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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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壁に耳あり、背に男あり

 突然に二人の間へと割って入った声に、メリッサは息を呑んで跳び上がる。

 音声の発生源を素早く見定めたカイトは、(すく)み上がる彼女を後ろに回して体を返す。

 彼が背にしていた裏路地の入口側には、埃っぽい黄土色のロングコートで足元までを覆った人物が、いつの間にか姿を現していた。


 カイト達を正面に捉えるその相貌は、目深に被ったフードに隠れて窺えない。

 だが、細身ながらも上背と肩幅のある体格や、張りのある中低域(バリトン)の声質は、明らかに若い男性のそれだった。


 メリッサとの会話中も、カイトは周囲への注意を(おこた)っているつもりはなかった。

 だが、現にその男は、彼の監視網(センサー)に掛かることなく、近距離にまで接近していた。

 その事柄だけでも、彼らの目の前にいる相手が、ただの通りすがりではないという事実を如実(にょじつ)に物語っていた。


 突然に存在の明らかとなった謎の男を、カイトは薄く睨み付けるように注視する。

 油断なく身構える彼に、その男は口の端より笑いの吐息を漏らした。


「驚かせてしまって済まない。だけど、そんなに警戒してくれなくても良い。僕はただ、さっきの話について、もっと詳しく聞かせて欲しいだけなんだ。君が、『鋼骸種の世界から来た人間』だというのは、本当なのかい?」

「…………わざわざ立ち聞きまでしてくれて悪いが、あれはただの作り話だよ。今度、仲間内でやる劇を、こいつと練習してたんだ。てか、もしかしてあんた、あんなバカみたいな話を真に受けたのか? そんな、俺がバケモノの世界から来たなんて、ありえるはずないだろ」

「それは、どうかな? 君はさっき街の子ども達に魔法と偽って、何か小さな装置のような物で果物を砕いてみせていた。あの時、君が上着の陰に隠していたのは、もしかして鋼骸器じゃないのかい?」


 何気ない相手の発言に、カイトは思わず息を詰める。

 突如として接触を(はか)ってきたその男は、どうやら、彼が単発式拳銃(ハンドガン)で果実を狙撃した場面を目撃していたらしい。


 更に、彼はカイトが用いた手法についても、ほぼ的を射た見方を示している。

 やはり、このフードの男は、単なる興味本位で首を突っ込んできた相手ではなさそうだった。


 得体の知れない危機感から緊張を強めるカイトに、メリッサはその背へと素早く取り(すが)り、焦りの浮いた声で(ささや)きかけた。


「カイト、気を付けなさい! こいつ、あんたが鋼骸器を使ったって知ってるのに、平気な顔して話しかけてくるなんて絶対変よ! たぶん、こいつも前のギスティアと同じで私を始末しようと、アビゲイルが雇った暗殺者か何か―」


 瞬間、路地の湿った空気が、一気に張り詰めたのをカイトは感じた。

 それまでフードの男がまとっていた、友好的で温和な雰囲気は、(にわ)かに相手を刺すような鋭く強烈なものへと変わる。

 彼は、その穏やかではない気配を放ちながら、カイト達の方へと素早い足取りで進み出る。


「君、いま確かに君は、アビゲイルと言ったね? もしかして君達は、あの女の関係者なのか? だとしたら、彼が鋼骸器を使えるのも、それが理由なのか!? どうなんだ!?」


 彼の饒舌(じょうぜつ)で攻撃的な詰問に、カイトは否定以外の回答はもたなかった。

 だが、フードの陰から鋭利な眼光を差し向け、俊敏かつ猛烈な足取りで肉薄してくる相手が、そんな答えで止まってくれるはずもないのは明らかだった。

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