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第4話 勇者に任せるのやめました

 教会の屋根に穴が開いた。


「…………」


 正確には穴というより。


 かなりの範囲がなくなった。


「アルヴィン神父」


「はい」


「雨降ったらどうしましょう」


「濡れますね」


「きっとそのあと臭くもなりますね」


「…………」


 私は瓦礫を拾う。


 ミアも隣で板を運んでいた。


 怪我人の治療。


 勇者の蘇生。


 解呪。


 近隣の村や町への巡回。


 魔物の襲撃。


 勇者の後始末。


 そして今度は。


 魔王軍に入った勇者が教会を壊した。


「…………」


 私は板を置いた。


「…………あーーー。あーーーーーー。くそだーーーー」


 私は頭を激しく掻きむしった。


「ひっ。アルヴィン神父が壊れた」


「あー。あー。あー。もういいです」


「な、何がです?」


「待つのをやめます」


「……何を?」


「勇者が魔王を倒してくれるのをです」


「…………」


「私が行きます」


「どこに?」


「魔王のところです」


「…………」


 ミアの手から板が落ちた。


「……はい?」


「魔王を倒しに行きます」


「アルヴィン神父が?」


「はい」


「神父ですよ?」


「はい」


「勇者じゃないですよ?」


「はい」


「魔王ですよ?」


「はい」


 ミアが私を見る。


「本気ですか?」


「本気です」


「急にどうしたんです?」


「急ではありません」


 十分待った。


 何年も。


 勇者が魔王を倒すのを。


 その間。


 死んだ勇者を蘇生した。


 怪我を治した。


 呪いを解いた。


 魔物も倒した。


 村まで壊された。


 そして。


 ついには魔王軍へ行く者まで出た。


「いつまで待てば倒してくれるのでしょう」


「…………」


「分かりませんよね」


「はい」


「私も分かりません」


 なら。


「自分で倒した方が早い」


 今までは役割というものを考えていた。


 神父は回復や蘇生をし、人々や勇者を支える。


 勇者は魔王を倒す。


 それでいいと思っていた。


 私はもう一度、周りを見渡した。


「もうやめます」


「神父をですか?」


「違います」


 私は息を吐く。


「勇者に任せるのをです」


 ミアも周囲を見渡す。


「でも、アルヴィン神父がいなくなったら、この辺りの教会は?」


「…………」


 忘れていた。


 それは確かに困る。


 非常に。


 私は周囲を見る。


 患者。


 冒険者。


 そして。


 勇者。


「…………」


 一人。


 目に留まった。


 青地の帽子。


 青い法衣。


 長い杖。


「そこの勇者」


「え?」


 少女が振り返る。


「あなたです」


「私……ですか?」


「はい」


 近づく。


「僧侶ですよね?」


「え? まあ……」


「その帽子」


「はい」


「その杖」


「はい」


「回復魔法は?」


「使えますけど」


「蘇生は?」


「一応」


「解呪」


「できます」


「決まりですね」


「何が!?」


 私は少女の肩を掴んだ。


「あなたは今日からここの神父です」


「ええええええ!?」


「正確には神父ではないので、神官でしょうか」


「そこじゃない!」


「どこです?」


「私、勇者なんですけど!」


「はー?」


 思わず声が出た。


「いつまで経っても魔王を倒せないどころか、村を壊し、魔物を連れてきて、挙げ句の果てには魔王軍に入る転移者が」


「私、何もしてません!」


「勇者では?」


「そこ私までまとめないでください!」


 私は教会を指差す。


「毎日、蘇生」


「え?」


「回復」


「はい?」


「解呪」


「待って」


「3日に1度、近くの村と町も回ってください」


「無理です!」


「できます」


「ムリムリムリムリ!」


「私はやっていました」


「あなたを基準にしないでください!」


「無理なら他の転移者にも手伝わせなさい」


「え?」


「たくさんいるのでしょう?」


「いますけど」


「なら問題ありません」


「問題しかありません!」


 少女が杖を抱える。


「というか私、魔王を倒す旅の途中で!」


「私が行きます」


「だから勇者は――」


「私が倒します」


「…………」


 少女が黙った。


「魔王を?」


「はい」


「神父様が?」


「はい」


「一人で?」


「今のところその予定です」


「…………」


 少女が私を見る。


 次に。


 先ほど私が殴り飛ばしたドラゴンが落ちた森を見る。


 そして。


 教会を見る。


「……できそうなのが腹立つ」


「ではお願いします」


「まだ受けてません!」


「ミア」


「はい」


「仕事を教えてあげてください」


「分かりました!」


「ミアさん!?」


 決まった。


「アルヴィン神父!」


「何です?」


「本当に行くんですか!?」


「はい」


「今から?」


「準備をしてからです」


 ミアが首を傾げる。


「魔王城へ向かう準備ですか?」


「いいえ」


「違うんですか?」


「まず、始まりの街へ向かいます」


「…………」


「なぜ?」


 私は荷物の中から一冊の本を取り出した。


 15年分を綴じた。


 私の冒険の書。


「『週刊・冒険入門』に」


 表紙を開く。


「冒険は始まりの街から、と書いてありますので」


「…………」


「そこ守るんですか?」


「基本は大切です」


 こうして。


 私は35歳にして。


 初めて。


 魔王を倒すための冒険へ出ることになった。

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