告白
それでも懸命に言葉を探す彼女に、カイトはやれやれと苦笑を漏らして肩を竦めた。
「分かった分かった、そういう事にしておくさ。何にしても、一生懸命に目指せられる夢をもっているってのは良いことだ」
「夢じゃない!! 私は、本当に、大魔術師なんだから!! あんた、私をバカにしてんの!?」
「そんな訳はない。人が自分の未来を信じて、そこにありったけの希望を託せられるというのは、何にも増して大切で素晴らしい事だ。特に、君やあの子達みたいな、子ども達の場合は」
自分をあの少年達と同列に扱うカイトを、メリッサは憤然として睨み付ける。
それでも、彼から向けられていた、どこか羨望にも似た悲し気な眼差しに、虚を突かれた彼女は罵声を吐き出す機会を失ってしまった。
怪訝そうに眉を顰めるメリッサに、カイトは決まり悪そうに苦笑を漏らす。
居心地の悪さから側溝の方へと足を向けた彼は、眼前を流れる濁った小さな川面を眺めながら、ポツポツと言葉を紡ぎ始めた。
「俺がいた所……世界は、平和なんて言葉を誰もが忘れてしまった、暴力と戦禍に満ちた場所だった。それこそ、未来に夢や希望を抱くなんて、絵空事の夢物語でしかないような、な」
「は……? いや、あんた、自分が来たのは地獄じゃないって、この前言ってたじゃ―」
「地獄、か……。こっち側での意味とは少し違うかもしれないが、俺の世界も確かに、人の生き血を啜る悪魔達がたくさん棲む『地獄』に違いないんだろうな」
カイトの意味深かつ持って回った物言いに、メリッサは戸惑いから目を瞬かせる。
発言の意図を汲み取れないでいる彼女に、カイトは少しの間を挟み、その真意を語った。
「俺の世界では、かつて全ての国を巻き込んだ、とても大きな戦争があった。そして、長きに渡って有りとあらゆる土地を焼いた戦火は、そこに住んでいた人達の生活から社会、命まで全てを奪い尽くし、法も秩序もない不毛の荒野を残した。俺が生まれたのは、そんな鉄と炎の嵐が荒れ狂った後の、血と暴力に溢れた世界だった」
「……そう言えば、あんた、自分は鋼骸種じゃなくて人間だって言ってたけど、あんたの世界の人って、もしかして皆あんたみたいな感じだったりするの?」
「いいや、まさか。どっちの世界も、ほとんど変わらないさ。信じられないかもしれないが、俺だって昔は、君やルチアや他の人と同じ、普通の人間だっただんぜ」
「はっ……? いや、でもあんたの体って、鋼骸種の―」
「俺のこの肉体は、後から付加された、義身という装備なんだ。もっとも、俺本来の物は脳とか脊髄以外には何もないから、ある意味、俺の方が追加装備になるのかもしれないけどな」
項を擦り、自嘲めいた笑みを零すカイトを、メリッサは茫然と眺める。
言うべき言葉を見付けられないでいる彼女に、カイトは淡々とした口調で後を続けた。
「俺は元々、路上で生活をしていた浮浪児だった。実の父親の顔は知らないし、母さんも俺が五歳の時に、流行り病で死んだ。そうして天涯孤独の身の上になってからは、物乞いや残飯漁り、時々は盗みなんかをして、その日その日をどうにか生きていった。だが、そんな生き地獄みたいな日々も、あの『脳ミソ狩り』で捕まった後に比べれば、まだ天国に思えたよ」




