第11話 レベルに興味はありません
旅を始めてから、いくつかの街を越えた。
街について、依頼をこなし、魔物を倒し、次の街へ向かう。
そんなことを繰り返しているうちに、私の冒険者ランクはCになっていた。
「アルヴィンさん! 右! 頑張ってー」
リナは今日も応援担当だ。
「はい」
ワイルドウルフが飛びかかってくる。
半身、体を捻って避ける。
すれ違いざまに杖で首筋を叩く。
「ガッ!」
地面を転がって岩にぶつかった。
残り2体。
「リナさん、そこで待っていてください」
「はい!」
少し離れた2体へ向かう。
1体目。
噛みつきを杖で逸らし、腹へ蹴り。
「ギャンッ!」
もう1体。
「風の刃よ。ヒューイ」
脚を切る。
体勢が崩れたところへ杖を振り下ろした。
「ガッ!」
これで――
「アルヴィンさん!」
振り返る。
最初に倒したワイルドウルフが、ふらふらと立ち上がっていた。
「まだ生きてましたか」
私はリナの元へと走り出した。
ワイルドウルフがリナへ向く。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。 あなたの敵はあっちのおじさん!」
リナが後ずさる。
後ろ足が沈んだ。
「リナさん!」
間に合わない。
せめて、すぐにリナを回復できるように詠唱を始める。
「来ないでー!」
跳ぶ。
「いやあああ!」
「彼のものに癒しのし――」
ゴンッ!
「…………」
かなりいい音がした。
リナが振った鍋の蓋が、ワイルドウルフの額へ直撃している。
「ギャンッ!」
地面へ落ちた。
今度こそ動かない。
「…………」
「リナさん?」
「……倒した?」
リナは片足を伸ばして、足でワイルドウルフをツンツンしていた。
「はい」
「私が?」
「はい」
リナが鍋の蓋を見る。
「これで?」
「見事でした」
「嬉しくないです」
「すみません。仕留めたと思ったのですが」
「ほんとですよ!」
「申し訳ありません」
「……魔物も強くなってきてるってことですかね」
私は倒れたワイルドウルフを見る。
「では、せっかくですし戦利品を回収してみましょうか」
「私が?」
「はい」
腰のナイフを渡す。
「この辺りを切って、中に金貨がないか探してみてください」
「嫌です」
「嫌ですか……魔物の体の中は温かくて、少しクセになりますよ」
「今すぐそのナイフしまってください、あとそれ、人に言わない方がいいです!」
「そうでしょうか。」
「そうです!」
その時。
「うわっ!」
「どうしました?」
リナが頭を押さえた。
「何これ。今、頭の中で……」
「はい」
「テレテレッテッテッテーって」
「ああ」
「何ですか?」
「レベルアップですね」
「これが!?」
「はい」
「気持ち悪い……」
「昔は少し嬉しかったですよ」
「私はもう聞きたくないです」
「でも、これでリナさんもレベルが上がりましたね」
「上げたかったわけじゃないのに」
「いくつになったのでしょう」
「知りませんよ。調べたことないですし」
「では、次の街の教会で見てもらいましょう」
◇
「レベル5ですね」
「5」
翌日。
街の教会で、神父が水晶を覗き込んでいた。
「それって高いんですか?」
「かなり低いです」
「やっぱり」
「ここまで来た冒険者では初めて見ました」
「冒険者じゃありません! 酒場の店員です!」
「酒場の……?」
「いろいろありまして」
「そうですか」
神父はそれ以上聞かなかった。
「でも5かぁ……」
リナが水晶から手を離す。
「あ」
「はい?」
「アルヴィンさんは?」
「私?」
「レベルいくつなんですか?」
「知りません」
「調べたことないんですか?」
「ありませんね」
「他の人のを調べていたのに?」
「はい。神父ですし蘇生、回復とかができれば十分ですからね」
冒険者でもない自分のレベルを知る必要もなかった。
「最後にレベルアップしたのは?」
「うーん。10年くらい前でしょうか」
「10年!?」
「よく覚えてませんが」
「それから魔物を倒してないんですか?」
「いえ。隣町や村へ行く途中で会えば」
「どのくらい?」
「さあ。数えたことはありません」
「せっかくです。測ってみますか?」
神父が水晶をこちらへ向ける。
「では」
手を置く。
「…………」
神父が黙った。
「どうです?」
「少々お待ちください」
水晶を見る。
角度を変える。
メガネを外す。
メガネを拭く。
水晶で拭く。
「どうしました?壊れてしまいましたか?」
「いえ……レベルが表示されません」
「ほう。神父だからでしょうか」
「私も神父です」
「それもそうですね」
神父が自分で水晶へ触れる。
「私はレベル32。次のレベルまで8,527」
「出ますね」
「出ます」
もう1度。
「…………やはり出ません」
「やはり故障でしょうか?」
「ただ」
神父が一瞬間を置いた。
「次のレベルまでの必要経験値だけは出ています」
「いくつです?」
「0です」
「…………」
「…………」
「…………」
リナが水晶を覗き込む。
「これ、カンストじゃないですか?」
「かんすと?」
「勇者が言ってました。上限まで行ったとか、そういう意味だったと思います」
「なるほど」
「なんでそんな平然としてるんですか!」
「特に困っていませんので」
「私が気になります!」
「それよりリナさん」
「はい?」
「レベル5です」
「そこに戻ります?」
「昨日のようなこともあります。もう少し上げておいた方がいいでしょう」
「結構です!なんか嫌な予感がします」
「まだ何も言っていませんよ」
「絶対ろくなことじゃないので」
「この街に試しの塔があります」
「行きません」
「低い階層から順に魔物が強くなる塔です。レベル上げにはちょうどいいかと」
「もっと行きたくなくなりました」
「そうですか」
「…………」
「何です?」
リナがこちらをじっと見ている。
「アルヴィンさん、なんかおかしくないですか?」
「そうですか?」
「そうですよ。今までほとんど寄り道しなかったじゃないですか」
「そうでしたか?」
「街に着いたら依頼して、必要な物を買って、終わったらすぐ次」
「効率的ですね」
「自分で言います?」
「事実ですので」
「なのに」
リナが目を細める。
「なんで試しの塔だけ、そんなに行きたそうなんですか?」
「リナさんのレベル上げのためですよ」
「ほんとに?」
「もちろんです」
「…………」
「何です?」
「なーんかワクワクしてるんですよね」
「そうでしょうか」
「してます。自分のレベルを調べる時より楽しそうです」
「…………」
顔に出ていたらしい。
「何かあるんですか?」
「あります」
「あるんだ」
「それは」
「それは?」
「行ってからのお楽しみです」
「絶対レベル上げだけじゃないじゃないですか!」
「きっとリナさんにも嬉しい情報ですよ」
「その言い方、全然信用できないんですけど」
「昨日1匹倒せましたし」
「あれは事故です!」
「1匹も2匹も、2匹も3匹も、それほど変わりませんよ」
「変わります!」
「では、試しの塔へ行きましょうか」
「行きません!」
「大丈夫です。私も一緒ですから」
「そういう問題じゃないんです!」
なるほど。
初めての塔で不安なのだろう。
「安心してください」
「何を勘違いしてるんですか?」
「危なくなったら私が守りますし、どんな冒険者も勇者もきっと初めては怖いはずです」
「だから行かないって――」
「では行きましょう」
「話を聞いてください!」
こうして、私たちは少し寄り道をすることになった。




