78 城攻略1
「ルニを助けなくちゃ! あんな所に置いておけない!!」
切れ切れに叫びながら、泥が飛び散るのもかまわず地面を叩き続ける。
「あんなのおかしい! あの子をあそこから助け出さなきゃ!!」
感情の箍が外れたというか、どこかが壊れて溢れ出しているというか。
自分でも呆れる程制御がきかなかった。
「ルニを! 助けなきゃいけないのよ!!」
ファルタとアモは―――驚いたことにアモも一緒に荒れ地に来ていた。特にダメージを受けた様子もなくて、アモもまた人間よりは丈夫なモノらしかった―――二人は私の側に立って、黙ったまま一人騒ぎ続ける私を見守っていた。
騒ぎ疲れて私はそのまままた意識を失った。
ゆっくり目を開けるとあたりは暗くて、目の前には焚火の火がちらついていた。
「サヤ」
ファルタの声と同時に、顔がのぞきこんでくる。
やっぱり美形だなあ。
「起きられるか?」
「うん」
背に手をあてて、ゆっくり起こしてくれる。
「これ飲んで下さいー」
アモが温い茶を渡してくれた。
「悪かったな」
ちょっとしょんぼりしたファルタが珍しい。
「もう少し気づかって移動するべきだった」
「もう大丈夫、なんか取り乱しちゃってごめんね」
「サヤさんのせいではないです。ショックで盟約の摂理が暴走したですよ」
それ、ちっとも安心できないヤツだ。
自分を自分で管理できなくなるのは怖い。
よくわからない妙な力にふりまわされるとか。
それはこの仙女ボディにインストールされているものなのか。
同じことを何度も叫び続けていた記憶があるのは、いかにもバグっぽい。
「サヤはルニを助けろと言っていたな」
さすがにあれだけ主張すれば、ファルタも憶えているらしい。
「おそらく盟約にとって必要なことですー」
「ふむ。あの時は、城の上部に以前会った羽のある女が現われてな」
あの天使か。
それにしても城の上部は相当高かったと思うけれど、さすがファルタは眼が良い。
「あの村で見た時よりだいぶ危険そうだった」
たしかあの時は数撃でファルタに叩き落とされていた。
「城の周りにはサヤとアモの他にも女たちが居たからな。皆をかばいながら戦うのは得策ではないので一度退いた」
ファルタにしてはものすごくしっかり説明してくれる。
私が十分に納得することが必要だと考えたのだろう。
ファルタは脳筋だがバカではない。
「ルニは……そうね、抱えて移動は危険すぎるか」
「サヤにも過酷だったようだ。申し訳なかった」
「それはもういいよ。理由もわかったし。あの天使はそんなに危ない奴なの?」
「そうだな、あれはおそらくゴーレムだ。村はダンジョンの外だったが、あの城はダンジョンだから」
「え、ちょちょっと待って、城が、ダンジョン?」
「そですねー、峨山の塔もそうでしたけど、登るダンジョンも珍しくはないですー」
「……そっか。そうなんだ。じゃあやっぱり本当に新王国の王は転生者でダンジョンマスターなのかも」
「普通、ダンジョン産のゴーレムがダンジョンの外に出て来ることはないのだが」
ファルタが眉を寄せて言う。
「でもあれはダンジョンの外で生まれた魔物ではないですー。異例であっても、ダンジョン産ゴーレムを外に持ち出すことができていると考えざるをえませんね」
「新王国王が危険と言われる由縁ね」
「あの場で戦うには、敵の戦力もわからぬし、あの城の機能もわからん。しかも周囲に人間の女達が相当数居た」
「あの人たちは皆人間だった? ゴーレムとかではなく」
「そですねー。ルニと同じように何かに操られているという印象はありましたけどー、普通に人でしたー」
「なるほど……。じゃあ、ルニを助けに行くのは決定事項として、問題はどうやって攻略するか、だね」
「あの羽のある女以外にも強力なゴーレムが数多く居たなら、難しいかもしれん」
「そんなことあるかなぁ、ゴロー氏だって、ボスを作るのは大変だって言ってたし、いくら新王国王が規格外だとしても、そんなに大量のゴーレムを作って操れるとは思えない」
「ですねー。しかもアレはダンジョンの外に出てますー。ボス部屋に置いてあるわけじゃないですから、作るのも制御するのも負担が大きいはずです」
アモが意外とダンジョン事情にくわしい。
そう思ってアモを見てると、
「今回の仕事は新王国と綻びの調査です。新王国王は、ダンジョンマスターではないかという話は前からありました。だからダンジョンのことは少し調べて来ましたですー」
アモの持つ情報網もあるのだろう。
独自の伝え石もあると言っていた。
「新王国王は、綻びを作ってる?」
訊ねると、アモは難しい顔をした。
「小さな綻びはともかく、大きなものはとても私の手には負えません」
「ん? じゃあもしかして、ルニがおかしくなっているのは治せたりする?」
「そですねー、そのくらいなら、できます」
断言した。
おそらくアモたちは、新王国に関する情報をそれなりにつかんでいるのだ。
世界の摂理に関わるというだけのことはある。
「オケ、じゃあ、とにかくもう一度あそこに戻ってルニを捕まえて、あの洗脳みたいなのをアモに解いてもらう。ルニが治ったら城から離れて、ルニの安全を確保する、ということで」
「わかった」
「はいー」
作戦とも言えない雑な方針だけ立てて、私たちは城へ戻るべく夜の荒野を歩き出した。




