越えられない壁
唐突に投げられた直接的で恫喝的なその詰問に、カイトは一瞬返答を躊躇する。
自分を見据えているメリッサの鋭い眼差しを、彼は横目でちらりと受け止める。
そして、重く小さい息を吐いて心を落ち着けた後、カイトは彼女の正面へと向き直り、誠意と力を込めて首肯した。
「そうだ。俺は君が言っていたような、『悪魔』とかでは決してない。俺は、君やルチアがそう呼んでいたような、こっちの世界における『鋼骸種』とかいう種類の存在になるはずだ」
「こっちの世界では、って……じゃあ、あんた、一体どこから来たっていうの? 地獄からじゃないって言うなら、まさか、『鋼骸種の世界』からってこと!?」
「君の理解の範疇で言うなら、それが最も妥当なところだろうな」
「そんな……鋼骸種が生息している世界だなんて、それこそ眉唾の与太話じゃないの!! それに、本当にそんな異世界空間が存在してるなら、こっち側の魔術師達の誰かが気付いているはずよ! なのに、そんな噂も全く聞かないなんて、おかしいじゃないの!」
「正直、その魔術とかいうこの世界の技術については、俺も詳しくは知らないから確かなことは言えない。だが、現にその鋼骸種の世界の出身者が、こうして君の目の前にいるんだ。俺の話が本当である証拠として、これ以上のものは無いと思うんだが?」
カイトのその端的な事実確認は、相手の反論を封印するのに充分な効果を持っていた。
反証の余地のないその問い掛けに、メリッサは口を虚しく開け閉めしながら、躍起になって返す言葉を探す。それでも、やがて自分が完全に論破されたことを悟った彼女は、眉根に寄せていた深い皺を解くと、力なく頭を振って白旗を揚げた。
「はいはい、そうよね、その通りよね。鋼骸種のあんたがそう言ってるんだから、間違いなんてあるはずなんかないわよね。疑った私がバカでした、はいスミマセン」
「やっと分かってくれたみたいで、良かったよ。おっと、因みに今のは、俺のいた世界について君が認めてくれたことについてであって、君が馬鹿とか言ってる訳じゃないから」
「うっさい、いちいち説明しなくていいわよ、そんなこと! てか、その鋼骸種の世界が本当にあるとして、そこにいたあんたはどうやってこっち側に渡ってきたのよ? 召喚魔術とかを使ってじゃないとしたら、まさか、鋼骸種はこの世界の人間の協力もなしに、自由に異世界間を行き来できるってこと?」
「いや、そうじゃない。俺がこの世界に来たのは、時空振動発生装置の暴走が原因と見て、まず間違いないだろう。俺は、こちら側で目を覚ます前、敵が起動させていた素粒子爆弾のプログラムへと介入し、その活動を沈静化させようとしていた。その過程で、その装置と連動していた時空間転移装置にも何らかの影響が及び、機能に想定外の誤作動を引き起こしてしまったんだろう。あの時、あいつは時空間移動を可能にするとされる、不可知の物質であるはずの素粒子第三類を発見したと言っていた。奴のその言葉を信じるなら、あいつはその力を用いて、本当に過去の時間軸へと移動しようとしていたはずだ。だが、実際に発生した時空間転移に起因する衝撃波に巻き込まれた俺は、俺の知る過去とは明らかに異なる、未知の概念や歴史が存在するこの場所へと飛ばされた。これはあくまで俺の個人的な想像だが、おそらくあの時動作不良に陥った時空間転移装置は、対象を過去や未来などの時空間ではなく、全く別の次元へと移してしまったんじゃないだろうか。以前、この世界は互いに感知できない、異なる空間が重なって存在していると聞いた覚えがある。だとすれば、制御不能となって本来の機能を失った時空間転移装置の転送先が、何らかの条件から異層空間としての並行世界へと変更された可能性もある訳だ。我ながら俄かには信じがたい話ではあるが、これならこの世界の人間が最新鋭の戦闘兵器を知らない理由や、悪魔や魔術といった俺の常識を超えた超自然的なものが実在している事実についても、一通りは納得のいく説明が―あっ、と……」
持論を饒舌に述べていたカイトだったが、ふと隣人の様子が目に入って言葉を濁す。
彼の滔々と流れるような発言を耳にしていたメリッサは、いつの間にか死んだ魚のような遠い目となって、その話し手の方を思考放棄した虚ろな瞳で眺めていた。




