84 新王国王1
エレベーターに乗ったようなわずかな浮遊感があって、鮮かな緑に満たされていた世界が暗転した。
しかしすぐに目が慣れて、暗闇ではないことがわかる。
ここがあの城の中であることは確かだった。
あの時見た文字は、『新都』の他に何かがわずかに書き足されていたのだ。
だから、城内でも地下のあの場所ではない所へ出たのだろう。
「ようこそ、我が城へ。転生者どの。はじめまして、だな」
部屋の奥から声が響いた。
部屋は膨らみのある円錐形をしていてかなりの広さがある。
上部に窓があるのか陽の光が射し込んでおり、床や壁にも魔石灯が点されて、この城の中では明るい部屋だ。おそらく城の最上部だろう。
よく見れば部屋の奥は段状に高くなって、その最上段に玉座が据えられていた。
大人が三人程も座れそうな大きさで、背部分は天井に届くかという高さだ。
各所に嵌め込まれているのは、宝石なのか魔珠なのか。ぼんやりと光を放っている。装飾は施されているが美しくもなく精緻でも豪華でもない。城と同じくやっつけ仕事っぽく見えた。
これで塗装が金ならばわかりやすく納得がいったのだが、その色は黒だった。
これはこれでわかりやすくはある。
厨二的に。
私は心の中でため息を吐いた。
玉座の大きさからするとずいぶん小柄な王の横には、天使と猫耳娘のゴーレムがいる。
そして、足元にはもう一人、魔女っ子のコスプレ的な少女が侍っていた。
青麦の村で、一瞬だけ姿を見せたのはこの娘だろう。
これが新王国のオールキャストか。
部屋の中には、他にも半裸の女たちが何人も居て、床に敷かれた色とりどりの絨毯の上で、思い思いに過ごしている。
つまり絵に描いたようなハーレムだ。
さて、向こうはオールキャストだが、私はファルタを振り払って来てしまったので、孤立無援だ。
頼れるものは、己の知識と経験、おばちゃんの胆力のみだ。
中二の子供に負けてたまるか。
「はじめまして。新王国王。私は峨山の仙女です」
「そんな役割名で呼び合うのは、転生者同士で水くさいじゃないか。俺は如月煌だ」
嘘くさい名だ。
「よろしく、如月さん。私はサヤと呼んで下さい」
「転生者に会ったのは初めてなんだ。アンタ、日本人じゃないのか?」
「ああ、この髪とかね……中身は日本人よ。こちらで目覚めたら、この姿になってたの。ひと口に転生と言っても、いろいろあるみたい」
「そうだな……。聞いた話だと、転生者はみんなダンジョンマスターで、ダンジョンから出られないとかいうじゃないか。 ハア!?って思ったよな。せっかくの異世界転生だぜ? 魔法で無双しなくてどうするっての」
「でもあなたは出られているんでしょう? そういう噂を聞いたわ」
「俺は神と交渉したからな」
は? 神?
「神と会ったの? よく聞く白い空間とかで?」
首を傾げて、瞬きする。
仙女の見た目に合わせて可愛らしさを前面に出していく作戦だ。
女好きみたいだしね。
ほとんど他人と会話する事も無いだろうし、美少女と話すのは悪い気はしないはずだ。なるべく多くの情報を引き出したい。
「ん? おまえは会ってないのか? 白い空間じゃなく、ここへ来てからだぜ」
「私は会ってないわ。会ったって人の話も聞いたことがない、それってとっても特別なことなんじゃないかしら」
「そうかあ。ふーん」
「神様ってどんな人だった? やっぱり女神様?」
「や、黒っぽい服の男だったぜ」
「そうなのね……それで、神様とどんな話したの? 神様と話せた人なんて他に居ないから、すっごく興味あるわ」
黒っぽい?
普通ソレは神じゃなくて悪魔というのじゃないのか。
定例に則って言うなら。
「俺は最初さ、なんか辺境の山ン中に転生させられたワケよ。で、ダンジョン作れ、だろ。仲間もコイツだけだし。なんなん?―――だよな」
『コイツ』と言って示されたのは足元の魔女っ子だ。
なるほどアレがダンジョンコアだったわけか。
ゴロー氏は、ダンジョンコアと一緒にダンジョンを作っていくと言ってたはずだ。
「大変だったのね」
「そー、そしたら、神が来て、俺だけこんなひどい条件で転生したのはミスだって言うわけさ」
うさんくさすぎる。
ダンジョンについてはゴロー氏が言ってた初期条件と同じだし、何も特別ではない。
この世界の転生あるあるだ。
「で、望みを聞かれたから、レベルアップしたいって言った。あとダンジョンの外に出たいってな。せっかく魔法がある異世界に来たってのに、レベルアップもなしでダンジョンに閉じ込められてたら意味ねーじゃん」
ダンジョンマスターはダンジョンから出られない。最初は食料にも不自由すると、ゴロー氏は言っていた。
「そしたら、レベルアップは出来るよーになるって言って、ステータス画面も見れるようにしてくれたわ」
ステータス画面?
そんなものは無いとゴロー氏も言ってたけど、そこは神(?)の力なのか?
でも、無いものを与えるっていうのは違う気がする。
何か絡繰りがありそうだ。
「スゴイじゃない。レベルアップできる人なんて、聞いたことないわ」
とりあえず思いきり褒め讃えておく。
それにしても口が軽いな。
まあ、この世界の人間とゲーム的な話なんかするのは無理だし、転生者に会ったのは初めてだと言うから話したいのはわかる。
おそらく彼はここにいる女性達や、支配している兵士達ともほとんど会話などしていないだろう。会話に飢えているという私の予想は当たっていたと思う。
「そんで、外に出るのは難しいとか言いやがんの。神のくせに」
「でも何かしてくれたんでしょう?」
「コイツらなら少しだけ出られるってさ、ケチくせーの」
コイツら―――三体のゴーレムか。




