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第百二十四話 怒れる、行かれる、星影




「浮かない顔をしているね?」

「そうですか?」




魏忠と別れ、待たせていた相手に駆け寄れば、そんなセリフを吐かれた。





「鏡があれば見せてあげたい。とても、不愉快そうな目をしている。」

「気のせいですよ・・・」




茶化すように言う東方朔に、星影も首をすくめながら答える。




「不愉快などとんでもない。」


(はらわたが煮えくり返ってるだけよっ!!)





笑顔で対応するが、星影の心は大荒れだった。






(まさか、玲春殿が結婚しちゃうなんて・・・・・!!)






普通なら、おめでたい気持ちになる。

お祝いしようと素直に思える。

でも、今回はできない。





魏忠殿の言葉を聞いてしまったから。








「良い話じゃないか、魏忠殿!そうか、玲春殿は嫁ぐのか~しかも、貴族に正妻として迎えられるなんて、玉の輿じゃないか!めでたいことだ!」

「本気でそうお思いですか・・・?」

「?そうだが?何か問題でも?」

「い、いえ・・・あなた様は、玲春と・・・ああ、いえ!それが、そうとも言い切れなくて・・・・」

「・・・・どういう意味だ?」




歯切れ悪くいう相手に、嫌な予感がした。




「いえね、『表向き』は嫁入りなんですが・・・・」

「『裏がある』というのか? 」

「その・・・・・・・・・茶器の一件でも不評を買い、今回、宮殿を抜け出して、紅嘉と行動を共にしたことを・・・・・・・必ずしも良いことだと思われないお方もいらっしゃるということで・・・」

「平陽公主様がか?」

「声が大きいですよ!」

「ならこれぐらいでいいか?・・・で?どう裏があるんだ・・・!?」




小声で聞き返せば、なおも周囲を気にしながら魏忠は言った。




「つまりですね、言いなりにならない侍女はいらないと―――――――――早い話が島流しです。」

「なんだとっ!!?」

「しー!だから、声が大きいですよ!」




抑えていた声が、怒りで大きくなる。

それに慌てながらも、魏忠が星影に言った。




「我々使用人の間では、そういうことになっているんです!玲春の嫁ぎ先にしたって、正妻と言えば正妻ですが、妻に先立たれた男の元・・・・!後妻は仕方ないですが、今上とお年も変わらない、玲春よりも年上の子供達がいる相手らしいのです。」

「なっ!?嫌がらせじゃないか!?」

「しぃいー!お静かに!ですから・・・・奥様は『見せしめ』も込めて、『恩も売りつけて』、玲春を貴族のところに売りとばすようなのです・・・・!」

「なんだそれは・・・・!?」



あのババア!

性格がひん曲がっているとは思っていたけど、そこまでしやがるのか!?

なんで、あんなババアが衛青将軍の妻なんだよっ!!



そこまで考えて気づく。



「衛青将軍は!?」

「は?」

「あの方はおっしゃった!玲春殿の立場が悪くならないよう、口を利いてくれると私におっしゃったんだぞ!?」

「はは・・・口を利くも何も、あのお方は寡黙で・・・」

「なんだと?」

「ぐは!?ちょ、くる、苦しい!胸倉掴まないで・・・!」

「お前悪口か?衛青将軍の悪口ですか?」

「ち、違いますって!え、衛青将軍も、珍しく食い下がったのですが、それが逆に奥様の逆鱗に触れまして~!」

「え?」



その言葉で、思わず、掴み上げていた相手から手を離す。

これに相手は咳き込みながら言った。



「ゴホゴホ!お、奥様は~・・・・・『肩入れするなら、そなたも敵じゃ!』と激怒され、その場を収めるために・・・・玲春も、嫁入りの話を受け入れたんですよ・・・・!」

「肩入れ・・・?敵・・・?」

「・・・・・・・それ以上は、お聞きになりますな。あなたには、恩がありますので・・・」



それですべてが理解できた。




「私か。」




私に関わったから、玲春はやもめのコブつき貴族の元へ嫁に行くことになったのか?

親子ほど年の違うあの子が、おっさんと結婚しなければならなくなったのか?




