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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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襲来の鋼骸種

 街の大通りへと出た後、カイトは先程の情報収集(ヒューミント)の際と同じ経路を辿(たど)りながらメリッサを探した。

 街路は変わらず人に溢れており、視覚認識(モニタ)のみによる捜索は困難であった。

 そのため、彼は聴覚ユニットの声紋識別機能も同時併用しながら、メリッサと類似した周波数の声も探らなければなかった。


 そうして、カイトが持ち得る機能(ガジェット)を総動員しながら、独り異界の風景の中を彷徨(さまよ)い続けていた時。

 突然、進行方向より普通の人混みの騒音とは異なる、一際(ひときわ)に巨大で圧の強い音の荒波がぶつかってきたのを彼は感受した。

 

 原因は、すぐに判明した。

 カイトの進んでいた街路の先より、まるで炎に追われる(ねずみ)の大群のように、街の人々が雪崩を打って押し寄せてきていたのだった。

 彼らは一様に血の気を失い、周囲の人々を押し退け、突き飛ばしながら、我先に通りを駆け抜けていく。

 そんな狂乱に支配された一群の先鋒と擦れ違い様、カイトは相手の恐怖と混乱と絶望に塗り潰された表情を目に留め、息を呑む。その顔は、新型の局地戦闘兵器が投入された地域で、戦火に逃げ惑う地元住民達のそれと似ていた。


「鋼骸種だ!! でっけぇ鋼骸種が、広場を襲いやがった!! みんな、早く逃げろ!!」


 通りを満たす悲鳴と足音の嵐を裂いて、甲高い叫び声が響き渡る。

 危険を告げる幾つもの声に、最初は呆然としていた他の通行人達も、やがて血相を変えて逃避の群集へと加わっていく。徐々に規模を増していく荒波に、カイトはその激流を掻き分け、流れに逆らう形で源流の方へと強引に(さかのぼ)っていった。

 

 (おぼろ)ながらに事態を察したカイトは、ある不吉な予感に襲われた。

 そして、それは不幸にも的中してしまった。

 様々な荷物や道具が散乱している、既に人気のない街路の突き当たりにある、緩やかな曲がり角を左に折れる。直後に眼前へと広がった光景に、カイトは愕然として足を止めた。

 街の中央に置かれた円形の広場は、街路が全て交わる地点という立地から、市場としての役割も兼ねており、少し前までは数多くの露店と買い物客でごった返していた。

 だが、今は見渡す限りに人影はなく、道沿いに並べられていた商品の列は、一部が無惨にも踏み荒らされてしまっている。

 そして、無人の廃墟と化したそこには入れ替わるように、周囲の家々の屋根とほぼ同じ高度に滞空する、巨躯を誇る鉄の獣が現れていた。


 航空力学の理論に基づいた、空気抵抗の影響を可能な限り削減した、機能美さえ感じさせる流線型の輪郭をした複合重層装甲(ラミネート・アーマ)の機体。

 その両脇から線対称に伸びる、数基の大型指向性抗重力機関(アンチ・グラビティ・エンジン)が取り付けられた両翼。

 そして、黒色の強化防護ガラスに覆われた、さながら巨大な単眼を連想させる多機能型複眼(マルチアイ)ユニットの下部に装備された、威容を誇る26mm|汎用回転式多銃身型機関砲(ガトリング・キャノン)

 それらの特徴から、カイトは異界の街を混乱に陥れたその鋼骸種が、彼の世界では非常にありふれた存在であった、|大型航空無人自律戦闘兵器(Muaa)だと即座に見抜いた。


 自重へと掛かる重力を相殺する際の、一定で不気味な重低音を辺りへと響かせながら、その鋼鉄の怪鳥は広場の一角に身を浮かべ続けている。と、カイトは斜め下へと向けられたその凹凸(おうとつ)の無い機首の先に、物陰へと(うずくま)る銀髪の少女の姿があるのに気が付いた。

 屋台に乗せられた屋根の下へと隠れていたメリッサは、誰か小さな女の子へと覆い被さっている。

 どうやら、逃げ遅れた子どもを(かば)って、彼女もまた脱出の機会を失ってしまっていたようだった。


 身を寄せて息を潜める彼女達に、|大型無人攻撃機(UCAV)は徐々に距離を詰めていく。

 もはや、一刻の猶予もない。

 彼女達が瀬戸際に立たされているのを見て取ったカイトは、瞬時に辺りへと視線を巡らせる。

 青果を扱っているらしい露店の脇に、木箱を積んだままの荷車が置かれている。素早くダッシュを切ってそれに肉薄した彼は、その持ち手を掴んで持ち上げると、遠心力を付けて振り回した後、攻撃機を目掛けて投擲(とうてき)した。


 鋭く錐揉(きりも)みしながら、直線的な放物線を描いて宙を舞った荷車は、攻撃機の機首の真横へと命中する。対外衝撃が十全に(ほどこ)された装甲には、(かす)り傷一つも付きはしない。それでも、相手の視覚外からの不意打ちは、攻撃機の姿勢を崩すには充分の衝撃を与えていた。

 木片と砕けた荷車が舞い散る中、攻撃機は左に傾いだ機体を原状へ戻そうと、両翼の抗重力派発生器(タービン)の位置を連動して調整する。

 その僅かな姿勢制御の隙に、カイトはメリッサへと声を張り上げて呼び掛ける。


「メリッサ!! 走れ、こっちだ!!」


 突然に攻撃機を襲った出来事へと面食らっていた彼女は、弾かれたように彼の方を向く。

 一瞬、メリッサは状況が呑み込めず、大きく見開いた目で声の主を凝視する。

 しかし、弛緩した顔へとすぐに緊張を取り戻した彼女は、共にいた女の子を強引に立ち上がらせると、大急ぎでカイトの方へと駆け出した。


 今にも転げそうな、危なっかしい足取りで疾走する二人に、体勢を立て直した攻撃機は再び注意を向ける。姿を見せた標的へと狙い(ロック)を定めるそれに、カイトは近くに並べられていた果実の詰められた(たる)を、手当たり次第に次々と放り投げていった。

 左腕のみでの遠投はバランスが取り(づら)く、幾つかは計算と異なる軌道を描き、効果的な攻撃とはならなかった。

 それでも、ほぼ三秒間隔で撃ち出された木製の砲弾は、その大半が攻撃機の一つ目へと直撃し、相手の視界を木片と果汁で封じるのに成功していた。


 やがて、最後の樽を投げ終えたカイトの手前に、泣き(わめ)く小さな女の子を連れたメリッサが辿(たど)り着く。蒼白となっていた顔へと冷汗を滲ませた彼女は、興奮から開いた瞳孔でカイトを間近から見上げた。


「カイト、あれが、あのでっかい鋼骸種が、突然……街が、街のみんなが襲われて―」

「ああ、分かっている。お前と、その彼女も、どっちも怪我はないか?」

「大丈夫、だと思うけど……でも、このままじゃあの鋼骸種が―」

「後は任せろ。俺は、あいつの相手をする。お前は、その子を安全な所に」


 小刻みに震える声を絞り出す彼女に、カイトは早口でそう言い付けて後ろへ押しやる。

 有無を言わさず、しかし加減をした力で脱出路へと突き飛ばす彼に、メリッサは色を失った唇を何か言いたげに開く。だが、彼女の乱れた細い吐息が、意味をもつ言葉となるよりも先に、状況は新たな展開を見せた。

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