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第20話 モヒカンはかっこいい

「見るな」


「え?」


 ゴンスケが頭を押さえた。


「見るなって」


「いや、余計気になるんですけど」


「何もねぇから見るなって」


「明らかに何かあった形ですよ」


 ゴンスケの頭頂部。


 少し窪んでいる。


 何かを取り付けるような穴もあった。


「ゴンスケさん?」


「…………」


「何があったんです?」


「落とした」


「何を?」


「モヒカン」


「…………」


「…………」


「モヒカン?」


「んだ」


 ゴンスケが両手を頭の上へ伸ばす。


「こういう、でっけぇ赤いやつ」


「パーツ?」


「かっこいいんだ」


「それで何か技が使えないとか?」


「分からねぇ。だけどかっこよくねえ」


「なくてもよくないですか?」


「よぐねぇ!」


 今日一番大きな声だった。


「大事なんですか?」


「大事だべ!」


「何に?」


「かっこいい!」


「それだけ?」


「それ以上、何がいるんだ!」


 ゴンスケが頭を押さえる。


「よぐ落どすんだ」


「よく?」


「気づいだらねぐなってる」


「探さなかったんですか?」


「探した」


「見つからなかった?」


「途中で道さ迷った」


「…………」


「…………」


「自分の家の近くですよね?」


「遠ぐまで探しに行ったがら」


「帰ってこれたんですね」


「なんとかな」


 ゴンスケがため息をつく。


「スペアあんだけどよ」


「スペア?」


「魔王城の倉庫さ」


「…………」


 私はゴンスケを見る。


「魔王城?」


「んだ」


「取りに行かないのですか?」


「道が分がんねぇ」


「魔王軍だったのに?」


「んだ」


「地図は?」


「読めねぇ」


「…………」


「行こうとしたことは?」


「ある」


「どうなりました?」


「迷った」


「ですよね」


 ゴンスケが畑の土をいじる。


「だから、もう諦めでだんだ」


「そうですか」


「モヒカンねぐても生きてはいげるしな」


「だったら別に」


「でも、かっこ悪ぃし、恥ずかしい」


「やっぱり嫌なんですね」


 私は少し考える。


「ゴンスケさん」


「ん?」


「私たちは魔王城へ向かっています」


「…………」


 ゴンスケの赤い目がこちらを向いた。


「ほんとか?」


「はい」


「道分がるのか?」


「はい。いずれは着くと思います」


「いずれ?」


「しっかり道順通りに向かっていますので」


「わがってるのに、遠回りしてってことが?」


「…………変なやつらだな」


 ゴンスケが私を見る。


 次にリナ。


 最後に、自分の頭を触った。


「…………」


「どうしました?」


「おらも」


 立ち上がる。


「一緒に行ったら、モヒカン取れるが?」


「可能性はあります」


「…………」


 ゴンスケが畑を見る。


 しばらく黙っていた。


「おらも行ぎでぇ」


「そうですか」


「でも」


「はい?」


 ゴンスケが畑を指差した。


「畑がある」


「そうですね」


「モヒカンも欲しい」


「そうですね」


「畑も大事だ」


「そうでしょうね」


「モヒカンも大事だ」


「それも分かりました」


「…………」


「…………」


 ゴンスケが畑を見る。


 頭を触る。


 また畑を見る。


「困っだなー」


「平和な悩みですね」


「アルヴィンさん」


「はい?」


「困ってはいるみたいですけど……」


「そうですね」


「どうするんです?」


「考えましょう」


「やっぱり考えるんだ……」


 ゴンスケが畑の真ん中へ座り込んだ。


「困った」


「さっきからそれしか言ってませんよ」


「だってよぉ」


 土を掴む。


「ここ置いでげねぇべ」


「だったら残ればいいじゃないですか」


「でもモヒカン欲しい」


「じゃあモヒカン諦める」


「それは嫌だ」


「じゃあ畑を諦める」


「それも嫌だなー」


「面倒くさいなぁ!」


 ゴンスケが頭を抱えた。


「どっちも大事なんだ」


「アルヴィンさん、何とか言ってください」


「そうですね」


 少し考える。


「両方手に入れればいいのでは?」


「ほらぁ!」


「何がほらなんですか!」


 ゴンスケが大きく頷いた。


「神父、頭いいな」


「ありがとうございます」


「褒めるところじゃないです!」


「では」


 私は畑を見る。


「畑を置いていける方法を考えましょう」


「本当に始めるんですね……」


 ゴンスケが顔を上げる。


「できるが?」


「分かりません」


「分がんねぇのが」


「ですが、考えなければ分かりませんので」


「…………」


 ゴンスケがまた畑を見る。


「神父」


「はい?」


「頼む」


「分かりました」


「簡単に引き受けた!」


 リナが頭を抱えた。


 私は畑の周囲を見る。


「どのくらい留守にすると困りますか?」


「どのくらい?」


「水をやらなくても大丈夫な期間です」


「うーん」


 ゴンスケがしゃがみ込む。


 土を触る。


 葉を見る。


「3日くらいかなぁ」


「3日」


「でも晴れ続いだらもっと早い」


「なるほど」


「雑草も抜かねぇと」


「はい」


「虫も来る」


「はい」


「獣も来る」


「はい」


「実できたら収穫もしねぇと」


「はい」


「…………」


「…………」


 リナがこちらを見る。


「無理ですね」


「そうですね」


「諦めましょう」


「嫌だ!」


「そこだけ元気ですね!」


 ゴンスケがまた畑へ座り込む。


「困った」


「また戻った……」


 私は周囲を見る。


 畑から少し離れた場所。


 木々の向こうから、水の流れる音が聞こえていた。


「水だけなら」


「はい?」


「何とかできるかもしれません」


 杖を取る。


「アルヴィンさん」


「はい」


「何する気です?」


「少し試してみましょう」


「その言い方、嫌な予感しかしないんですけど」


「ゴンスケさん」


「ん?」


「小川の水、使っても構いませんか?」


「いいぞ。もともとおらのものでもねぇしな」


「では」


 杖を地面へ向ける。


「土よ。ソイル」


 地面がゆっくりと動き始めた。


「うお」


 ゴンスケが立ち上がる。


「何すんだ?」


「水を引きます」


「水?」


「はい」


 畑の横に。


 細い溝を。


 ゆっくり。


 小川の方へ伸ばしていく。


 ゴンスケが後ろからついてくる。


「神父」


「はい?」


「それで畑置いてげるが?」


「まだ分かりません」


「そうが」


 ゴンスケが期待したように水路を見る。


「でも」


「はい?」


「ちょっと楽しみだ」


「そうですか」


 畑も大事。


 モヒカンも大事。


 どちらも大切なら、どちらも諦めない方法を考えればいい。


「なんかまた寄り道している気がする……」


 後ろでリナが呟いていた。

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