引けない二人
頬を激情に赤らめ、握り締めた小さな拳をわなわなと震わせていた彼女は、荒く小刻みな足取りで部屋の中へと進み出る。
面食らっていたカイトの前へと詰め寄ると、吊り上げていた細い眉の下から、怒りに燃え盛る眼差しで彼を斜め上から刺し貫いた。
「あんた、何を勝手に取引なんかしてくれてんのよ!? 私は、騎士団か何かに守ってもらうつもりも、力を貸すつもりも、全ッ然、これっぽっちもないから!!」
どうやら彼女は、扉越しに二人の会話を耳にしていたようだった。
ヒルデブレヒトの申し出を頭ごなしに拒絶する彼女に、カイトは僅かな戸惑いと、多大な疑念を抱いて眉をひそめる。
「おいおい、どうしてそうなる? こいつらの助けがあれば、君も前みたく、いきなり襲われる心配は少なくなるだろ。それどころか、逆にあいつらを返り討ちに出来るかもしれないんだぞ。君だって、自分を狙っているアビゲイルって奴をやっつけたいはずだろ」
「そん…なの、あんたの知った事じゃないでしょ! そもそも私は、あんな奴に関わりたくもないの! あいつらを追い返せれば、それで良いの! ひょっとしてあんた、自分だけじゃそんなのも出来ないとか、情けないことを言い出すんじゃないでしょうね!?」
「契約を結んだ以上、全力は尽くすつもりだ。それでも、いやだからこそ、万全を期しておくのは当然だろう。敵を大本から一網打尽に出来れば、君だってもうこれ以上、ビクビクしながら暮らしていかなくても済むんだぞ。それくらい、君だって気付いて―」
「バカにするなっ、分かってるわよ!! だけど、嫌なものは嫌なの!! あんたは、私の味方で、手下なんでしょ!? だったら、ご主人様の命令に逆らうんじゃないわよ!!」
どうにか説得を試みるカイトに対し、メリッサは全く聞く耳を持つ様子はなかった。
もはや金切り声に近い声音となって拒否を続ける彼女に、カイトはあまりの気迫に押されて怯みかける。それでも、大人しく相手の言い分を呑むつもりがないのは、彼もまた同じだった。
ヒルデブレヒトの発言を信じれば、この一帯の鋼骸器は多くが例の大領主の元にあるという。
となれば、カイトが最優先で必要としているナノマシン注入器。あわよくば、彼が元いた世界に戻るための時空間転位装置の手掛かりも、そこで入手できる可能性は低くはなかった。
何より、ヒルデブレヒトより話を伝え聞いたカイトは、ある一抹の不安が胸を過ぎっていた。
杞憂であれば、それに越したことはない。
しかし、万が一にその予感が的中していれば、事態はヒルデブレヒト達が想定しているよりも、遥かに深刻である。
だからこそ、例え相手に真っ向から逆らう形になっても、カイトは素直にメリッサの言い付けに従う訳にはいかなかった。




