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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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魔法少女は回顧する

 あの日、アビゲイルから告げられた言葉を、メリッサは今もはっきりと覚えている。


「あなたは、魔女になれる、そしてなるべき人間じゃないわ。だから、私が終わらせてあげる。それが、あなたの師としての私の、最後の責任よ」


 いつもと同じで素っ気のない、だけれども固い響きを帯びた口調でそう言い放った彼女は、メリッサを目掛けて数発の火球を撃ち出してきた。

 飛び退いた床を(えぐ)り、背後の壁を貫通したその威力に、メリッサは相手が本気だと直感的に理解した。それから、彼女は無我夢中でアビゲイルの魔術工房から逃げ出した後、ずっと相手の目から逃れ、その手を掻い潜りながら生きてきたのだった。

 

 お世辞にも、二人の師弟としての関係は、そんなに良好ではなかった。

 アビゲイルは、教育熱心で面倒見の良い先生とは程遠かったし、メリッサの方も、聞き分けの良い成績優秀な教え子とは言えなかった。

 生徒が魔術体系の理論をなかなか覚えず、そして一向に魔法を扱えないことにアビゲイルは苛立っており、対してメリッサも教え方に問題があるとして反抗ばかりしていた。

 つまりは、二人とも一年中、朝起きてから夜寝るまでの間、ずっとケンカばっかりしていたようなものだった。


 別に、メリッサはアビゲイルの事が憎い訳ではなかった。

 ただ、どちらも少し、似た性格の持ち主だった。

 そんなところが、ある意味での同族嫌悪的な印象をお互いに抱かせてしまい、それぞれの態度や物腰を、自然とキツイものへとしてしまっていた感じだった。

 だからこそ、そんな相手が本気の殺意を向けてきたのは、メリッサにとってはどこか当たり前のようでいて、だけれども、まるで冗談か夢のような出来事だった。

 それでも、アビゲイルの考えが全く分からないのは、二人が出会った時からでもあった。


 当時、大戦で父親を失い、疫病で母親を亡くしていたメリッサは、孤児として地方の貧しい修道院に保護されていた。

 そこでは、歳の割に貧相な体付きや、どうしても目立つ髪の色から、共同生活をしていた他の子ども達に揶揄(からか)われ、苛められる日々が続いていた。

 しかし、そんな鬱々(うつうつ)とした苦しみに満ちた生活は、ある日修道院にやってきた、一人の魔女によって変わった。


 彼女は各地を渡り歩く流浪(るろう)の身で、その頃、偶然近くの村を訪れていた。

 ちょうど同じ時期、修道院の管理者である神父が、町医者も(さじ)を投げる程の重い病気に(かか)っていた。そして、一人の魔女が近くの町に滞在しているのを知った修道女達は、その魔術における知識と腕を頼って、彼女へと救いを求めたのだった。


 依頼を受けた魔女は、使いの修道女と一緒に、そのまま修道院へと(おもむ)いた。

 一週間後、それまでほとんど昏睡状態だった神父は、彼女の魔動器具や精製した薬による治療のおかげで、自分で食事が出来るまでに快復(かいふく)していた。

 危篤(きとく)から立ち直った神父は、多大な感謝と共に、約束の報酬を魔女に支払おうとした。

 だが、彼女はそれを断り、代わりに「ここにいる、銀髪の少女を貰い受けたい」と申し出た。

 思いも掛けない代案に、修道院側も初めは難色を示した。だが、話を伝え聞いたメリッサ本人が、その条件を嬉々として受け入れたため、最後には彼女の要望に添うこととなった。

 

 メリッサにとって、修道院での辛く、苦しい毎日から逃れられるのであれば、それはどんな方法や形でも構わなかった。それに、彼女は他の大人達がどうにも出来なかった、神父の病を治したという『魔法』にも、強い興味を覚えていた。

 町の偉い人や、頭の良い人でも問題をお手上げだった問題を、あっさりと解決してみせた魔女。そんな彼女の力を、もし自分も使えるようになれば、もう誰にも馬鹿にはされずに見返せると、そう思ったのだった。

 そんな期待と野望を胸に、メリッサは修道女に連れられて、魔女との面会を果たした。

 教会の祭壇前で待っていた彼女は、警戒心と好奇心を半々に抱きながら現れた相手に、


「あなた、洗濯とか料理は出来る? もし、雑務係として私に付いてくるつもりがあれば、代わりにいろいろと教えて上げても良いけど、どうかしら?」


 と、淡々とした物言いで、開口一番に尋ねてきた。

 それが、メリッサが師匠となるアビゲイルから、初めて掛けられた言葉だった。


 修道院を後にした二人は、長い放浪の末に、ブルトロットの街近くの郊外へと落ち着いた。

 そこで開いた魔術工房で、彼女達は様々な依頼を(こな)しつつ、刺々しくも張りのある師弟生活を送っていった。アビゲイルが、メリッサを殺そうとしたその日まで。

 

 師匠との決定的で致命的な対立を迎えてから、メリッサは一人で生きていくと決めた。

 いつか、アビゲイルを超える力を、絶対に手に入れると固く誓った。

 だからこそ、鋼骸種の世界から来たという、カイトと名乗る得体の知れない存在とも、危険を承知で契約を結んだのだった。

 なのに、その相手があっさりと協力関係を解消すると言い出したのは、メリッサにとって絶対に認められない裏切りだった。

 そして、そんな彼を徐々に信頼し始めていた自分の甘さが、許せなかった。


 何より、メリッサにとっては、カイトが彼女を守るための最善の方法を、さも得意気に自分へと語って聞かせてきたのが我慢ならなかった。

 騎士団と協力すれば、あの魔女を倒せる。そんなのは、メリッサも充分に理解していた。

 しかし、メリッサは単に、師匠であったあの女をやっつけたいのではない。

 そんな相手の心中を察しもせず、正論ぶった言い回しで反論してきた彼の態度が、更にメリッサの怒りに火を注いで――。


「あ、いたっ! おーいこっちだ、こっちにいたぞうっ、早く来いよ!」

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