通じるもの
相手との距離が離れた直後、カイトは片手で素早く、銃身のサプレッサーを外していた。
よって、その発射音は全く緩和されず、元来のものとなっていた。
周囲の空気を短く震わせる轟音に、メリッサは悲鳴を上げて身を竦ませる。
フードの男もまた、彼女と同様、突然の爆発音に面食らい足を止める。間を置いて棒立ちとなる彼に、カイトは掲げていた腕を下げ、照準をその胸へと合わせた。
フードの男は、相手の持つ鉄器の脅威に気付いているのだろう。
彼は中腰の姿勢のままカイトを凝視し、その一挙手一投足を油断なく注視していた。
僅かな間をおいて対峙した二人は、言葉もなく互いの視線で火花を散らす。
息を殺さざるを得ない沈黙に、その重圧に耐え切れず最初に根を上げたのは、固唾を呑んで成り行きを見守っていたメリッサだった。
「ちょっと、カイト、何してんのよ!? 早くその鋼骸器で、そいつを倒しなさいよ!」
背後から挙がる彼女の命令に、だが、カイトは従おうとはしなかった。
突如として現れたフードの男は、確かに自分達を急襲してきた以上、れっきとした敵対勢力であるのだろう。
しかしながら、先程の交戦の中で、カイトは彼に欠片の殺意もないのを確認していた。
彼は肉弾戦の最中も、カイトを傷付けるのではなく、あくまで制圧によって無力化しようとしている節があった。
また、相手の右腰にはコートの裾に隠れる形で、長い得物らしき武器が帯びられていた。
もし、彼が本当に以前の襲撃者の仲間であるなら、今さら手心を加えてくるはずはない。
そうした幾つかの違和感が、カイトに引き金を引かせることを躊躇わせていたのだった。
そんな、彼の苦悩と逡巡を察したのだろう。
苦々しい渋面を作るカイトを前に、陰となっているフードの奥から苦笑の吐息が漏れた。
「なるほど、確かに君は、常人ではないらしいな。鋼骸種であるというのも、頷ける。だが、それでも君はどうやら、道理を弁え、義を介する、秀でた人格の持ち主でもあるようだ」
フードの男はゆっくりと背筋を伸ばし、起立の姿勢を取る。
直立した彼は、未だに狙いを定めているカイトへと、微かに顎を引いて目礼した。
今の彼からは、張り詰めた気配は消え去っている。
これ以上の継戦を望まない相手の様子に、カイトは安堵の混じった微苦笑を返し、狙いを付けていたハンドガンを下へと降ろした。




