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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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再契約のススメ

 取り引きを持ち掛けるメリッサは、これが公平な条件であると(こと)(さら)に強調する。

 だが、彼女の口調にそこはかとなく漂う打算的な気配や、その表情に薄っすらと浮かぶ小悪魔的な笑みは、傍目(はため)にもはっきりと見て取れた。


 現実問題として、カイトは例の襲撃者(ギスティア)の正体や能力について、現段階ではほとんど無知のままであり、有効な対処法などはまだ分かってはいない。

 また、前回の交戦(エンゲージ)においても彼を撃退したわけではなく、不意打ちでの撹乱(かくらん)によって、辛うじて撤退に成功しただけである。


 まともな武器(ウェポン)装備(アタッチメント)もなく、活動時間と運動量にも限界のある今の状態で、あの驚異的で未知数の力を持った相手と明確に敵対することは、カイトにとって決して賢明な判断とは言えなかった。

 しかし、この見知らぬ世界においてカイトが活路を見いだすには、協力者(エージェント)の存在が必要なこともまた確かである。

 そして、彼の現状と目的を全て理解し、なお且つその正体が『鋼骸種』であるとも承知している相手となれば、メリッサをおいて他に適任者はいなかった。


 最初から選択の余地がない彼女の申し出に、カイトは苦い顔付きとなって黙考する。そんな彼を眺めるメリッサの目は、相手が拒否をするはずがないと確信した、余裕に満ちた微笑の形に細められていた。

 

 本心としては、露骨にこちらの足元を見られた上で、契約内容を一方的に決められるのは非常に納得しがたい。

 それでも、他に選択肢の持ち合わせないカイトは、やがて悔し紛れに溜息を漏らし、諦観(ていかん)のこもった流し目をメリッサの方へと向けた。


「分かった、君の言う通りにしよう。正直、そこまで対等な交換条件とも思えないけどな」

「あら、そう? 別に、無理なんかしなくても良いのよ? まあ、そうなったらあんたの場合、別の助けてくれる人を探さないといけないだろうけど。こっちの世界じゃ、鋼骸種はバケモノ扱いだからバレたら大変だけど、ガンバってね~♪」

「ぐっ……だが、良いのか? 君が護身のために頼ろうとしているのは、その得体の知れない怪物なんだぞ。今は友好的で理性的な振りをしているが、いつか本性を剥き出しにして、君に襲い掛かるかもしれないぞ?」

「心配ご無用。私は戦略的な撤退も得意だから、その時はあんたがまたぶっ倒れるまで逃げおおせてやるわ。それか、いざとなったらルチアに頼んで、そのままぶっ壊してもらうから。あいつなら、貴重な部品がたくさん採れる~って、喜んでそうするかもね」


 全く(おく)する素振りもなくそう(うそぶ)くメリッサに、カイトの脳裏に先程のルチアの姿が浮かぶ。

 あの時のルチアは、文字通りの猪突猛進で傍若無人な振る舞いと共に、鋼骸機への異常なまでの執着と関心を垣間見せていた。

 そんな彼女が、喜び勇んで自分に跳び掛かってくる様を想像した彼は、込み上げる可笑しさから思わず小さく吹き出した。


 左手で顔を覆いながら笑いを懸命に押し殺す相手に、メリッサはそうした反応が返ってきた理由と意味が分からず、当惑に満ちた面持ちとなって僅かに身を引く。

 やがて、呼吸器官系ユニットの調整から息を整えたカイトは、遠巻きに自分を眺めているメリッサへと、どこか清々しささえ漂う、満足気な微笑を浮かべてみせた。


「確かに、あの彼女なら本当にやりかねないな。さすがに、俺もバラバラにされて蒐集品(コレクション)に加えられるのは嫌だし、ここは下手な真似はせず、おとなしく雇用主に従うことにしておくよ」

「何か、急に不安になってきた気もするけど……。あんた、どこか壊れちゃってる訳じゃないわよね? 真面目な話、突然暴れ始めたりなんかされたらシャレにならないんですけど」

「大丈夫だ、心配はいらない。この義身(からだ)が動く限りは、君を守ると約束するよ。もっとも、君の方もちゃんと約束を守ってくれるのであれば……だけどね」

「変に勘繰(かんぐ)ってんじゃないわよ、ガラクタのくせに。じゃあ、いくつか心配なとこもあるけど、とりあえずは契約成立ね。短い間になるかもだけど、どうぞよろしくね、『鋼骸人間』サン」

「ああ、よろしく頼むよ。言葉だけだと何だし、とりあえず握手でもしておくか?」

「別に良いけど、私の手を握り潰したりなんかしないでよね……って、あ、そっか、あんたとは左手じゃなきゃダメなんだっけ―」


 無意識に右手を差し出しかけていたメリッサは、慌ててその手を引っ込め、代わりに左手の方を差し伸べる。

 自らの勘違いを取り繕う彼女に、カイトは小さく苦笑を漏らしながら、突き出されたその肉付きの薄い手を、優しく、しっかりと握り返した。

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