種明かし
後ろを顧みることもなく、一定の歩調を保ち続けていたメリッサは、不意に海とは真逆の方向に伸びる脇道へと足を踏み入れる。
そこは、ルチアの鍛冶店が面していたのと同じ、住宅地を縫うように敷かれた裏路地だった。
左右を地の粗い煉瓦の壁面で挟まれた細い道を、メリッサは黙々と奥に突き進んでいく。
重く湿った磯の香りが漂う歩道の脇には、泥臭い水の流れる、幅の広い側溝が横たわっていた。
暗がりから立ち昇る微かな流水の音に、背後に聞こえていた港の喧騒は、徐々に呑み込まれて小さくなっていく。
そして、周囲から人々の声と気配が、常人では完全に感知できない程に消え去った頃。
それまで迷いのない前進を続けていたメリッサが、突然に道の途中で足を止めると、そのまま肩を小刻みに振るわせ始めた。
不可解な行動を見せる先導者に、カイトは妙な不安を覚えて歩み寄る。
小走りで近寄ってくる彼に、メリッサは左の踵を軸にし、軽やかな回転で後ろを振り向く。
そこにあったのは、両の頬へと真っ赤な歓喜の朱を差した、だらしなく笑みの形に緩みきった愉悦の表情だった。
虚を突かれてたじろぐカイトを前に、彼女は光り輝く両目を細め、割れんばかりの大きな笑い声を爆発させた。
「あっはははははははははっ!! ねぇねぇ見た、あいつらの驚いた顔!? こう、口をポカーンと開けて、目なんてクワッてひん剥いちゃってて、もうケッサク!! ミッシェルのやつなんて、私が横を通る時に、ヒイッ、なんてちっちゃく悲鳴まで上げてたのよ! ホント、あの時の今にも泣き出しそうな情けない顔ったら、アハハハッ、何度思い出しても笑えてくるわ!」
そう言いながら、メリッサは両手で文字通りに腹を抱え、おかしくて堪らないといった風に身を捩じらせて笑い転げる。
激しい発作に襲われる彼女の目には、じんわりと小さな涙の粒さえ浮かんでおり、そこには先程の子ども達を気遣う様子は欠片もない。
だが、メリッサの相貌に広がる煌めきは、どこまでも純粋で透明だった。
そして、それはまるで意地悪な友達に仕返しをして喜ぶ、初心な少女そのものの反応に、カイトには感じられた。
二人以外には誰の目もない暗がりの中、彼女は小さく跳びはねながら感情を爆発させる。
そんな、普段の気位の高さからは想像もつかない、年相応な女の子らしい振る舞いを見せる相手を、カイトはどこか自分の心も弾むような、不思議な心地で眺めていた。
カイトが新鮮な驚きをもって見守る中、メリッサはふと真顔に戻り、疑問に満ちた眼差しを彼の方へと上げた。
「そういえば、さっきあいつらの一人が持ってたルルクの実……あんた、あれをどうやって爆発させたの? まさか、本当に爆弾に変えたって訳じゃ―」
「もちろん、違うさ。彼らには悪いが、ちょっとこれで小細工を仕掛けさせてもらったのさ」
そう言うと、カイトは点となっている彼女の目の前へと、上着の内に隠していた制音装置付きの自動拳銃を差し出した。
それは、彼がルチアの店を後にする際、彼女の作業場から自衛のために持ち出していた物だった。




