丸となって空へと舞い上がるその群れを前に、メリッサは思わず女の子を強く抱き寄せる。


「何よ、あれ……!? まさか、鋼骸種が子どもを産んだの……!?」


 背後で上がる、戸惑いと驚きに満ちた彼女の叫び声を、カイトは黙したまま胸中で否定する。

 メリッサが『子ども』と呼んだ小型の鋼骸種達は、局地戦(ローカル)での行軍支援を目的として攻撃機に搭載された、|戦闘用小型飛行型無人機(アサルト・ドローン)だった。

 恐らく、攻撃機は多機能光学装置(マルチ・アイ・センサ)による識別で、戦闘介入を行ってきた対象をサイボーグと識別したのだろう。

 だからこそ、脅威度の高い敵性勢力との会敵(エンゲージ)における交戦規則(マニュアル)に従い、装備武装の使用制限(ロック)自発(オート)で解除したに違いなかった。


「メリッサ、早く行け! 後ろは振り返らずに、走り続けろ!」


 カイトは背後で棒立ちとなっているメリッサへと、先程よりも強い語気で指示を飛ばす。

 怒鳴り声にも似た彼の一喝に、彼女はハッとして身を(すく)み上がらせた後、苦渋と決意に満ちた面持ちとなって、通りの方へと駆けていった。


 遠ざかっていく二人分の足音を背中で聞きながら、カイトは小型機の群体に包まれる攻撃機を忌々しそうに睨み付ける。

 カイトは、自身の世界での戦闘において、現在対敵(たいてき)しているのと同型の(タイプ)を、大破も含めると二十機近くは撃墜していた。

 だが、それはいずれも|携帯式地対空装備(PSAM)や、|対戦闘機用兵器(3AW)を使用した上での戦果であった。

 現在、カイトは相手に有効な装備を持たず、加えて右腕部を欠損(ロスト)している。

 そうした状況にあって、どうやら動作不良などは起こしていないらしい相手をどう撃退するのか、彼はその方法を未だに思い付けずにいた。


 懸命に打開策を模索する相手を待たず、やがてドローン達は一斉にカイトの方へと殺到する。

 重低音の羽音を上げながら接近する敵機の一団に、彼は一旦考えを脇へと置き、ひとまず眼前に迫る脅威の排除へと専念した。

 扇状の編隊を組みつつ襲来したドローン達は、進路上に立つ標的(ターゲット)へと、機体下部に装着された固定式大口径機関銃(ヘビー・マシンガン)による掃射を行う。

 カイトは瞬時の弾道計算を行い、集弾率が最も低いと予測される場所へと飛び退く。

 直後、面となって押し寄せた特殊被甲(ホロー・ポイント)弾によって、彼が立っていた箇所の地面は3メートル四方が(えぐ)られ、砕け散った煉瓦が赤黒い粉塵となって舞い上がった。


 第一次攻撃(ファーストアタックを終えたドローン達は、身を伏せるカイトの頭上を(かす)めるように通過する。

 急旋回から高度を上げたそれらは、編成を解いて広場の上空へと散開する。

 だが、七機で構成された小隊規模の集団は、矢印型の陣形を保ったまま、カイトとは真逆の方向へと向かっていく。その進路は、先程メリッサ達が逃げていった方向と同じだった。


 彼女達の追跡へと移行するドローンの一部隊に、カイトは慌ててその後を追う。

 しかし、そんな彼の行く手を塞ぐように、前よりも巨大な衝撃と土煙が横薙(よこな)ぎに地面を穿(うが)つ。

 よろめきながら後ろへと下がったカイトの背後では、攻撃機がその顎下の長い八つの銃身を高速で回転させ、耳障(みみざわ)りで威圧的な金属音を(かな)でていた。


 どうやら、司令塔役であるそれもまた、自分を最優先の排除対象として認定したらしい。

 となれば、メリッサの救出に向かうにはまず、この親玉(ボス)をどうにかして()く必要があった。

 現状と目標を瞬時に見極めたカイトは、即座に踏み切りを付けて真横へと駆け出す。

 瞬時に逃避行動へと移った標的に、攻撃機も即座に右へと機首を返しつつ、その顎下で環状に連なった銃口より、再び徹甲弾を撃ち出した。


 秒間一二〇発の速度で襲い来る弾丸の嵐を、カイトは身を低く保ちつつ、広場の露店を隠れ蓑にしながら掻い潜る。

 当然、薄い木の板や布で出来た屋根や棚は、鉄板をも貫通する銃撃の前には無に等しい。

 それでも、カイトの姿を攻撃機の視界から(くら)ませるそれらは、防御壁(シールド)としての働きは皆無であっても、撹乱(スモッグ)としての効果は充分に果たしていた。


 凄まじい激震に後を追われ、全身を殺人的な轟音に蹂躙(じゅうりん)されながら、カイトは速度を緩めることなく市場の中を駆け抜けていく。

 目前へと現れた簡易な造りの仕切り(カウンター)を、彼は低い跳躍から乗り越える。と、その着地した先へと待ち受けていたかのように、日除けとして上に掛けられていた布の合間から、二機のドローンが唸りを上げて舞い降りてきた。


 突如として立ち塞がる二体の敵機に、しかしカイトには動揺はない。

 元来、攻撃機に搭載されているドローンは、死角(デッド・スポット)の多い市街地戦において、行動に制限の生じる親機の直接支援を目的として設計されている。故に、障害物に溢れた市場へと逃げ込んだ相手の詳細な現在位置を探るために、それらが更に距離を詰めてくるのは想定の内だった。


 進路上へと浮かぶその二機に、カイトは素早い踏み切りから跳び掛かると、相手に応戦や回避の隙を与えず、そのまま立て続けに双方ともを蹴り飛ばした。

 勢い良く地面へと叩き付けられたドローン達は、金属質な悲鳴を上げて、広場の上を転がっていく。

 店の棚や商品の山に激突し、そのまま二つともが沈黙するのを視界の端で確認したカイトは、攻撃機の制圧射撃に備えて再び逃避行動へと移った。

 逃げ回る敵の現在地を特定(スポット)するには、斥候(せっこう)役であるドローンは、必然的に高度を下げなければならない。そうして、相手自ら近接距離へと接近してきてくれる場面こそ、武器を持たない今のカイトにとって、反撃(カウンター・アタック)を行う唯一にして最大の好機(チャンス)だった。


 機動性に重点を置いた構造であるドローンは、軽量化によって装甲は比較的薄くなっている。

 そのため、決して戦闘向きではないカイトの義身(ボディ)でも、一度の打撃さえ与えられれば、撃破とはいかずとも行動不能に陥らせることは可能だった。


 敵の頭を潰せないのであれば、まずはその目となり手となる存在を片付ける。

 それが、この直面した苦境を乗り切る、最良の手段(メソッド)であるはずだった。

 そうした確信を胸に、カイトは市場を縦横無尽に走り回りながら、攻撃可能範囲(イン・レンジ)に入ってきたドローンを手当たり次第に叩き落していった。

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