魔女審問
カイトの左手で鈍い光沢を放つ、複雑な構造を備えた鉄の塊を、ルチアはおずおずとその持ち主の顔と見比べる。
「これって……ルチアのところにあった、鋼骸器じゃない? でも確か、これは壊れていて全然動かない分だって、前に彼女から聞いた気がするんだけど……」
「この銃には、使う者を判別する、簡易的な指紋認証システムが用いられている。使用者として登録のされていない彼女には使えるはずもないし、破損していると判断しても仕方ないさ」
「うん……? ま、まあ、あんたはこの前も鋼骸器を使ってたし、それがあんたの能力ってことね。じゃあ、さっきルルクの実を爆発させたのも、ギスティアの奴と戦った時のと同じ方法でやったのね?」
「大体は、な。だが、前に使った武器は撃ち出す弾自体が爆発するタイプだったが、これが発射するのは特殊合金弾頭……つまり、ただの金属の塊だ。それでも、あの木の実がまるで爆発したように見せかけるだけなら、これで撃ち抜くだけでも効果は充分だったはずだ。特に、その相手が銃器の存在なんて知るはずもない、思い込みの激しい子どもであれば、尚更にな」
カイトは実際に行使した銃を示しながら、なるべく簡単な言葉を選び、事の次第をメリッサへと披露する。
それでも、カイトの世界の兵器について何の前知識もない彼女には、そんな分かりやすく噛み砕かれた説明でも、ほとんど理解の助けにはならなかった。
メリッサは、まるで異界の言語で作られた呪文を聞かされるように、唇を薄く開いたまま細かい瞬きを繰り返していた。
それから、彼女は思考を放棄するみたいに数回左右へ頭を振ると、気を取り直した明るい面持ちとなり、小さく握った拳でカイトの胸元を軽く小突いた。
「まあ、何だか良くは分からないけど、要はその鋼骸器を使って、上手くあのガキ共を騙したってことね! それはそうと、自分からご主人様を盛り立てる演技までするなんて、ちょっとだけど見直したわ。あんたもなかなか、可愛いとこがあるじゃないの」
「言っておくが、俺があんな下手な芝居まで打ったのは、仮にも協力者である君が、年下の子ども達にいじめられているのを見ているのが不憫だったからだ。まさか、あれだけ魔法だとか契約だとか言っておきながら、そういったものをひとつも使えないだなんて、正直驚きを通り越して呆れ果てたぞ」
若干の軽蔑を込めた苦言を口にしながら、カイトは冷ややかな苦笑を頬へと刻む。
容赦のない皮肉の文句と合わせ、頭上から差される彼の脱力感に満ちた眼差しに、メリッサの顔はさっと怒りの赤に染まった。
「ちっ、違うわ、バカ言ってんじゃないわよ!! あれは、あの何にも知らないクソガキ共が、勝手そう喚いてるだけ! そんな、根拠もへったくれもないものを信じるなんて、もしかしてあんたもあいつらと同じバカなの、アホなの!?」
「だが、それならどうしてあの時、彼らに君の得意な魔法とやらを見せなかった? 君が本当に『偉大な魔術師の卵』なら、さっきの俺以上に凄い事だって、簡単に出来るはずじゃないか?」
「だから、それは……あ、あいつらのためなんかに、わざわざ疲れることはしたくなかったからよ! 良い? 魔法ってのは、高度な技術や知識と同じ位に、強い信念がなくちゃいけないの! 要は、使う時の心ってのが大事なの! あんなマセガキ達に、わざわざそんな気持ちになんかなれる訳ないじゃない! てか、そもそも魔法は人間の英知の結晶である神秘的な存在なんだから、むやみやたらに使ったりするのがそもそも間違いで、だから、それから―」
躍起になって述べられるメリッサの反論は、しかし話の軸も定まらず、口調もしどろもどろとした頼りないものだった。




