第5話 初心者講習は受けましょう
始まりの街。
冒険を始める者は、まずここへ向かう。
ならば、そこに行くのが正しいはず。
目の前には、大きな建物。
剣と盾を組み合わせた看板。
冒険者ギルド。
「まずは冒険者登録ですね」
魔王城へ向かう前に、やるべきことは多い。
基本は大切だ。
私は扉を開いた。
◇
「次の方どうぞー」
「はい」
受付へ向かう。
若い女性が、紙を一枚取り出した。
「冒険者登録ですね?」
「お願いします」
「では、お名前から」
「アルヴィン・クロス」
「年齢」
「35歳」
いくつか質問に答えていく。
受付嬢の手が止まった。
「最後に職業をお願いします」
「神父です」
「…………」
受付嬢が顔を上げた。
「僧侶ではなく?」
「はい。神父です」
「教会の?」
「はい」
「冒険者として活動されるんですよね?」
「その予定です」
「神父なのに?」
「はい」
「……何をしに?」
「魔王を倒しに来ました」
「…………」
受付嬢が紙を見る。
私を見る。
もう一度紙を見る。
「勇者では……?」
「ないです。神父です」
「…………」
何か規定に問題でもあるのだろうか。
「登録はできますか?」
「あ、はい。規則上は問題ありません」
「よかったです。いきなりつまずくところでした」
受付嬢が引き出しから小さな札を取り出した。
「初めてですので、Fランクからになります」
「分かりました」
受付嬢は何か言いたそうだった。
が、
諦めたらしい。
「では初心者講習を受けてください」
「お願いします」
◇
初心者講習には、私を含めて6人いた。
年齢は皆、私より若い。
その中でも。
やけに目立つ男がいた。
派手な剣。
新品の鎧。
首元には、勇者であることを示す紋章。
転移者だろう。
「おっさん」
「はい?」
声をかけてきた。
「あんた神父なんだって?」
「そうですが」
「マジかよ」
男が笑う。
「神父が冒険者?」
「はい」
「何すんの? 後ろで回復?」
「必要なら」
「いやいや」
男は肩をすくめた。
「そういう意味じゃなくてさ」
「?」
「あんたモブだろ?」
「モブ?」
「勇者でもない。特別な職業でもない。ただの神父」
「そうですね」
「だったら大人しく教会にいた方がいいって」
「なぜです?」
「死ぬから」
男は当然のように言った。
「この世界、ゲームみたいだけどゲームじゃないんだぜ?」
「ゲーム? とは?」
「あー、そういう感じね。勇者でも普通に死ぬってこと」
「勇者は生き返りますけどね」
「なら分かるだろ」
「はい」
「モブが勇者の真似事しても、早く死ぬだけだよ」
「なるほど」
「悪いこと言わないからさ」
男は笑う。
「魔王討伐なんて諦めな」
「ご忠告ありがとうございます」
「…………」
「では講習が始まるようですので」
私は前を向いた。
「いや、分かんないかなー」
「分かりませんね」
「…………」
構ってほしい、寂しがり屋さんなのだろうか。
◇
「まずは武器の扱いから!」
講師の男が木剣を持つ。
「冒険者にとって一番大切なのは、生き残ることだ!」
「はい」
「いきなり強敵に挑むな!」
「はい」
「逃げることも立派な選択だ!」
「はい」
非常にためになる。
「では剣を振ってみてくれ」
みんな一斉に木剣を振り始めた。
なんとなく持ちにくい。
しっくりこなかった。
「やはり剣の扱いは、私には難しいようですね」
なんとかそれなりに収まりのいい形に持てたので、構えてみる。
「あはは。なんだよあの構え。だから神父に魔王退治なんて無理なんだって」
先ほどの勇者が腹を抱えて笑っていた。
私は不格好な構えから、木剣を振ってみる。
ぶんっ!
土埃が巻き起こり、空気の刃が壁を抉り取った。
「……は? えっ!? その構えで? えっ?」
講師が木剣を見る。
私を見る。
木の棒を振れば土埃くらい舞うだろうに。
「つ、次、回避訓練にいくぞ」
「分かりました」
投げられた木球を避ける。
一つ。
二つ。
三つ。
「もっと速くするぞ!」
「はい」
避ける。
「さらに!」
「はい」
避ける。
「…………」
「もう少し速くても大丈夫です」
「いや、もういい」
「そうですか」
「次は俺だ。神父があれなら、俺はもっと速いのを3つ同時に投げてくれ」
見事に3つとも当たっていた。
器用な勇者だ。
講習はその後も続いた。
簡単な応急処置。
野営。
薬草の見分け方。
知っていることも多かった。
だが。
一つ一つ冒険の講師から直接教えてもらえる。
とても充実していた。
「以上!」
講師が額の汗を拭う。
「初心者講習を終了する!」
「ありがとうございました」
「……ところで、あんた本当に初心者か?」
「冒険者としては今日が初日です」
「そういうことじゃないんだが」
横を見る。
先ほどの勇者が、こちらを睨んでいた。
「……たまたまだろ」
「そうかもしれませんね」
「実戦じゃ、そうはいかないからな」
「そうなのですか」
「そうだよ」
「分かりました」
「…………」
なにやら勇者のプライドを刺激してしまったようだった。
◇
ギルドへ戻る。
受付嬢が一枚の紙を差し出した。
「初心者向けの討伐依頼です」
「はい」
「街から北へ進んだところに小さな洞穴があります」
「洞穴」
「奥にホーンラビットの変異種が住みついていて、最近通行人を襲っているそうです」
「なるほど」
「初心者でも数人いれば倒せる程度です。最初の討伐依頼としてはちょうどいいですよ」
「最初の討伐」
「…………」
「どうしました?」
「最初のボスというやつですね」
「ボス?」
「こちらの話です」
依頼書を受け取る。
その時。
「俺もそれ受けるわ」
横から声がした。
先ほどの勇者だった。
「一人で大丈夫ですか?」
受付嬢が聞く。
「余裕だって」
勇者が笑う。
「初心者用なんだろ?」
「そうですが……」
「なら問題なし」
依頼書を取る。
そして私を見る。
「おっさんも行くの?」
「はい」
「先に言っとくけど」
「?」
「俺の獲物、横取りすんなよ」
「分かりました」
「…………」
「何か?」
「いや」
勇者は少しだけ嫌そうな顔をした。
「先に着いた方の獲物だからな。あとから来て横取りすんなよ」
「分かりました」
「絶対だからな」
「はい」
そう言って。
先にギルドを出ていった。
「では」
最初の洞穴へ向かうことにした。




