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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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先生が出るまでもありません

 何の前触れもなく四散する果実に、子ども達の間からは小さく息を呑む音や悲鳴が上がる。

 降り掛かる果汁や果肉の欠片にも微動(びどう)だにせず、彼らは極限近くまで見開かれた眼で、目の前に落ちてくる爆弾を追う。

 鈍い音を立てて地面に落ちたその残骸は、本体の半分近くが消滅し、爆発による荒く生々しい傷口を剥き出しにしていた。

 

 氷のような沈黙が降りる中、カイトは(おもむろ)にそれを拾い上げる。

 彼は甘い香りの立ち昇る果実の断面を、神妙な面持ちで眺め回す。

 続けて、安堵(あんど)の表情から深い溜息を漏らすと、傍目(はため)にも分かりやすく胸を撫で下ろしてみせた。


「やれやれ、危なかった……あと少し遅かったら、彼の顔も半分こになっていたところです。まったく、馬鹿にされたことへの仕返しとはいえ、これは少々やり過ぎですよ、先生(マスター)


 カイトは苦み走った顔付きを作り、隣に立つメリッサへと苦言を(てい)した。

 一方、そんな彼からの注意に対し、他の子ども達と同じく(ほう)けきった表情となっていた彼女は、意味が分からず口を半開きにする。


 狐に(つま)まれた面立ちで棒立ちとなっている彼女に、カイトは子ども達の側からは見えない、左目の方で小さく瞬き(ウィンク)を送る。

 彼からの意味深な合図(アイコンタクト)に、メリッサの眉間には細かい皺が寄る。

 間を置かず、その疑念を体言する数本の溝は消え、代わりに彼女の色を失っていた頬には、見る見るうちに本来の血色と柔らかさが戻っていった。


 やがて、彼女は(ゆる)く弓なりに曲げた唇から、くぐもった含み笑いを漏らし始める。

 そして、完全に生気を取り戻した顔を、固まってしまっている子ども達の方へと振り向けると、勝ち誇った満面の笑みで彼らをぐるりと睥睨(へいげい)した。


「どう、これで分かったでしょ? 今までは、あなた達のためなんかにわざわざ力を使うのが嫌だっただけ。私がちょ~っと本気を出せば、これくらいのこと、簡単に出来ちゃうんだから!」


 メリッサは得意気に胸を張りながら、抑揚を付けた声音で噛んで含めるようにそう告げる。

 片や、その自尊心に満ちた説明を受ける子ども達は、未だに力の抜けた夢見心地の顔付きのまま、瞬きを忘れた眼で彼女を呆然と見つめていた。


「さてと、余計な面倒事も済んだし、そろそろ行くわよカイト。まったく、こっちは遊んでる暇なんてないっていうのに、無駄な手間を掛けさせられちゃったわ。あんた達、いい? もし今度、また私の手を(わずら)わせたり、嘘の話をバラまいたりなんかしてみなさい。次はルルクの実じゃなくて、あんた達の頭を爆弾にしちゃうんだからね! 覚えておきなさい!」


 凄みを利かせたメリッサからの警告に、子ども達は揃って土気色の顔へと青みを差す。

 その内の一人であるお下げ髪の少女は、自分の頭を守るためか、慌てて両手を頭上へと乗せていた。


 怯えと困惑の色を滲ませた幾つもの瞳に見守られる中、メリッサはそれらをまるで意に介さず、自分を取り囲む子ども達の輪を抜けていく。

 肩で風を切るように舗道の先へと進んでいく彼女に、カイトはつい口元が緩みそうになるのを(こら)えながら、急ぎ足で追いすがる。

 その際、彼が背中で感じていた凍るような熱い視線の気配は、同じ海岸沿いの道を歩いている間、絶えず途切れることはなかった。

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