「私の・・・・せいなのだな・・・・・!?」




問いかけて見るが、相手は答えてくれない。

ただ、目だけで私を見ながら言った。





「宮中では、あなた様と玲春が親しいことは、誰でもが知る話となっております。平陽公主様のお言葉は、決して変わることはありません。せめて、どうか・・・あの子が嫁ぐまで、他人として接するようにしてください・・・」

「他人って!?私と玲春殿は、恋人などでは―――――――!」

「ないとおっしゃっても、説得力がありません。玲春は、宮殿を抜け出してあなたの見舞いに、それも夜中に無断で出かけているのです。」

「それは・・・!」

「あの子を思うのでしたら、そっとしておいてください。」

「・・・・・・・・・。」




魏忠の言葉に、最後は何も言えなかった。

宦官と女官が結婚できる話も、私が玲春殿と恋仲ではないかという噂も知っている。

でも、しょせんは噂。

真実でない以上、本人達が堂々としていれば、それでいいと思っていた。

思っていたけど・・・・・・・・






(そうはいかないのが、後宮か・・・・・・・・・!?)




外の世界とは、星影が生まれ育った場所とは違う世界。

同時に、腹立たしくて、腹立たしくて、暴れまわりたい気分になる。




(なんて女だ!私への嫌がらせのために、まだあどけない少女の人生を無茶苦茶にするとはっ!!)




そんな話を聞いて、純粋に祝福するなんてできないわよ!!




「林山、どこへ行くんだい?こっちだよ。」

「え!?」




肩を叩かれ、注意され、我に返る。




「と、東方朔殿!?」

「おやおや、みけんにしわが寄っている。よほど、よくない話をしたんだね~」

「私は別に・・・!」

「ねぇ。」

「なんですか?」

「黄藩殿は言ったよね?夕方までに戻ればいいと?」

「は?」



何を言いだすのこの人?



「そうだったよね?ね?」

「確かにそうおっしゃいましたが・・・・」

「よかった!私の利き間違いでなかったのなら、問題ないね~」




楽しそうに言うと、鼻歌を歌いながら進路を変える男。




「林山、こっちだよ。」

「え?あ、はい・・・・」




手招きされ、戸惑いながらもついて行く星影。

見送れとは言われたが、東方朔の仕事場がどこか知らなかった。

だから、彼について行くしかなかったのだけど――――――――・・・・・・



「東方朔殿・・・・」

「なんだい?」

「ここ・・・・見覚えがあるんですが?」

「あはははは!忘れてもらったら困るよ~」

「いえ、私も今、非常に困ってます!」



そう叫び、東方朔の腕を引っ張って動きを止める。



「わ!なに?」

「なにじゃないです!なんで、衛皇后さまの宮殿へ向かってるんですか―――――――!?」




東方朔を職場まで返しに行くはずが、なぜか国母の部屋まで進んでいた星影達。




「夕方までに変えればいいんだよね?ご挨拶していこうよ。」

「私は結構です!あなただけいかれてはどうですか!?」

「衛皇后は、君を気に入っていたよ~夫婦そろって気に入られ、良いことじゃないか~?」

「そういう問題じゃないです!もう知りません!後はあなた1人で勝手にして下さい!私はこれで失礼を――――」


「林山?」




東方朔から手を離した瞬間、別の誰かに名前を呼ばれた。





「やっぱり、林山ではないか!」

「げ!?こ、皇太子殿下・・・・・・・・!?」






いたのは、武具をつけた大男二人を両脇に従えている皇太子・劉拠。

星影を見るなり、嬉しそうに駆け寄ってきた。




「こんなところで会うとは、奇遇ではないか!もしや、東方朔と一緒に、母を見舞ってくれるのか?」

「違います!見舞うのは~」

「私がお見舞いで、林山くんはお礼を申し上げに行くんですよ。」

「東方朔殿!?」

「礼、とな?」

「はい!林山くん、私が衛皇后さまの治療をしていると知って、国母であるお方の治療医から薬を出して頂いて申し訳ない、お詫びとお礼をしたいと言ってね~」

「な・・・!?」

「ああ、そうだったのか!林山、東方朔は母以外も視ているから、気にしなくていいんだよ?」

「あ、いえ、その・・・」

「私もこれから、母上にお会いするところだったんだ。ともに参ろう!」

「ええ!?いや、しかし!」

「遠慮はいらぬ!さぁ、行こうか。」




嬉しそうに言うと、星影の肩を抱きながら歩き出す皇太子。




「そうですとも!さぁさぁ、みんなで会いに行きましょうね~」

「って、東方朔殿!?」




皇太子とは反対の星影の肩を抱きながら言う若作りな男。






(か、囲まれた!逃げれない!)






両脇を取られ、3人仲良く(?)並んで歩きだす。

こうして、自分の意志とは反する形で、再び衛皇后の元へと連れて行かれる星影だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!


玲春の結婚に責任を感じる星影でしたが、東方朔&皇太子の登場で、人のことよりも自分の心配をしなければいけなくなった星影・・・・というお話に、今回はなっています。





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