魔法少女の弟子
カイトは、メリッサと街の子ども達のグループとの間に、どのような因縁があるのかは知らない。
それでも、しばらく隣で彼らのやり取りを伺っている間に、問題となっている粗方の事情は把握できた。
彼は周りを囲む子ども達の人垣に目を配り、癖っ毛の少年が齧りかけのリンゴらしき果実を手にしているのを認める。そして、数秒の間思索を巡らせて案を練ると、業とらしく大きな溜息を吐いて、彼らの注意を自分の方へと逸らした。
「やれやれ、聞いちゃいられないな……。まさか、彼女を偽物の魔女扱いするなんて、幾ら物を知らない子どもとは言え、無知とは何とも怖ろしいものだな」
「あ? そういや、誰だよお前? この辺じゃ見かけない顔だけど、よその町の奴か?」
「俺か? 俺は、そうだな……このメリッサ先生の素晴らしい魔術の腕に惚れ込んで、彼女の一番弟子にしてもらった、しがない旅人ってところかな」
「弟子ぃ!? こいつのぉ!? うそぉ、冗談だろ!?」
「だったら、ニセ魔女の弟子だから、こいつはニセ弟子だな! ニーセ弟子! ニーセ弟子!」
メリッサに師事していると明かすカイトに、少年達はまるで新しい遊び道具を見付けたかのように色めき立ち、小馬鹿にした視線や発言を投げつけ始める。
予想外の展開に目を丸くするメリッサに、カイトは横目でちらりと目配せをし、ここは自分に一任するよう合図をする。
子ども達の容赦のない好奇の眼差しに曝される中、彼は軽い咳払いを挟むと、もったいぶった言い回しで彼らへと語りかけた。
「いや、彼女は紛れもなく本物の魔法使いさ。だから、俺を偽物の弟子なんて呼ぶのは、いろんな意味で間違いだぞ。不正確で、なおかつ失礼なその呼び方は、止めてもらいたいな」
「はぁ!? 聞いたかよ、こいつがホンモノの魔法使いだってさ! お前、そいつに騙されてんだよ! フツー、すぐにウソだって気付くだろ!」
「やっぱ、こいつもウソつきなんじゃねーの? こいつ、ホントはウソのつき方とかを勉強したくて、このニセ魔女に弟子入りしてるんじゃ―」
「そこ、食うんじゃない!! 死にたいのか!?」
不意に、カイトの怒号が辺りへと響き渡り、メリッサと少年達は揃って小さく跳び上がる。
彼らが水を打ったように静まり返る中、カイトは手にした果実を口に運びかけた態勢で固まっている一人の少年を、射竦めるようにまっすぐ指差していた。
「ふう、危なかったな。気付いていなかっただろうが、実はその果物、ついさっきこのメリッサ先生が魔法で『爆弾』に変えていたんだ。君達、ちょっと彼女をからかい過ぎたな」
「は、えっ……な、何だよ、それ? つまらないウソ、ついてんじゃねぇよ……」
カイトからの不意打ちでの指摘に、果物を持った少年は下らないといった風に鼻で笑う。
しかし、余裕を取り繕っている彼の目は、そこはかとない不安と動揺からか、自分の右手にある青い実をそれとなく視界の端に置き続けていた。
「言っておくが、俺はさっきから一度も嘘は言ってはいないぞ。だが、そんなに疑うというのなら、今から証拠を見せてやろう。さあ、その『爆弾』を、こっちに渡してくれ」
有無を言わせない調子で左手を差し出すカイトに、癖っ毛の少年は嫌そうな表情を見せながらも、おずおずと果実を手渡す。
その横では、「バクダンって何?」と疑問を浮かべるお下げ髪の少女に、「ボンってなって、火がパアってなるやつだよ」と、隣の背の高い少年が小声で説明していた。
カイトは手渡された拳大の果物を、これ見よがしに顔の前へと掲げる。
何の変哲もないその果実へと、猜疑や奇異、好奇など様々な色の視線が注がれる。
全員の注目が集まったのを確認したカイトは、おっかなびっくりとその青緑の皮に耳を寄せ、驚愕に凍りついた顔面で両目を見開いてみせた。
「おっと、まずい! もう時間がない、爆発するぞっ!」
そう叫ぶや否や、彼は手の平に乗せていた果物を上へと放り投げる。
中空へと緩やかに回転をしながら舞い上がる青い球体に、その軌道に合わせて子ども達の目も上へとずれる。
直後、カイトは左手を上着の裾に忍ばせていた、左腰のそれへと素早く伸ばす。
上方向への運動エネルギーを使い果たした果実は、刹那の間、宙に留まる。
瞬間、空気が勢い良く抜ける、乾いた音が上がるのと同時に、その青く丸みを帯びた身は、粘着質な悲鳴を上げて木っ端微塵に砕け散った。




