達観と怒り
カイトが、鋼骸種としての自分が生まれた理由と経緯を語る間、メリッサは一言として口を挟みはしなかった。
憮然としたその表情は、彼の話の内容がほとんど理解できていないことを、ありありと示していた。だが、彼女は不機嫌を露わにしたり、カイトに説明を無理強いしたりはしなかった。
それまで足元へと彷徨わせていた視線を、メリッサはちらと上げる。
少し気まずそうな眼差しをカイトへと向けながら、彼女はどこかたどたどしい動きで口を開いた。
「じゃあ、あんたってつまり、本当は普通の人間だったのに、中央ナントカって奴に鋼骸種にされたって訳……? 戦争のせいで、たった一人になったのを、そいつに捕まって……」
「まあ、確かに、父親がいないのも、母さんが死んだのも、戦争に巻き込まれたからかも知れないな。少なくとも、あれさえなければ母さんは、それなりの治療だって受けれただろうしな」
「そんな……そんなのって、ないじゃない! あんたの家族だけじゃなくて、体まで奪うだなんて……中央ナントカって、ホントに最ッ低最ッ悪の、どクズ野朗ね!!」
はっきりと覚えていない名前を、さも汚らわしそうに吐き捨てたメリッサは、抑え切れない激情を叩きつけるように、地面を踵で強く踏み締める。
怒りに任せて地団駄を踏む彼女に、虚を突かれたカイトは思わずたじろぐ。
何故、メリッサが他人の身の上について、そこまで憤っているのかは分からない。
しかし、鼻息も荒く地面を蹴り付ける相手の姿は、まるで自分のために激怒してくれているかのようで、カイトとしても決して悪い気持ちはしなかった。
「ま、確かにあいつらも、そしてあいつらがいた世界も、正真正銘のクソッタレだったろうな。だけど、それでも俺はまだ、どちらかと言えば運が良かった方にはなるかもな」
「はぁ!? あんた、今の話のどこが、運が良かったってのよ!? バッカじゃないの!?」
「そうだな、まずは義身として、この体を与えられた事。もう一つは、この義身だったからこそ、あいつらに出会えた事が、俺にとっての幸運になるのかな」
人格と精神の破壊としての調教を受けた後、カイトには適正審査の結果を受け、内偵としての任務が与えられた。
中央政府の内偵は、機械化兵であることを悟られないため、ほぼ完全に生身の人間の外観を再現した義身を有していた。
故にカイトもまた、本来の見た目や年齢とほとんど同じ容姿を模した、潜入工作活動に特化した専用の義身を装着することとなった。
無論、人間の見た目をした義身が、直接的にカイトを救った訳ではない。
しかし、その肉体があったからこそ、彼が敵対組織への潜入に成功し、そこで彼らと出会うことが出来たのもまた事実だった。
彼らは、操り人形と化していたカイトに、再び人としての感情と心を呼び起こしてくれた。
だからこそ、彼は自身の呪縛を解き放ち、自らの運命を決められる一人の人間として、彼らと共に中央政府へと立ち向かっていけたのだった。
「あいつら……? ちょっと、私にも分かるように、ちゃんと説明しなさいよね!」
戦友達との日々を思い起こして感慨に浸るカイトに、メリッサはイライラとした口調で命令する。目くじらを立てて詰め寄る彼女に、彼は微苦笑を浮かべ、軽く肩を竦めた。
別にカイトとしても、自分と彼らとの経緯を話すのは構わない。
しかし、どうしても長い話になる以上、そのための時間を確保するためにも、まずは新しいナノマシン注入器の発見を優先すべきだった。
頭上に覗く太陽らしき恒星は、既に午後の角度へと傾いでいる。
急がなければ、今日中にナノマシン注入器自体どころか、有益な情報さえも得られずに終わってしまいかねなかった。
「まあ、そこら辺の詳しい話については、また今度にでも改めて、な。とりあえず今は、早く街に戻って聞き込みを―」
「いや、僕としても是非、その続きはここですぐに聞かせてもらいたいな」




