71 竜都6
ふり返って見ると、コーサカ氏の館は広い前庭を持つ石造りのお屋敷だった。
イメージとして近いのはイギリスのマナーハウスだろうか。
多くの窓にガラスがはまっているのはさすがだ。
しかもこれが見せかけだけだと知っていると、ちょっと複雑な気分だ。
湾市は直接的に高度な文明や文化をここに持ち込むことを控えているのだろう。
表側はこの辺りの文化と文明レベルに合わせてあるわけだ。
周囲を見わたすとここは、すり鉢状の街のだいぶ底に近い場所だとわかる。
すり鉢の直径がかなり広く斜面がゆるやかなので、全体に陽があたっていて明るい。
階段状に造られた街は、白い地面に色鮮やかな家々が映えて美しい。
しかしざっと見ても付近には住宅以外見当たらない。
大きな館が多く、高級住宅街なのだと思われる。
もしかすると、貴族街というものかもしれない。
コーサカ氏は貴族ではないが、湾市の名家ともなればここらの貴族より立場は上だろう。
とりあえず下に降りていけば、竜骸の発掘場所があるかもしれない。
コーサカ氏のくれたカードがあれば内部にも入れるだろうか。
「竜骸を見に行こう」
ファルタを誘って階段を下りて行く。
コーサカ氏の邸宅あたりは大きな屋敷が多くて人気が無かったけれど、下っていくと次第に人の姿が多くなってくる。
周囲には小店や屋台が並んで、観光地の様相を呈してきた。
さっそくファルタが串焼きの店に引き寄せられる。
コーサカ氏のくれたカードの威力は絶大で、こんな屋台の店でも問題なく欲しいだけの品を手に入れることができた。
串焼きを一気に十本も食べてファルタはごきげんだ
私は一本でも持てあました。
さっき菓子だのアイスだの食べたばかりなのだ。
串焼きそのものは、スパイシーな味付けで美味しかった。
今までの旅で食べた素朴な味つけとは、一味ちがう。
これは、食事は期待できそうだ。
おそらく湾市から文化と共に交易品がもたらされているのだろう。
次にファルタが手を伸ばしたのは、クレープのようなものだった。
見かけはクレープだけれど中の具は肉や芋で、かなりボリュームがある。
「ファルタ、後でレストランで夕飯食べるからね」
「わかった」
だから買い食いは程々にしようね、という案だったのだけれど軽くかわされた。
そしてファルタは道々で焼きまんじゅうのようなものを食べ、切った果物を食べ、パンの器に入ったシチューを食べ、ジョッキのエールを飲んだ。
私は果物を少しだけ食べた。
下まで行き着くと、竜骸の残滓を見られる場所に入る門があった。
門衛はカードを見せるとにこやかに扉を開けてくれた。
中はうす暗く、所々に小さな灯りがついている。
ちょっとアトラクション的なワクワク感がある。
以前、廃坑になった鉱山に入ったことがあったけれど、それに似ている。
でも鉱山跡のような湿気がなく、天井から水が滴ってくることもない。
岩石に混じって、時折金属のような光沢のある石があったり、ぼんやりと光っている部分があったりする。
通路は広くなったり狭くなったりしつつ、下へと続いている。どれが竜の残骸で、どれが地層なのかよくわからない。
めぼしい物はすでに掘りつくされているらしいので、竜骸の原型とかは知る由もない。
ただ薄ぼんやりと発光する壁面に、普通の地層ではないのだろうと感じるだけだ。
それでもここはそこそこメジャーな観光地らしく、声を上げながら歩く人たちとすれ違う。
この街の人たちにとっても、デートスポットだったりするのだろうか。
「何も無いね」
ぼっそりとファルタにつぶやいてみる。
返事を期待したわけではなかったが、
「これはただの見せ物だからな」
と返ってきて驚く。
「え、そうなの?」
「本物のある場所に、簡単に人を入れたりはしない」
そう言われればそうだろうけれど、なんだかだまされた気分だ。
たしかにコーサカ氏は「観光してこい」と言ってたのであって、竜骸を見て来いとは言っていない。
「おそらく竜骸の残滓はもっと深い所にある。見たければあの湾市の者に言えばいい」
コーサカ氏を通せば見られる。
それはそうだけれど、そこまでして見たいかというと、微妙だ。
竜都に来た最大の目的は、湾市の人間と接点を持つことだった。それはもう果たした。
「たいしたものは残ってないって言うし、見なくてもいいかな」
「サヤがいいならそうしよう。そろそろ戻るか。料理屋をのぞいてみよう」




