第7話 出会い酒場ルイージャン
ギルドの受付に教えてもらった冒険者の酒場は、街の中心部にあった。
『出会い酒場 ルイージャンの酒場』
店の入口の上には、ギラギラと光る豪華な看板が掲げられている。
「なんとも怪しげなお店ですね」
私は周りを見渡す。
ギルドの受付が言っていたのは、ここではないのかもしれない。
だが、他に酒場らしい建物は見当たらなかった。
「……入ってみましょう」
扉を開ける。
中は意外にも普通の酒場だった。
1階には、ところ狭しと並べられたテーブルと椅子。
奥には飲み物や料理を提供するカウンター。
その横には、いくつかの扉がある。
変わっているのは2階だった。
テーブルはなく、椅子だけ。
壁沿いに細い通路が作られていて、そこから1階全体を見下ろせるようになっている。
1階では、たくさんの勇者や冒険者が談笑しながら酒や料理を楽しんでいる。
対照的に2階の者たちは、下にいる冒険者を指差しながら何やら話をしていた。
「いらっしゃいませー! ようこそ、出会い酒場ルイージャンへ!」
入口のそばにいた若い女性店員が、元気よく声をかけてきた。
「お邪魔します」
「今日はスカウトする? それともスカウトされる?」
「スカウト?」
「あ、お兄さん初めてですね! では説明しますね」
「よろしくお願いします」
女性店員が、店内の見取り図が描かれた紙を広げる。
「ここ、出会い酒場ルイージャンは、冒険のためのパーティを探す場所です」
「なるほど」
「1階はスカウトされたい人のスペース。お食事したり、お酒を飲んだりしながら声をかけられるのを待ちます」
「なるほど」
「そして2階がスカウトする側です。1階の冒険者を見て、この人を仲間にしたいなー、ちょっと話を聞きたいなーって思ったら指名します」
「なるほど」
「見事スカウトされた冒険者は、奥の面会室でお話や条件交渉。そこで双方が合意すれば、晴れてパーティ結成です!」
「なんと斬新な」
私は改めて店内を見る。
「世の中の冒険者たちは、そうやってパーティになっていくものなのですね」
「いや、まあ」
店員が苦笑した。
「大体はここに来なくても勝手にパーティになるんですけどね」
「…………」
「でも、ご覧の通り大盛況です。冒険者、特に転移者が増えすぎると、こういう場所も必要みたいで」
一瞬だけ。
店員の顔に疲れが見えた。
「それで、お兄さんはスカウトする側ですか? される側ですか?」
「仲間にする基準も分からないので」
少し考える。
「まずはスカウトされてみましょうか」
「かしこまりました!」
女性店員から番号札を受け取る。
56番。
「次に簡単なアンケートですね。お兄さん、職業は?」
「神父です」
「……神父?」
「はい」
「ここでは初めての職業ですけど……まあ自己申告制なので、なんでもいっか」
店員は紙にペンを走らせる。
「得意なのは回復とかですかね?」
「回復、蘇生、解呪」
「おお」
「あとは素手で初級の魔物くらいなら倒せます」
「素手?」
「はい」
「……まあ、今は回復職が人気ですよ。いいパーティが見つかるといいですね!」
「ありがとうございます」
「では中でおくつろぎください」
私は番号札を胸につける。
奥のカウンターで食事と水を頼み、空いているテーブルに腰を下ろした。
「こうしてゆっくり食事を取るのも久しぶりですね」
誰も死んでこない。
誰も怪我人を運んでこない。
誰も魔物を連れてこない。
「…………」
素晴らしい。
そんなことを考えながら食事を終えた頃。
「56番様」
男性店員が声をかけてきた。
「スカウトがかかりました。奥の面会室へどうぞ」
「もうですか」
案内されるまま、面会室へ入る。
「おっすー」
中には若い男が一人。
首元には勇者の紋章。
「なになに。あんた神父なの? ウケる」
「そちらは勇者でしょうか?」
「そだよ」
勇者が椅子に深く座る。
「いやー、今ちょうど回復職探しててさ。ほら、ポーションとかバカみたいに高いじゃん?」
「そのようですね」
「だからさー。神父とかモブだけど、こっちとしてはついてきてほしいわけよ」
「なるほど」
「来るっしょ?」
「一つ質問させていただいても?」
「オッケー。なになに?」
「魔王を倒すのが目的ですか?」
「あー。魔王ねー」
勇者が笑う。
「なになに? あんたそっち系?」
「そっち系?」
「俺が世界を救うんだー! ってやつ。熱いねー」
「あなた方勇者の役割は、それでは?」
「まあ、やれたらやるけど」
勇者は指を組んで頭の後ろへ回した。
「とりま、ある程度金稼いで悠々自適に暮らせればいいかなー、みたいな」
「なるほど」
私は後ろに立っている男性店員へ振り返った。
「却下で」
「えっ!?」
勇者が身を起こす。
「マジ? あんたモブの神父っしょ? 他のスカウトなんてどうせ来ないって。俺らと来なよ」
私は勇者へ向き直った。
「却下で」
「ちっ!」
勇者が顔をしかめる。
「こっちだって、あんたみたいなおっさんモブ神父なんて願い下げだ。ばーか」
「では失礼します」
「無視すんなよ!」
私は元の席へ戻った。
しばらくすると。
また呼ばれた。
今度も勇者。
「うちはダンジョン専門なんだ」
「魔王討伐は?」
「魔王?」
勇者が首を傾げた。
「そんなのエンドコンテンツだろ?」
「えんど……?」
「あー、気にすんな」
「では却下で」
「早くない!?」
次。
「もちろん魔王は倒すつもりだよ」
「それはよかった」
「いつかね」
「いつです?」
「装備全部最高ランクになったら」
「どのくらいかかります?」
「さあ? 5年? 10年?」
「却下で」
「なんで!?」
その後も何度か面談した。
声をかけてくるのは勇者ばかり。
だが。
魔王を倒すことを本気で目的にしている者は、一人もいなかった。
「…………」
私は席へ戻る。
鞄から『週刊・冒険入門』を取り出した。
開く。
『冒険には、信頼できる仲間を連れて行きましょう』
「…………」
閉じる。
「こんなに難しいとは」
仲間。
冒険を共にする者。
強さ。
職業。
能力。
何を基準に選べばいいのだろう。
「…………」
待っているだけでは、駄目なのかもしれない。
私は立ち上がった。
「すみません」
「はい?」
入口にいた若い女性店員が振り返る。
「スカウトする側に移ることは可能ですか?」
「もちろんです!」
「ではお願いします」
「かしこまりました!」
店員が紙を取り出した。
番号札を返し、今度は2階へ上がる。
「…………」
上から見ると、随分違って見える。
剣を背負った者。
大きな盾を持つ者。
魔法使い。
僧侶。
勇者。
強そうな冒険者はいくらでもいる。
「…………」
だが。
誰を選べばいいのか分からない。
しばらく眺めていると。
一人。
目に留まった。
「…………」
料理を両手いっぱいに抱え。
忙しそうにテーブルの間を走り回っている。
先ほどの。
若い女性店員だった。
「すみません」
近くにいた男性店員へ声をかける。
「はい?」
私は1階を指差した。
「あの方にします」
「…………」
男性店員が下を見る。
「誰です?」
「あそこで料理を運んでいる方です」
「…………」
「あ、あれでしょうか?」
「はい」
「うちの従業員ですよ?」
「知っています」
「冒険者じゃないですよ?」
「それも知っています」
「…………」
男性店員が困った顔をする。
「スカウトできます?」
「できませんよ!?」




