マスターの師匠
「話の流れは、だいたい分かった。だが、そんな重要な機密事項を、部外者の俺なんかにペラペラと喋ってしまっても良いのか?」
「こちらから協力を仰ぐ以上、状況を理解してもらっておくのは必要だからね。それに、もし君がこの情報を悪用するようであれば、僕がこの手で始末するだけだ。君はあくまで鋼骸種なんだから、面倒な手続きも善後策も関係なしに、この場で斬って捨てても構わないからね」
あっさりとそう公言するヒルデブレヒトの眼は、笑みの形に細められながらも、揺るぎのない光を湛えて相手をまっすぐに射さしている。
冗談めかした口調で、信念と覚悟のこもった言葉を紡ぐ彼に、カイトはちょっとした可笑し味を覚えると共に、なぜだか好感めいた印象さえ覚えた。
「なるほど、俺もこんな所でスクラップになるのは御免だしな。ついうっかり、その大領主サマとやらに話してしまわないように、口はしっかり封閉じしておくとするか」
「お互いのために、ね。でも実際、君が口外する心配は、僕もあまりしてはいないんだけど」
「それも、俺が信頼に足りる立派な人格者だから、ってか?」
「もちろん、他にも理由はある。君と一緒にいた、メリッサとか言った彼女は、自分達がアビゲイルに狙われていると言っていた。詳しい事情は知らないけれど、もし君達があの魔女と敵対しているのであれば、僕達の利害は一致しているはずだからね」
「魔女……? 気になっていたんだが、そのアビゲイルというのは、いったい誰なんだ?」
「知らないのかい? でも、彼女は―」
「実は、あいつと手を組んだのは、つい最近なんだ。だから、そのアビゲイルとかいう魔女の事も、まだ聞けてはいなくてな。悪いが、お前の方から教えてはくれないか?」
「そうだったのか……別に、構わないよ。アビゲイルは、かつてこのブルトロットの街を中心に活動していた魔女だ。彼女は強大な魔力と、豊富な魔術の知識の持ち手として、在野の中でも名の知れた存在だった。当然、騎士団の方でも危険分子となる可能性があるとして、彼女の動向は監視していた。それでも、長年に渡って魔術関係の依頼を熟しているといった社会貢献の実績もあり、近隣住民との関係性も良好であったという背景から、彼女の活動へと直接的に介入はしなかった。要は、互いに適度な距離を保った、必要以上に接触をしない間柄だったというところかな」
「そんな良い魔女を、どうしてお前は目の敵にしている? 例の大領主の件と、何か関係が?」
「鋼骸器の大量消失が発覚した直後、彼女は問題とされている大領主の配下に入り、専属の魔導士となっている。彼女はそれまで、あらゆる権力への追従を嫌う、自立心と自尊心の高い性格で知られていた。そんな彼女が、鋼骸器の一件と前後して、例の大領主の元へと加わっている。この二つの出来事がどう繋がっているのかは不明だ。だけど、どちらも同じ人物を中心としている以上、無関係と切って捨てる方が無理があるだろうね」
カイトは、魔法や魔術についての知識は皆無だった。
なので、こちらの世界で鋼骸器と呼称される軍事機器とそれが、どのような影響を及ぼし合うのか、想像すらできなかった。
だが、だからこそ、カイトに取って現実と非現実の両極に分かれるそれらの存在が、一つの意志の元に集められているとする状況には、外野であるはずの彼も空恐ろしい空気を感じずにはいられなかった。




