王国の青年騎士
場末での少々乱暴な自己紹介を終えた後、カイト達は王国の騎士であるという青年と共に、ルチアの工房へと戻った。
「なるべく他人の目や耳に触れない場所で話をしたい」という、彼の意向を汲んでのことだった。
カイトの先導で玄関を潜ったヒルデブレヒトは、雑然とした室内にやや面食らった様子を見せる。
それでも、即座に気持ちを立て直した彼は、広間の中程へと進み出ると、カイト達の方を振り向き、うやうやしく頭を垂れた。
「まずは、改めて先程の非礼を詫びさせてもらいたい。事情を良く把握もせず、そちらを刺激してしまうような短絡的な行動に出てしまったのは、言い訳のしようもない愚行だった」
「そんなに気にするな。お前にこっちを傷付けるつもりがなかったのは、俺も充分に分かっている。それに、どっちにも怪我とかそんなのはなかったんだから、もう済んだ話で良いだろ」
「寛容な言葉、本当に痛み入る。しかし、その、君の連れの彼女の方は、やはり納得がいっていないらしいようだし―」
固い苦笑を浮かべ、視線をちらと横へ落とす彼に、カイトもつられて後ろを顧みる。
そこには、カイトの背後に身を潜め、険しいしかめっ面でヒルデブレヒトを睨み付けている、警戒心に満ち満ちた雰囲気を放つメリッサの姿があった。
三人で連れ立って街を行く道中も、彼女は常にカイトの陰に隠れ、新しい同行者を油断なく見張り続けていた。
気持ちは分からなくもないが、そんなにずっと気を張り続けていたら持たないだろうに。
まるで、逃げる隙を窺っている小動物のように身構えているメリッサに、カイトは小さく溜息を漏らし、困惑しているヒルデブレヒトへと肩を竦めてみせた。
「こいつもちょっと今、事情があって物騒な身の上らしくてな。だから少し、周りの事には神経過敏になっているんだが、悪いがその辺りは我慢してくれ」
「そうなのか……もしかして、その事情というのは、『アビゲイル』に関する事かい?」
ヒルデブレヒトが戸惑いながら口にしたその単語に、メリッサの呼吸が微かに震えるのを、カイトは背中で聞く。
どうやら、ヒルデブレヒトをも気色ばませたその人名らしき言葉が、彼女を怯えさせている原因であるのは間違いないようだった。
二人の重要な関心事となっている『アビゲイル』とは、いったい何者なのか。
そうした疑念を解消するためにも、カイトはヒルデブレヒトと共に近くの椅子へと腰を下ろし、今度は温和で平和的な話し合いを始めることとした。




