第10話 伝説の剣……?
次の街に着いた。
始まりの街より少し大きい。
通りには宿屋、酒場、道具屋、武器屋。
冒険者らしい人間も多い。
「結構にぎやかですね」
「ですねー」
リナがきょろきょろと周囲を見回している。
しばらく歩いていると。
ふと。
リナの足が止まった。
「?」
視線の先に武器屋。
「気になりますか?」
「えっ!? いえ!」
「そうですか」
「……」
「見てみましょうか」
「いいんですか?」
「もちろん」
中へ入る。
壁には剣、槍、盾、防具、ローブ。
いかにも冒険者向けの店だった。
「わぁ……」
リナの目が輝く。
「この短剣、かっこいいですね」
「そうですね」
「あ、このローブかわいい」
「何か買いますか?」
「いいえ!」
即答だった。
「私は戦闘しないので!」
「そうでしたね」
「むしろアルヴィンさんは」
「はい?」
「そのままでいいんですか?」
自分を見る。
いつもの神父服。
神父の杖。
「今のところ困ってはいませんからね」
「冒険者っぽい装備にしようとかは?」
「必要になれば考えます」
「そういうもんなんですね」
そういうものだと思う。
その時だった。
バンッ!!
店の扉が乱暴に開いた。
「おう、親父!」
派手な鎧を着た男が入ってくる。
後ろには仲間が3人。
全員、勇者らしい。
「この店で一番いい剣を出してくれ」
「一番いい剣、ですか?」
「ああ。金ならある」
店主が少し戸惑いながら。
奥から一本の剣を持ってきた。
「うちでは、これが一番高いですね」
「ほう」
勇者が受け取る。
鞘から抜く。
「まあまあだな」
そのまま店内で振った。
ブオンッ!
「きゃっ!」
風が巻き起こる。
棚の商品が揺れ布が舞う。
「さすがダイスケ様!」
仲間の一人が声を上げる。
「剣を振るだけで風が!」
「まあな」
ダイスケと呼ばれた勇者が得意げに笑う。
すると、仲間の一人が耳元で何か囁いた。
「ですが、ダイスケ様」
「ん?」
「この店には、店主が認めた者にしか出さない伝説の剣があるという噂ですよ」
「ほう」
ダイスケの目が光る。
「それは俺にこそ相応しいな」
そして店主を見る。
「親父」
「はい?」
「伝説の剣を出せ」
「……で、伝説?」
「あるんだろ?」
「いや……うちではこれが一番ですが……」
「隠すなよ」
「隠してませんよ」
「金ならある。あるんだろ?店主に認められた者だけに売る剣」
「そんなものありません」
「は?」
「本当にありません」
「…………」
ダイスケの顔が一気に赤くなり、その後みるみる険しくなる。
「俺が誰だか分かってんのか?」
「勇者様……ですよね」
「だったら分かるだろ」
ダイスケが店主の胸ぐらを掴んだ。
「勇者に協力するのがお前らの役目だろうが」
「ちょっ――」
リナが前へ出ようとする。
私は腕を出して止めた。
「アルヴィンさん?」
「少し待ってください」
ダイスケを見る。
いや、正確には先ほどまで彼が立っていた場所を見る。
「その剣」
「あ?」
「買うのですか?」
「こんな二流品、誰が買うかよ」
「なるほど」
「俺には伝説の剣が――」
「では」
床を見る。
割れた瓶、倒れた盾、裂けた布、棚の一部も壊れている。
「弁償してくださいますね?」
「……は?」
「先ほど剣を振りましたよね」
「ああ」
「店を壊しています」
ダイスケが周囲を見る。
「試し振りだ」
「店の中で?」
「そうだよ」
「店を壊して?」
「勇者なんだから、このくらい――」
「弁償してください」
「てめぇ」
店主が慌てる。
「いや、神父さん。そこまでしなくても」
「壊したものは弁償するものでは?」
「それは、まあ……」
「でしょう」
ダイスケが剣をこちらへ向けた。
「さっきから何なんだ、てめぇ」
「神父です」
「見りゃ分かる!」
最近よく言われる。
「勇者の俺に説教してんじゃねぇぞ」
「説教ではありません」
「じゃあ何だよ」
「弁償のお願いです」
「同じだ!」
ダイスケが剣を振り上げる。
危ない。
私は杖を上げた。
ガキンッ!
