新たな刺客
無論、そうした彼の複雑な心情を、メリッサは知る由もない。
彼女は遠い目になっているカイトの背を勢い良く叩くと、細い眉を怒らせて彼の顔を覗き込んだ。
「変に強がってんじゃないわよ、このバーカ。カッコつけてるつもりかもしれないけど、ホントはめちゃくちゃ焦ってるの、私には全部お見通しなんだから。さっ、黄昏てる暇がある位なら、さっさと次の場所に行くわよ!」
「ああ……悪いな、面倒をかけて」
「ま、そういう『契約』だから仕方ないし。その代わり、あんたが動けてる間は、ちゃんと私を守りなさいよね! じゃないと、後でバラバラにして売り飛ばすわよ!」
改まった調子で礼を述べるカイトに、メリッサはついと視線を逸らし、唇を尖らせる。
それから、彼女はなぜか妙に怒らせた足取りで、道の先へと足早に駆けて行く。
後ろを振り返る素振りもなく遠ざかっていくその背中に、カイトは小さく肩を竦めて笑みを頬に刻むと、軽やかな歩調でゆっくりと後を追った。
港に沿って伸びる石畳の舗道には、筋骨隆々の体躯をした船乗りや人夫の他に、地元の育ちらしい数人の子ども達の姿があった。
いずれも薄着を身に着けている彼らは、忙しそうに荷物を運ぶ大人や、道路脇の木箱の間を縦横無尽に駆け回り、楽しげな声を響き渡らせている。
周囲の目を気にすることなく、透き通った笑顔を浮かべながら鬼ごっこへと興じているその様子に、カイトの胸には再び、熱としては探知されない温かみが広がっていった。
やがて、近くで作業をしていた男性に見咎められた彼らは、口々に黄色い悲鳴を上げながらカイト達のいる方へと一塊になって逃げてきた。
その時、正面から駆けてくる彼らを目に留めたメリッサが、「あ、ヤバイ」とつぶやいて足を止めた。
彼女は慌てて辺りを見回した後、大急ぎで後ろへと引き返す。
そして、面食らうカイトに構うことなく、彼の義身へ突進するように身を寄せると、道路側からは陰になっている位置へとその身を潜めた。
自分の半身へとしがみ付いて息を殺すメリッサに、カイトはその緊迫した気配に訳を問い質す隙も見付けられず、棒立ちとなってただ時が過ぎるのを待つ。
やがて、寄り添う形で屹立する二人の傍へと、遊び場から逃亡してきた子ども達が、小さく荒い足音を木霊させながら近付いてきた。
彼らは通り過ぎざま、見慣れない風貌のカイトへと、横目で好奇の眼差しを向けた。
それでも、土地柄として異様な風体の者には馴染みがあるからか、いずれも興味を示すことなく素通りしていった。
だが、最後尾を走っていた短髪の少年が、カイトの横を通り過ぎようとした時。
彼は通りすがりの異邦人の男の脇から、見覚えのある長い金髪が覗いているのを発見する。
直後、彼は両目を大きく見開き、勢い余ってバランスを崩しながら足を止めると、弾けるような驚きの声を轟かせた。
「あーっ、いたあっ!! おーい、皆みんな! こんなとこに、ニセ魔女がいたぞおっ!」




