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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第1章 魔女と機巧男(ウィッチ アンド サイボーグ)
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野望の胎動

 瞬間、雨音にも似た、ネックマンの奏でていた打突(タイプ)音が止まる。


 彼は広げていた数十本の鉄の指を、素早く自身の下へと引き戻す。続けて、台座を乗せる四つの車輪を連動させて操り、真後ろにいたアビゲイルの方へと向き直った。


 その表情は、周囲の明かりが逆光となって陰になり、彼女の立つ位置からは窺えない。

 それでも、アビゲイルには黒く塗り潰された相手の顔が、何故か激しい動揺と共に歓喜の笑みを浮かべているような、そんな錯覚を抱いた。


「ほう……それについては、初耳だ。どうして、その看過されざるべき重要な情報が、よりにもよって私のところに降りてきていない? よもや、領主殿か側近達の判断か?」

「いいえ、この件については、まだ彼らには伝えていないわ。私自身、ギスティアからのこの報告を、どう扱って良いか分からない。だから、まずはこの分野についての専門であるあなたに、意見を伺っておこうと思ったのよ」


 実際、鋼骸器を操るという第三者の出現は、アビゲイルにとって予想外に過ぎる事案だった。

 加えて、この不測の事態は、グランドール公とその懐刀(ブレーン)である側近達に動揺と混乱を与え、例の「計画」の進展に致命的な影響をもたらしかねない恐れがあった。


 もしそうなれば、「計画」と一体となって進行している自分の目的もまた、最悪の場合破綻を迎えてしまうかもしれない。

 そんな危惧を抱いたからこそ、彼女は状況を冷静に分析し、合理的な対応策を講じ得るネックマンへと、自らの主よりも先にこの事を報告するという独断に及んだのだった。


 アビゲイルは秘かに固唾を呑みながら、秘匿情報を伝えた相手の反応を見守る。

 鋭い眼光を浴びせつつ、自らの応答を待ち受ける彼女に対し、ネックマンはあからさまな余裕と愉悦の色を含んだ声音となって問いかけた。


「一つ、確認までに聞かせてくれ。もしや、その鋼骸器を自由に行使したという者は、右腕が肩の辺りから欠損している、黒い髪に異国風の身なりをした若い男だったのではないか?」


 そこはかとなく確信を持ったその問いに、アビゲイルは息を詰まらせる。

 彼が口にした謎の妨害者の身体的特徴は、彼女がギスティアから伝え聞いていた内容と、完全に一致していた。


「……ええ、その通りよ。答えなさいネックマン、一体彼は何者で、どうしてあの子を守っているの? 分かっている事があれば、隠すような真似はせずに全て話して―」


 思わせ振りな科白(セリフ)と物腰で、事態への関与をそれとなく(ほの)めかすネックマンに、アビゲイルは質問の口調を一層に固いものへと変える。

 しかし、彼の真意を引き出そうとした彼女の詰問は、鋼骸器の怪光に照らし上げられる部屋へと不意に響き渡った、轟々としたネックマンの笑声によって打ち消された。


 これまで、ネックマンは自らの感情を表には出すことはほとんどなく、その表情も常に苦み走った仏頂面を保っていた。

 そんな人間的な喜怒哀楽の有無さえ疑わしかった彼が、肉体で唯一柔軟性を持った部位である顔面へと大小様々な皺を刻みながら、有らん限りに大口を開けて大笑いをしていた。


 普段、彼はどこか自分の座している台座の付近より言葉を発しており、会話の際にも口を用いることはなかった。

 だからこそ、そんな相手が白い肉厚の歯を剥き出しにし、可笑しくて堪らないといった風に感情を爆発させている光景は、アビゲイルにとって問うべき内容を失念してしまう程の、恐怖めいた強烈な違和感に満ち満ちていた。


 やがて、一頻(ひとしき)哄笑(こうしょう)を上げたネックマンは、最後に満足そうに溜息を漏らして口を閉ざす。

 そして、青褪めた顔で自分を凝視しているアビゲイルと視線を合わせると、右の口角のみを高く吊り上げた、(いびつ)で不敵な微笑を浮かべた。


「なるほど、状況は理解した。悪いが、この件は今後、私に一任させてもらいたい。問題の邪魔者については、君の立場に差し障りが無いよう、こちらで上手く上へと伝えておこう」

「あなたが、直接に対応を……!? まさか、「計画」に支障を来たすかもしれない相手だとでも言うの!?」

「その可能性は、大いにある。だが、奴はある意味において、今回の「計画」の最後にして最も重要な断片(ピース)ともなる存在だ。それが揃ったということは、私達にとっては恐るべき凶報でもありながら、また同時に待ちに待った吉報でもある。そう、これは正に来るべきして来た試練であり、我々を繋ぐ逃れようのない宿命なのだよ。例え、それが異なる時や空間、そして世界であっても断ち切れない程の、な」


 最後にそう思わせ振りな文句を呟くと、「ネックマン」は相手の反応を待たずに台車を真後ろへと返し、先程までの作業へと戻る。

 しかしながら、無言で多数の鉄の爪を繰る、その無機質な光沢を放つ背には、前とは明らかに異なる雰囲気が漂っていた。


 少なくとも、メリッサの下に現れた正体不明の青年の存在は、場合によっては「計画」を阻害する危険性を孕みつつも、その推進において不可欠であるということは、アビゲイルも(おぼろ)げに理解はできた。

 一方で、彼の放った意図の掴めない謎の文言(もんごん)と、過剰なまでに感情を発露させた奇妙な反応。

 それらを目にも耳にも触れた彼女は、眼前の相手へと一層の嫌悪と不快を覚えつつ、自身の中で形容し難い恐怖心が湧き起こってくるのを確かに感じた。


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