74 竜都から
竜都を後にして、新たな旅が始まった
―――と意気込んでみても、何が変わるわけでもない。
街の外はあい変らずの荒れ地で、一日歩くと小さな村にたどり着いた。
村の造りは貧しげだったが、意外なことに宿が五軒もあった。
村全体で二十軒もないだろうに。
泊まった宿で訊いてみると、この村は竜都へ行く旅人の為の宿場なのだそうだ。
竜都はかなりの観光地らしく、宿には結構な人が泊まっていた。
それにあの街には農地がなかったから、食料の輸送も頻繁に行われているのだろう。
そういえば、荒れ地の中の道も人通りが多かったし、荷車も行き来していた。
そして、都の周囲が荒れ地なのは、大昔に墜ちた竜骸のせいらしかった。
墜落の当時は、あたり一面焼け野原になったという。
竜都が観光地なのはわかる。
食べ物や建物が、リトル湾市といった趣で、この娯楽に乏しい世界にあっては、世にも珍しい場所だ。
いたる所が大自然なこの世界では、大自然は観光地たりえない。
江戸時代だって、観光地はだいたい神社仏閣とかのある場所だった。
一生に一度は竜都を見てみたいとやって来る旅人、竜都の土産をいっぱいに持って帰る人々と共に、しばらくその街道を歩いた。
宿場町の整備された道は快適だった。
固い寝台でも、黒パンとスープの食事でも、屋根があり温かいものが食べられるだけで、野宿の何倍も楽なのだ。
竜都を出てからは、まっすぐ東ではなく北寄りに進んでいる。
街道がそちらに続いていたのもあるが、東は大峡谷といわれる谷から続く川や谷が多くなって進むのが難しいらしい。
ファルタなら問題なく越えていけるのだろうが、私は遠慮したい。
そんなわけでだらだらと北東に向かって進んでいる。
今のところゼイタクもする気がないのでお金も余裕があり、のんびり進むことに問題はない。
コーサカ氏の邸宅が異次元に快適すぎて、この辺りの高級宿に泊まってもたいして感動はない。
お金の無駄なので、中の下レベルの宿に泊まっている。
もともとファルタは野宿でも一向にかまわないのだ。
季節柄なのか、雨が多くなって道程ははかどらない。
どうしても早めに宿に入って休むことになる。
仙女ボディは病気とも無縁で、雨にぬれても風にあたっても、体調を崩すことはなかった。
それでも疲労感は蓄積するもので、三日も雨の中を歩くと四日めには宿の寝台で一日引きこもる、という具合だった。
北へ進むにつれて、また新王国の噂が聞こえてくるようになった。
いわく、北方三国と言われた国々が陥落したらしい、とか。
オルトリ辺りにも奴隷狩りが来るようになったらしい、とか。
良い話は一つもない。
雨に降りこめられて、古い宿でぐだぐだしていた時、ちょっと博識な旅人と出会った。
彼は小金持ちの隠居で、竜都観光へ行く途中だという。
ご隠居は近隣の国について話してくれた。
私がざっくりなーろっぱと呼んでいるこの辺りには、六国がある。
北方三国を入れると九国。
新王国が台頭してくる前は、十三国程あったという。
私がコノンノのアモにもらった地図を出すと、
「これは素晴らしい」
と絶賛してくれた。
だいぶ粗い地図だと思うけれど、そもそも地図というものもほとんど存在しないようだ。
で、その地図を指しながら、今私たちが居るのはフェンス、東南にツィーエ、西はオルトリに接していて、南はデェッツェンになる。
その他に通ってこなかった国が二か国。
北は新王国に征服されたという北方三国だ。
そうしてみると、新王国は西の辺境から大峡谷まで大陸の北側をほぼ制圧していることになる。
私が雨を言い訳に留まり続けているのは、新王国の領域内に行きたくないからだ。
しかも、北に行ったからといって、大峡谷を渡れるかもわからない。
「新王国の王は、奴隷を使って谷を降りる道を拓いています。今はまだ細い道しか通っていないようですが、そのうちもっと広い道を造るつもりでしょう」
私とアモが、辺境の死んだダンジョンを出た後に下ったような道だろうか。
「大峡谷を超えて、竜骸を手に入れる為に軍が通れるような道を造るってことですよね」
「そうですねえ、大峡谷の向こう側はほとんど砂ばかりの土地ですから、今まで行こうとする者は無かったのですが」
ご隠居は、宿の食堂で薄いエールを飲みながら教えてくれた。
茶だの甘味だのといったしゃれた物はない。
粉に塩味をつけて脂で焼いたものをつまみに、私も味のしないエールを飲む。