金属音。
次の瞬間。
バキッ。
「…………」
「…………」
剣の半ばから先が。
床へ落ちた。
「折れましたね」
「は?」
ダイスケが折れた剣を見る。
「はあああああ!?」
「先ほどの剣ですよね?」
「て、てめぇ何しやがった!」
「受けただけですが」
「それ、うちで一番高い剣……」
店主の声が震える。
「そうでしたね」
私はダイスケを見る。
「では、こちらも弁償してください」
「なんで俺が!?」
「あなたが振ったので」
「お前が折ったんだろうが!」
「私は受けただけです」
「ふざけんな!」
「ふざけてはいません」
しばらく揉めた。
最終的に。
ダイスケたちは壊した商品と剣の代金を支払った。
かなり渋々だったが。
店を出る直前。
「覚えてろよ!」
と言われた。
何を覚えておけばいいのだろう。
静かになった店内。
「アルヴィンさん」
「はい?」
リナが私の杖を見る。
「それ、何でできてるんですか?」
「木ですが」
「木!?」
店主も杖を見る。
「普通の教会用だな」
「じゃあなんで剣が折れたんですか!?」
「振り方が悪かったのでは?」
「いや、それはないな」
店主が即答した。
「そうですか」
「そうですよ!」
リナがため息をつく。
「それより」
私は先ほどリナが見ていた短剣を見る。
「やはり何か買いませんか?」
「え?」
「先ほど店主を助けようとしていましたよね」
「それは……危なそうだったから」
「なら、最低限身を守れるものはあった方がいいでしょう」
「でも私、戦えませんよ?」
「使えるものを探しましょう」
店主にも頼み。
まず短剣。
「持ってみてください」
「はい」
リナが構える。
「……なんか変です」
「変?」
「手に馴染まないというか」
次に小さな盾。
「重いです」
「そうですか」
「はい」
軽めの剣。
「持ちづらいです」
杖。
「どう使うんです?」
「…………」
どうやら。
どれもしっくり来ないらしい。
「困りましたね」
「だから私、戦闘向いてないんですよ」
「そうなのかもしれません」
「もう諦めましょうよ」
「そうですね」
荷物を持ち直す。
その時。
「あ」
「どうしました?」
「そういえば」
荷物の中から。
昨日。
牙狼の腹から出てきたものを取り出す。
「それ……」
「鍋の蓋です」
「知ってます!」
「一応、持ってきました」
「まだ持ってたんですか!?」
「使えるかもしれないと思いまして」
「何に使うんですか!」
「分かりません」
試しに。
リナへ渡す。
「はい」
「え?」
「持ってみてください」
「これを?」
「はい」
「…………」
渋々。
リナが鍋の蓋を持つ。
そして。
「…………」
「どうです?」
「…………なんか」
「はい」
「しっくりきます」
「やはり」
「何がやはりなんですか!?」
店主も見ている。
「構えてみてくれ」
「え?」
「いつも通りでいい」
「いつも通り……」
リナが鍋の蓋を持つ。
自然に。
身体の前へ。
「……いいな」
「いいんですか!?」
「少なくともさっきの盾よりずっと自然だ」
「鍋の蓋なのに!?」
「普段使っていたからでは?」
私は言う。
「酒場で」
「使ってましたけど!」
「なら、その方が向いているのでしょう」
「冒険者なのに鍋の蓋装備するんですか!?」
「冒険者ではないですよね?」
「今そこ重要です!?」
重要だと思う。
リナは鍋の蓋を見る。
少し嫌そうな顔。
だが。
結局。
鍋の蓋はそのまま持っていくことになった。
「私、絶対まともな盾買いますからね」
「いいと思います」
「絶対ですよ」
「はい」
「絶対ですからね!」
なぜ3回言ったのだろう。
こうして。
リナの最初の装備は。
鍋の蓋になった。




