↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の月 ~異世界転生したら仙女でした…仙女ってナニ?~  作者: 天鳥たくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/99

96 アカネの告白1

 ようやく階段を登り切り、小さな扉をくぐるといかにも無機質な廊下が続いていた。

 愛想のないオフィスビルそのものだ。

 突き当たりにはエレベーターがある。


「ここからしばらくはエレベーターを乗り継いで行く。一番上が行き先だ」


 鳥にはパネルが操作できないので、私がタッチする。

 終点まで昇ると向かいにあるエレベーターに乗り替える。



 何度かくり返して、やや大きめのホールに出た。

 いくつか椅子が並んでいて、片隅には枯れた観用植物の鉢がある。

 壁面は愛想のない灰色のパネルではなく、淡い色味のファブリックだ。椅子も鉢も高級感がある。

 高層は富裕層の生活圏なのだろう。


 烏(からす)は低く飛んで椅子の上に降り、うずくまった。


 様子がおかしい。


「王子、大丈夫?」


 隣に座ってのぞきこむと、黒い丸い眼は閉じられていて、心なしか羽の色艶も悪い。


「王子?」


 烏(からす)ははっとしたように身体を起こし、私を見つめた。


「ああ……悪い、少しぼうっとしてしまった」


 いやいや、だいぶ具合が悪そうですけど。


 新王国王の城で見た王子の顔色の悪さと傷だらけの身体を思い出す。



「少し、話をしても良いか。仙女」


「……いいけど、急がなくても大丈夫?」


「ここまで来たらあと少しだ。急ぐ必要もない」


「わかった」


 嘘だ。

 烏(からす)が弱っているのは、王子の身体が衰弱しているからだろう。

 近くに来たから影響が出ているのかもしれない。

 本当は、少しでも早く魂を身体に返した方が良いに決っている。


「仙女はずっと疑問に思っているだろう?」


「んん……どの話?」


「そうだな、端的に言うなら、なぜ私に先見(さきみ)の力があるなどと言われているのか、だ」


 おおう。いきなり核心キタ。


「……そうね、そして貴方がそれを嫌悪していることも」


「仙女、私にあるのは予知能力などではなく、死に戻りの運命だ」


 思ってたより最低だった。


「飛空艇の墜落で死ぬ、大峡谷で新王国の兵に襲われて死ぬ。親父の放った刺客の手にかかる。理由も、目的もわからない。戻る時点さえバラバラだ。どんなに避けようとしても、死と回帰のくり返しだ」


 地獄かな。


「むしろ早い時点でリタイアすべく立ち回ると、より悪い結果を招く。湾市から出ないようにしていたら、連続猟奇殺人犯に監禁殺害された時はまいった……さすがにこれはダメだと思わされたよ。墜落の方がはるかにましだ」


 気の毒すぎて言葉が無い。


「死に戻ると、記憶以外は精神状態もリセットされるようで、次こそはなんとかなるだろうと思っているのが不思議だった。……くり返すうちに、一定の方向性があることには気づいた」


 目の前に居るのが烏(からす)だからまだ普通の顔をして聞いていられるが、人間の姿だったら痛ましくて泣いてしまいそうだ。


「飛空艇で大峡谷を目指す途中で、冥の禽に襲われる。墜落して新王国の兵に捕えられ、城へ送られる」


 たしかに、そういう状況だった。


「その後は様々だ。閉じ込められて餓死したことも、兵士に殴り殺されたこともあったが、たいていはあの新王国王に面白半分に殺される。アレは我々を虫かなにかだと思っている」


 ―――本当に酷い。


「セイカは? あの人は貴方を守らないの?」

「竜人族は万能というわけではない。戦闘能力は高いし、あらゆる感覚も人より優れてはいるが、彼らができることは彼らの手が届く範囲に限られる。そして冥の禽は私とセイカを引き離すように行動している。冥の禽は超常の力を持つ存在だ。セイカが私の足取りを追って来ても、どうしても間に合わない」


「それは……彼も可哀想ね。がさつそうな人だけど、貴方のことは大事にしてるみたいだから」

「そうだな……あいつにもろくでもない役回りを押しつけていると思う。毎回私の死体を見つけることになるわけだから」


 最低だ。


「自分が死んだ後のことはわからないから、その後があるのかもわからないが、回帰の記憶があるのは私だけだというのがせめてもの救いだろう」


 それは救いではなく呪いというのでは。


「なんとかして生き延びる道を探す過程で、新王国王の城まで辿り着くことが必須だろうということはわかった。そして、私がこれをくり返しているのは、あの男を排除する為ではないかという気がした」


 それで王子は、新王国王を倒した『後の事は予定にない』と言っていたのか。

 そこまでの繰り返ししか存在しなかったから。


 それはもしかして、世界の摂理(ことわり)とやらの力なのだろうか。

 アモが新王国を調べると言っていたことからしても、新王国王の存在が摂理(ことわり)の綻びに関係していたであろうことは推察できる。


 しかしそれにしたって、非道すぎる。


「セイカと部下たちだけでは王を止めることができない。そうして何度目かの繰り返しで、ファルタが来た。同時代に竜人族が二人だ。彼女を上手く使えれば、ループをぬけ出すことができるかもしれないと私は考えた」


 摂理(ことわり)の側も多少は手助けする気があったのだろうか。

 意思があるようなものかどうかは不明だが。


「しかし、ファルタを擁してなお、戦局を覆すことができない。二人を同時に呼び寄せるのは、困難が多かった」


 その繰り返しが、どれほどの苦痛と屈辱に満ちていたことか、想像も付かない。


「本当に、あの下劣な男の相手をするのが心底嫌になった。これ程に人は誰かを憎めるのだと、私は身を持って知った」


 烏(からす)は椅子に踞ったまま、その恐ろしい話を淡々と語っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
え、アカネさんの運命、残酷すぎる…! なのにそんなに強いなんて! 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。