先生が出るまでもありません
何の前触れもなく四散する果実に、子ども達の間からは小さく息を呑む音や悲鳴が上がる。
降り掛かる果汁や果肉の欠片にも微動だにせず、彼らは極限近くまで見開かれた眼で、目の前に落ちてくる爆弾を追う。
鈍い音を立てて地面に落ちたその残骸は、本体の半分近くが消滅し、爆発による荒く生々しい傷口を剥き出しにしていた。
氷のような沈黙が降りる中、カイトは徐にそれを拾い上げる。
彼は甘い香りの立ち昇る果実の断面を、神妙な面持ちで眺め回す。
続けて、安堵の表情から深い溜息を漏らすと、傍目にも分かりやすく胸を撫で下ろしてみせた。
「やれやれ、危なかった……あと少し遅かったら、彼の顔も半分こになっていたところです。まったく、馬鹿にされたことへの仕返しとはいえ、これは少々やり過ぎですよ、先生」
カイトは苦み走った顔付きを作り、隣に立つメリッサへと苦言を呈した。
一方、そんな彼からの注意に対し、他の子ども達と同じく呆けきった表情となっていた彼女は、意味が分からず口を半開きにする。
狐に抓まれた面立ちで棒立ちとなっている彼女に、カイトは子ども達の側からは見えない、左目の方で小さく瞬きを送る。
彼からの意味深な合図に、メリッサの眉間には細かい皺が寄る。
間を置かず、その疑念を体言する数本の溝は消え、代わりに彼女の色を失っていた頬には、見る見るうちに本来の血色と柔らかさが戻っていった。
やがて、彼女は緩く弓なりに曲げた唇から、くぐもった含み笑いを漏らし始める。
そして、完全に生気を取り戻した顔を、固まってしまっている子ども達の方へと振り向けると、勝ち誇った満面の笑みで彼らをぐるりと睥睨した。
「どう、これで分かったでしょ? 今までは、あなた達のためなんかにわざわざ力を使うのが嫌だっただけ。私がちょ~っと本気を出せば、これくらいのこと、簡単に出来ちゃうんだから!」
メリッサは得意気に胸を張りながら、抑揚を付けた声音で噛んで含めるようにそう告げる。
片や、その自尊心に満ちた説明を受ける子ども達は、未だに力の抜けた夢見心地の顔付きのまま、瞬きを忘れた眼で彼女を呆然と見つめていた。
「さてと、余計な面倒事も済んだし、そろそろ行くわよカイト。まったく、こっちは遊んでる暇なんてないっていうのに、無駄な手間を掛けさせられちゃったわ。あんた達、いい? もし今度、また私の手を煩わせたり、嘘の話をバラまいたりなんかしてみなさい。次はルルクの実じゃなくて、あんた達の頭を爆弾にしちゃうんだからね! 覚えておきなさい!」
凄みを利かせたメリッサからの警告に、子ども達は揃って土気色の顔へと青みを差す。
その内の一人であるお下げ髪の少女は、自分の頭を守るためか、慌てて両手を頭上へと乗せていた。
怯えと困惑の色を滲ませた幾つもの瞳に見守られる中、メリッサはそれらをまるで意に介さず、自分を取り囲む子ども達の輪を抜けていく。
肩で風を切るように舗道の先へと進んでいく彼女に、カイトはつい口元が緩みそうになるのを堪えながら、急ぎ足で追いすがる。
その際、彼が背中で感じていた凍るような熱い視線の気配は、同じ海岸沿いの道を歩いている間、絶えず途切れることはなかった。




