暴れん坊の埋葬者
形も音もなく全身を刺し貫いた攻撃に、カイトは肺の空気を全て絞り出されながら、後方へ軽々と吹き飛ばされる。何が起こったのか分からないまま宙を舞った彼は、全身を嬲る凄まじい衝撃波と共に水車小屋へと激突した。
無色のエネルギー体は捕えた獲物を咥えたまま、煉瓦の壁を破って小屋の中へと突貫する。
内部より巻き起こる暴威の嵐に、既に外壁の半分を削られ瀕死となっていたその建物は、自重を支え切れずあっけなく崩れ落ちた。
屋内にいたカイトを押し潰し、朦々とした土煙を上げて倒壊していく家を、そこの住人であったメリッサは為す術なく茫然と眺める。やがて、彼女は先程まで巻き添えを恐れて退避していた使い魔達が、再び自分の所へと集い始めているのに気付いた。
メリッサは急いで地面から立ち上がると、素早く頭を振って周りを見回す。
使い魔達を鋭く睨み、懸命になって牽制する彼女に、相手の護衛を容易く排除してみせたギスティアは、口角を捻じり上げた嫌味な微笑を浮かべた。
「さて、余計な手間を取ってしまったが、ここまでだ。お前にはこのまま素直に投降してもらえると、これ以上時間を無駄にせずに済んで、こちらとしては助かるんだがな」
「はっ、冗談。おとなしくあんたに殺されるだなんて、死んでもごめんよ!」
「そうか。なら、お前を生きたままアビゲイルの所に連れて行くとしたら、俺の言うことにもおとなしく従ってもらえるのかな?」
何気なくギスティアの零した一言に、メリッサは思わず彼の方へと視線を返す。
予想外の提案に耳を疑う彼女の目には、敵意と戸惑いの混ざった複雑な色が浮かんでいた。
「……そんな出来損ない猿知恵で、私が油断するとでも思ってんの? どうせそれが本当だったとしても、あの女が直接私に手を下すとかなんとか、そんなバカみたいなオチなんでしょ?」
「言ったろ、今回は以前と事情が違うと。彼女はお前を確保さえできれば、もう命を奪う必要はないと考えている。つまりは、今回の俺は雇い主の獲物を狙う刺客ではなく、主の元へと客人を招く使用人という訳なのさ」
「そんなの、嘘よ!! あの冷酷で無慈悲でクソッタレな年増女が、今になってそんなことを言うはずなんてない! 私は、そんなデタラメな話なんか、絶対に信じないんだから!!」
眉間へと怒りの縦皺を刻み付け、彼女は激しい怨嗟の声でそう吐き捨てる。
口角泡を飛ばしながら、頑として聞く耳を持とうとしないその姿に、ギスティアは気怠そうに溜息を漏らした。
「やれやれ、相変わらず融通の全く利かない奴だ。それならこちらも実力行使で、強硬手段を取らせてもらうとするか。多少の負傷は問題ないとのことだから、暴れたら暴れるだけ痛い目に遭うことになるぞ。それが嫌なら、黙ってこっちの手に落ちな」
手短に最後通牒を突き付けたギスティアは、直後に短く小声で指示を出す。
それを耳にした使い魔達は、徐々に互いの肩を近付けていき、包囲網の中心にいたメリッサの方へとにじり寄っていった。
ゆっくりと距離を詰めてくる暗褐色の輪に、メリッサは隈なく視線を巡らせる。
しかし、蠕動しながら彼女を幾重にも取り巻き、全ての方向から直視を浴びせる使い魔達の間には、突破の可能な隙も隙間も一つとしてなかった。
完全に逃げ場のない八方塞がりの状況に、メリッサは冷汗の浮いた顔を顰め、悔し紛れに舌打ちを漏らす。彼女が脱出を諦めかけたその瞬間、無惨な瓦礫の山と化していた水車小屋が、凄まじい轟音を上げて内側より弾け飛んだ。
突如として虚空へと巻き上げられる木材や煉瓦の破片に、庭にいた一同は揃って小屋の方へと注意を向ける。中央から縦に裂かれた屋根の下からは、ギスティアの攻撃によって上着を切り裂かれながらも、未だ健在であったカイトの姿が現れた。
圧し掛かっていた小屋の残骸を、カーボンナノチューブ(CNT)筋繊維による凄まじい臂力によって押し退けた彼は、メリッサ達のいる庭へと顔を上げる。
そして、予想外の展開に凍り付く彼らに向けて、カイトは片膝を突いた中腰の姿勢から、左手に携えたグレネードランチャーを発射した。




