86 新王国王3
戦いのシーンと残酷な表現があります
「そう。最初からわかってたってことね」
「おまえはネームドのNPCを連れて俺のダンジョンを壊して回ったろう。転生者だからって容赦しねェぞ。楽しませてもらうぜ」
美少女の見ためは役にたつ。
私が中身通りのオバサンならば、とっくに殺されていただろう。
この男がこんなにべらべら喋ったのは、私の見た目がゴスロリ美少女だからだ。
それにしたって、セリフが底辺すぎる。
王はニヤニヤ顔を貼りつけて立ち上り、私に手を伸ばす。
さすがのおぞましさに総毛だって、私は後退った。
「逃げてみるか?」
お望み通り、私は身を翻して駆け出す。
少しでも時間を稼ごうと思ったのだけれど、一歩も進まないうちに上方でガラスの割れる音がしたと思ったら、私と王の間に降り立ったファルタが剣を振りぬいて王は飛び退った。
「クソッ、思ったより早かったな、けどここは俺のダンジョンだ。NPCごときが好きにできると思うなよっ」
私は王をファルタにまかせ、王子に向けて走る。
王子を押さえていた兵士は呆然としている。
だが王子を助け起こそうとすると、猫耳娘がとびかかって来た。
「逃がさないよ!」
うざい。
知性の低さしか感じられないセリフだ。
見た目はそこそこ良くできていても、中身はお粗末だ。
私に飛びかかろうとした猫耳は、次の瞬間別の窓を割って降ってきたセイカに押しつぶされる。
「アカネ!」
「君は王の首を獲れ!」
セイカの声にかぶせて王子の命令がとぶ。
「ファルタ! ゴーレムの動きを停めてくれ。破壊しなくてもいい! 王が落ちればそいつらは石に戻る」
今にも死にそうな顔色なのに、王子の声は凛として明瞭だった。
命令することに慣れた人の声。
王子が優秀な指揮官だったというのが、これだけでもわかる。
セイカと王、ファルタと三体のゴーレムの戦いは、目にもとまらぬ剣と魔法の交戦で、余波がばんばん飛んでくる。
壁や床が抉られて破片が飛び散り、魔法の炎や氷が降ってくるのだ。
ただここに居るだけでも相当危ない。
兵士たちは、装備を投げ出して逃げてしまった。
あのセイカと互角に戦えるなんて、新王国王の戦闘力自慢だけは驕りではなかったらしい。
私は王子を飛び散る石礫や魔法の氷から守ろうと、盾になるよう庇った。
今の王子よりはまだ仙女ボディの方が丈夫だろう。
それでもセイカとファルタは私たちに戦闘の影響が及ばないように気を遣ってくれているようだ。
時折バリアのようなものが攻撃をはじくのも見えた。
「仙女……」
荒い息を吐きながら、王子が小声でささやく。
「貴女のカでダンジョンの扉を閉じてくれ……アレを逃がさないように」
「了解」
どうやったらいいのか―――はなんとなくわかった。
転移陣というのは、ダンジョンと外界、ダンジョンとダンジョンを繋ぐ装置であり、ダンジョンマスターならばどのダンジョンのものでも干渉できるのだ。
私は床に両手を付き、ダンジョンに命じる。
「城内すべての転移陣を抹消!」
私が触れた所から周囲に青白い光が走り、壁のあちこちで砕け散った。
「できたっぽい」
「ありがとう……」
ふらりと倒れかかってきた王子の身体は細くて、ひどく熱かった。
傷から感染症を起こしているのだ。
私はそんな王子の身体さえ支えかねて二人で床に膝を付いた。仙女ボディ、か弱すぎる。
セイカと王、ファルタとゴーレムの戦いは互格だ。このまま戦闘が長びけば、王子がもたない。
今すぐにでも治療が必要だ。
めまぐるしく動きまわり、魔法を放ち剣をふるう様子をはらはらしながら見守っていて、私は気づいた。
この均衡のどこか一角でも崩れれば勝機は確定する。
ファルタは三体を相手にしているから攻めあぐねているのであって、例えばこれが二体ならば戦力の差は明確だ。
私にできることは、転移陣を操ることだけだ。
ならば―――
やってみるしかない。
破損部分が多くなったのか、動きがやや鈍くなってきた猫耳ゴーレムが立つ床に転移陣を作る。
どこに繋がってもいい。
一瞬で作るには、細かいことは指定していられない。
発動を命じると、転移陣は青白い光を発して猫耳ゴーレムを飲み込んだ。
もくろみは見事成功して、三体の連携が切れた残りのゴーレムたちは一瞬戸惑ったように動きを止めた。
もちろんそのチャンスをのがすファルタではない。
長剣がひらめくと、ゴーレムの手足や頭部が宙を舞った。
残ったゴーレム二体の攻撃力が一気に低下し、ファルタはそれを放置してセイカに加勢した。
全てがほんの数秒のできごとだったのだと思う。
ファルタの剣を防いだ王の首を、セイカの長刀が一撃で斬りとばした。
頭部は床を転がり、私たちの前まで来て停まった。
血は流れず、王の首は罵詈雑言を吐き続けている。
「セイカ、そいつの身体も動きを止めろ」
「ちょ、王子、動かない方が」
王子は兵士が放り出して行った剣を握ると、それを支えによろよろと立ち上り、呪詛を吐く王の顔を真上から貫いた。
おぞましい悲鳴が響き渡り、私は『どこから声が出てるの?』と場違いな疑問に逃避していた。
「焼き払え」
王子の命令が続く。
それはセイカやファルタではなく、その後に窓から降りて駆け寄って来たスーツの男たちに対したものだった。
彼らが遅れて来たのは、セイカやファルタがおそらく飛空艇の停止を待たずに飛び下りて来たからだろう。
もしかしたらそもそも飛空艇には乗らずに走ってきたのかもしれない。
黒スーツに対して、遅くなったと文句は言えない。
私が言うことでもないが。
男たちは魔法を放って王の身体と首を焼いた。
首は叫び声をあげ続けながら焼けただれ、悪臭を放つ煙と共に黒ずんだしみと化した、
「殿下!!」
黒スーツが駆け寄り、王子を支えた。
「すぐ医療班を!」
良かった。
これで一安心だ。
王子を黒スーツにまかせて私は辺りを見回した。
ファルタたちの戦闘の煽りであちこち崩れてきている城内や、床に散らばったゴーレムの残骸。
宙を見て呆然としている女たち。
統制を失ってウロつく半妖―――
その時、そんな混乱した空気が一瞬で凍った。
すべての音が消え、暗闇のような男が歩いて来る姿だけが意識の全てを占める。
男はゆっくりやって来ると、黒スーツに抱えられるようにして立っていた王子の背に軽く指先を触れた。
そしてそのまま歩みを止めることなく行き過ぎる。
私は、視界の隅に崩れ落ちる王子の姿を見ながら、その男に追い縋った。
「何するのよ!! 王子を返して!」
自分の発した言葉の意味も、よくわからないまま―――。




