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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第二章 追憶よりの魔手(アサルト フロム ザ パスト)
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鍛冶師、もしくは鋼骸器マニア

 思わぬ装置(デバイス)の登場に目を丸くするカイトに、ルチアはさも困っているといった風に、薄い肩をこれ見よがしに落としてみせる。


「この子なんだけど、どうにかして動かせない? あなたにもらったあの別の子のおかげで、前から作ってる試作品が、やっと完成しそうなの! だけど、そのためにはやっぱりこの子が言うことを聞いてくれないといけなくて……。そうしたら、あなたが死んでるはずの鋼骸器を生き返らせたって、メリッサが教えてくれて! だから、もしかしたら、あなたのその力なら、この子も一緒になる他の子みたいに、ちゃんと動くようになってくれるんじゃないかって、そう思って。それで、どう? この子、何とかなりそう?」


 (おもて)に出す感情を目まぐるしく変えながら、ルチアは一気呵(いっきか)(せい)に事情を説明した。

 期待と不安のない()ぜになった彼女の視線を浴びながら、カイトは自らの顔の前へと掲げられている小型発動機へと、もう一度目を落とした。

 

外見より判断する限り、その部品はカイトの世界における、外骨格型資材運搬機(パワードスーツ)などの機器の一部であった。しかし、ルチアの持つそれには、規格(スタンダード)型式(モデル)も統一性を欠いた、不恰好な修繕(リペア)の跡が窺えた。

 本来、入力(インプット)された電気信号を動力へ変換する一機関に過ぎない発動機には、使用者に与えられた許可(ライセンス)を確認する機能はない。

だが、規格外の修理が行われていたそれには、稼働に先立ってID認証を必要とする部品が一部において流用されており、その箇所が発動機の起動を妨げていたようだった。


 即座に動作不良の原因を特定したカイトは、ためらいがちに視線を上げる。発動機越しには、未だルチアが請い願うような面持ちで、息を詰めながらこちらの反応を見守っていた。

 質問も拒否も受け付けそうにない彼女の気迫に、彼は少し納得がいかないものの、相手の奇妙な要求を受け入れることにした。


 カイトは窮屈そうに身を(よじ)らせ、脇に置いていた左腕を胸の前へと挙げる。

 それから、上腕部に内蔵されたハッキングシステムを発動させ、指先の端子より発動機の回路へと侵入すると、装置内の使用制限(リミッター)を片端から解除していった。

 ID認証を要する部位は二ヶ所しかなく、接続を無制限(アクセスフリー)とするのに、さほどの時間は要らなかった。


 相互連動のための伝達回路(バイパス)が確立した発動機は、カイトによる操作に応えて、小さな駆動音を継ぎ接ぎの表装(ボディ)の合間より漏らす。

 掌へと小刻みな振動が伝わった瞬間、ルチアの全身はまるで電流が走ったかのように、鋭く強い震えに竦み上がる。

 彼女は驚きと喜びに満ちた声を(ほとばし)らせると、自分が組み敷いているカイトへと、叩き付けるような強烈で熱烈な抱擁(ほうよう)を送った。


「動いた!? やった、あはははっ、凄い凄いすごぉおいっっ!! ありがとうカイト、ホントにほんんんんんんとーーーーにっ、ありがとうっ!! 大好きっ、愛してるうっ!!」

「あ、うあ……いや、まあ、どういたしまして―」

「ようしっ、これで必要な子は全部揃った! 後は皆を一緒にして、あの子を完成させるだけっ!! あっ、それからカイト、あなたには後でいろいろ訊きたいこととか、やって欲しいことがあるから、勝手にいなくなったりしないでね!! 絶対だからね、約束だからね!!」


 最後に、上擦った口調でそう念押しをしたルチアは、面食らい固まっているカイトの上より跳び下りる。そして、仏頂面で腕組みをしていたメリッサを、目にも入らない様子で再び跳ね飛ばすと、そのまま猛烈な勢いで部屋の外へと跳び出して行った。


 彼女の力強く忙しない足音は、瞬く間に廊下の先へと消えていく。

 やがて訪れた台風一過の静けさに、カイトはゆっくりと息を吐いて、肩の緊張を解く。

 一方、よろめきながら床より体を起こしたメリッサは、嵐の去っていった扉を一瞥(いちべつ)し、飛び切り不機嫌そうな顔付きとなって毒づいた。


「ああっ、もう、あの鋼骸器バカっ……! 自分の趣味のことになったら、何でもかんでも見境なしなんだから! いい加減ちょっとは、周りにも気を遣いなさいっての―」

「あはは……彼女は、いつもあんな感じなのか?」

「え? ああ、まあそうね。いつかは、鋼骸器を探しに貴族の私有地に入ったりとか、この町に来た闇商人と一悶着起こしたりとか、けっこう派手なこともやってるし。そのせいで、こっちも余計な面倒事に巻き込まれたりもするんだから、堪ったもんじゃないわよ、まったく」

「さっきので薄々分かってはいたけど、やっぱり、だいぶ変わった人みたいだな」

「だいぶ、なんてもんじゃないっての! 変人とか奇人とかって言葉は、あいつのためにあるに違いないわ。あんな訳の分からない性格だから、普段から付き合ってくれるような友人も、(いと)しの鋼骸器以外には、私くらいしかいないんだし」

「へぇ……君が、そんな気難しい人と仲良くできるなんて、ちょっと驚きだな」

「はぁ? どういう意味よ、それ? 言っとくけど、私も別に好きで関わってるんじゃないし。ただ、森なんかに落ちてるあのガラクタを、あいつが良い値で買い取ってくれるから仕方なく……って、そうだった、これをあんたに渡すよう、ルチアから頼まれてたんだった」


 自らの交友関係について弁明をしていたメリッサは、不意に何かを思い出したように上着をまさぐり始める。

 少しして、胸元の内ポケットから何かを取り出した彼女の手には、カイトがルチアより譲り受けたのと同じ種類の、四・五本程のナノマシン注入器が握られていた。

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