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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第1章 魔女と機巧男(ウィッチ アンド サイボーグ)
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首だけの男

 部屋全体を(おぼろ)に照らしていた乳白色の光は、今は床へと乱立している巨大な円筒形の容器から放たれる、仄暗く重い緑青(ろくしょう)へと色を転じている。

 また、その鈍い緑色に照らし上げられる広がりのある室内は、そこらじゅうに用途の知れない鋼骸器が鎮座し、その間を埋め尽くすように黒い触手状の何か(ケーブル)が床へと張られていた。


「おやおや、ノックもなしにご来訪とは……。どうやら(ほま)れ高き我らが魔導師殿は、常日頃の気品さを失念してしまう程の、私への火急の案件を抱えておられるらしい」


 様相を一変させた周囲の光景へと、動じる素振りもなく鳶色(とびいろ)の瞳を彷徨(さまよ)わせていたアビゲイルに、どこからか(わざ)とらしい驚嘆を覗かせる男の声が掛けられる。


 語尾に反響の余韻を引くその声の方に、彼女はすっと視線を向ける。

 そこには、自身を囲む複数の光を放つ文字板(コントロールパネルを、胴体である長方形の台座から伸びる、数十本の鉄の指(アーム)で目まぐるしく手繰っている、『ネックマン』の背中のない後ろ姿があった。


 魔導士もしくは魔女として、魔術という超常の(ことわり)を体得しているアビゲイルは、異形の者や術に対して、少なからざる理解と許容の態勢を示すことはできた。

 だが、彼と初めて顔を合わせてから、既に半年程が経った現在。

 彼女は数多(あまた)の鋼骸器をまるで我が物のように自在に操る、頭部のみで生存し続けているその得体の知れない相手に、未だに緊張と警戒を完全には解けないでいた。


 その存在を知る者達から『ネックマン』と呼ばれるその男について、アビゲイルはさほど多くは知らない。

 ただ、彼が異界の物であるはずの鋼骸器を思いのままに従えるという、魔術とは異なる人外の技を行使することができるということ。また、自分が魔導士として登用されたのは、魔術の知識を得たいとする彼の意向によるものであったこと。

 そして、彼の力に庇護者(パトロン)であるグランドール公が目を付けたのを契機に、例の「計画」が始動した経緯については、成り行き上自然と彼女の耳にも入ってきていた事柄であった。


 アビゲイルは『ネックマン』の正体や出自に、知的な興味と好奇心を持たない訳ではない。

 しかし、彼女は自分の目的のため、彼の謎めいた能力を利用できればそれで良く、必要以上に私的で人間的な関わりを持つつもりは毛頭なかった。


 だからこそ、アビゲイルは理由や目的もさほど詮索することなく、彼が求めるままに魔法の力や技術を提供してきたのであった。

 そうした、敢えて距離を置いている相手から投げられた皮肉めいた文句に、アビゲイルは親しみを(よそお)った返答を無表情のままに口に出す。


「あら、ごめんなさい。空間転移の魔法を使うと、どうしてもドアを通り過ぎてしまうのよ。今度からは腕だけ先に移動させて、前もってノックをしておくことにするわ」

「それはさておき、用件は何だ? わざわざ、他の者達の目を逃れてまでここへとやってきたのだ。何かしら急を要する、しかも我々で内密に処理したい案件があるのではないか?」


 相手から振られた冗談に乗る様子もなく、ネックマンは早々に話題の流れを本題へと変える。

 その人間味の欠けた冷淡さと、思考の読めない勘の鋭さに、アビゲイルは薄気味の悪さを覚える。

 彼へと対する不信感と嫌悪感を更に強めつつ、彼女は平淡な響きとなった口調で、簡潔に訪問の目的を告げた。


「ギスティアが、目標の捕獲に失敗したわ。それについては、とっくにあなたの耳にも入っているんじゃないかしら?」

「ああ、連絡は受けている。あの彼が小娘一人も捕えられずに逃がすとは、(にわ)かには信じがたかったがね。そのメリッサとかいう娘、さすがは君の見込んだ逸材というところなのかな」

「実は、彼女の潜伏先を特定した際、正体不明の相手からの妨害を受けたらしいわ。ギスティアからの報告によると、その相手は人間離れした身体能力を持っていただけでなく、あなたと同じように鋼骸器を自在に扱っていたそうよ」

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