彼の過去
当時、混迷と混乱を極めた彼の世界では、とある列強国におけるクーデターで台頭した、『中央政府』を名乗る軍事集団が覇権を伸ばしつつあった。
その巨大武装組織は、群を抜いた軍事技術と無慈悲なまでの軍略を背景に、着実に実行支配地域を拡大していた。
彼らは支配下に置いた地域でも、独裁的で独善的な統治を行った。
その筆頭が、身寄りのない子ども達を保護の名目で拘束し、心身共に改造を施すことで従順な兵士を作り上げる、巷では『脳ミソ狩り』と呼ばれていた行為だった。
戦火が世界規模で拡大し、戦闘には直接関与していない一般市民の間でも、数えきれない程の死者が出ていた時代。
その中で、保護者である親を喪い、自分を守ってくれる国家や法も失った戦災孤児へと、中央政府は安価かつ成果の見込める『殺人兵器』としての価値を見いだした。
既に戦場においては、人工知能(AI)を搭載した完全自律型戦闘兵器(LARs)が投入・運用されてはいた。
しかし、その情報処理・状況判断・行動選択能力には未だ不完全な部分もあり、局所的な状況に置かれた場合の、対応の柔軟性に欠けるという弱点があった。
そうした、機械が機械であるが故の欠点を、中央政府は『子どもの若い脳』という、成長性に富んだ有機的な『部品』で補おうと考えたのだった。
まず、彼らは捕獲した子ども達の体を、無用な部分として切り離した。
次に、取り出した脳幹部をそれぞれ生命維持装置へと接続し、彼らを優秀な兵士へと育てるための、過剰なまでの教育と薬剤投与による人格・精神改変を施していった。
脳だけと化した子ども達は、夜も昼も無い永劫のような時間を、仮想現実(VR)の中での再教育と戦闘訓練に明け暮れた。
そして、薬剤投与でも抑えられなかった精神崩壊や、それに対する中毒症状などを乗り越え、新たな庇護者の要望に叶った能力と忠誠心を持つに至った者達は、晴れて中央政府の精鋭部隊へと参加を認められるのだった。
新たな生と義身を得た子ども達は、既に神と等しい存在となった中央政府の声に従うまま、各地の戦線へと投入されていった。
合理的に設計された強靭な鋼の肉体と、臨機応変な思考力に富んだ人間の頭脳。
それらを併せ持つ、機械化されたかつての子ども達は、確実な成果と戦果を中央政府へともたらし、以降の『脳ミソ狩り』へと一層に拍車を掛けることとなっていった。
そして、その貪欲な魔手は、幼き日のカイトもまた逃しはしなかったのだった。




