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第2話 最強はだれだ?

 隣村へ向けて教会を出た頃には、すっかり日が落ちていた。


 本来なら明日の朝に出発する予定だった。


 だが。


 教会に入りきらないほどの負傷者と、勇者の死体。


 そう聞いて。


「明日行きます」


 とは、さすがに言えなかった。


 言いたかった。


 非常に。


 休む時間なんてなかった。


 私は暗い街道を歩いていた。


 綺麗な月が視界を照らしてくれていた。


 気持ちのいい夜だ。


 疲れてなければ。


 しばらく進んだところで、狼型の魔物が飛び出してくる。


「グルルル……」


「…………」


 掌底。


「ガッ!?」


 地面へ叩き落とす。


「……先を急ぎましょう」


 さらに歩く。


 そして。


「…………」


 私は足を止めた。


 街道の一部が大きく抉れている。


 地面は焦げ、木は倒れ。


 岩には深い斬撃跡。


 明らかな戦闘の跡だった。


 だが。


 魔物の死体はない。


 あるのは、先ほど私が倒した牙狼だけ。


「魔物の仕業ではなさそうですね」


 嫌な予感がする。


 壊れた道を避けて迂回した結果、隣村へ着いた頃には空が白み始めていた。


 早く出たのに、結局いつもの到着時間と大して変わらなかった。


「…………」


 村の外壁が一部崩れている。


 畑には大きな穴。


 屋根の飛んだ家もある。


 そんな中。


 村人たちは、板や石を運びながら修復作業をしていた。


「神父様!」


 一人の男が手を挙げる。


「来てくれたか!」


「遅くなりました」


「いやいや。急がせたのはこっちだ」


 男は疲れた顔で笑った。


「ずいぶん壊れていますね」


「ああ」


 崩れた壁を見る。


「まあ、勇者様だからな」


「…………」


「世界救ってもらわないと困るし。仕方ないさ」


「負傷者は?」


「教会だ。入りきらなくて外にもいる」


「分かりました」


 私は教会へ向かった。


 ◇


 多い。


 本当に多い。


 教会の中にも。


 外にも。


 包帯を巻いた村人や冒険者が座り込んでいる。


 そして奥には。


 8人の勇者の死体。


「まず生きている方からやります」


「勇者様ではなく?」


「死んでいる方は少しくらい待てます。多少臭うかもしれませんが」


 私は杖を握った。


「生きている方は待てませんから」


 一人。


 また一人。


 治して。


 治して。


 治して。


 ようやく一通り終わった頃には、すっかり日は真上に来ていた。


「……次は不甲斐ない肉塊ですね」


 8人の勇者を見る。


 その中の一人。


 両目が赤く光るドクロのついた、紫色の剣を握っている。


「…………」


 分かりやすい。


 非常に。


「まず一人だけ蘇生しましょう」


 金髪の魔法使いの前にしゃがむ。


「アーメン」


 淡い光。


「――っは!?」


 女が勢いよく起き上がる。


「私、死んだ!?」


「死にました」


「うそ!?」


「本当です」


 私は8人の死体を指差した。


「なぜこうなったのです?」


「あー……」


 女は少し考える。


「誰が一番強いかって話になって」


「…………」


「何、その顔」


「続けてください」


「酒場で飲んでたら、誰かが言い出したのよ。結局この中で誰が一番強いんだろうなって」


「はい」


「で、俺だ、私だってなって」


「はい」


「じゃあ決めようって」


「それで?」


「村の中は危ないから、外で」


「それはいい判断ですね」


「でしょ?」


「結果、村が壊れていますが」


「……思ったよりみんな本気でね」


 金髪の魔法使いは、てへへとでも言いそうな表情を浮かべた。


 私は額を押さえた。


「上級魔法使う奴が出て」


「はい」


「それ見て他の奴も本気になって」


「はい」


「あいつは、あの剣振り回し始めるし」


 女が紫色の剣を指差す。


「呪われているとは?」


「気づいてなかったみたい」


「すごく視力が悪いとかではなく?」


「あいつ、こういうの好きなのよ」


「こういうの?」


「闇を纏いし魔剣とか、封印されし何とかとか」


「…………」


「めちゃくちゃかっこいいって喜んでた」


「そうですか」


 そうですかとしか言えない。


「で、結局?」


「全員死んだ」


「…………」


「でも結構いい勝負だったのよね」


「評価するところではありません」


「私、最後まで残ってたし。多分私が一番強かったと思う」


「あなたも死んでいます」


「僅差よ」


「何と競っているのです?」


 もういい。


 理由は十分分かった。


「残りも蘇生します」


「誰が一番だったか聞くのね! 多数決ー!」


「興味ありません」


 残りの勇者たちもまとめて蘇生した。


 目を覚ますなり、


「俺が一番だっただろ!」


「いや俺だ!」


「お前途中で倒れてたじゃん!」


 と始めたので、全員まとめて教会の外へ出した。


 最後に。


 紫色の剣を持っていた勇者。


 剣の呪いを解いてから蘇生する。


「アーメン」


「――っ!」


 男が目を開く。


「俺、死んだ?」


「死にました」


「あ! 俺の魔剣!」


「呪物です。あと全快したはずですが、包帯を手に巻くのはなぜですか?」


「ふっ。これがないと俺の内に封印した地獄の炎が世界を焼き尽くしてしまうからさ」


 なぜか片目を手で隠しながら決めポーズをとっていた。


「……それは大変ですね。では、ここでもう一度私に倒されておきますか?」


「うそうそ! もう痛いのは嫌だ!」


「大人しくお帰りください」


 紫色の剣を布で包む。


 やっと終わった。


 教会の外へ出る。


 村人たちは、まだ修復作業を続けていた。


「勇者様たち、生き返ったかい?」


 先ほどの男が聞いてくる。


「はい」


「そりゃよかった」


「……おかしいとは思わないのですか?」


「……」


 男は笑った。


「でもまあ」


 崩れた壁を見る。


「勇者様だからな」


「…………」


「世界救ってもらわないと困る」


 隣にいた老人も笑う。


「今回は死人が出なかっただけマシじゃ」


「また直せばいいさ」


 二人はそう言って。


 また石を運び始めた。


 迷惑には思っている。


 それでも。


 仕方がないと、疲れたように笑っている。


 誰が一番強いか。


 それを決めるために勇者たちは戦った。


 結果、村が壊れ。


 大勢が怪我をした。


 そして今。


 村人たちは、自分たちでその後始末をしている。


「……神よ」


 どうして。


 世界を救うために遣わされた方々の後始末を。


 この世界の人間がしているのでしょうか。


「アルヴィン神父ー!」


「…………」


 振り返る。


 蘇生した勇者の一人が走ってきた。


「どうしました?」


「結局さ!」


「はい」


「誰が一番強かったと思う?」


「…………」


「俺、途中まではかなり――」


「もう一度死にたいのですか?」


「……すみません」


 勇者は帰っていった。


 私は目を閉じる。


「……神よ」


 先ほどの質問は撤回します。


 少しだけ。


 理由が分かった気がしました。

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