65 竜都まで
地面に墜ちた飛空艇に近寄ってのぞいて見ると、ハッチが開いて人が出て来た。
十人程ぞろぞろと出て来たのだが、あきらかに身分の高そうな人物が一人、護衛に先導されてデッキに上がって来る。
おそらく中にいると危険なので避難してきたのだろう。
外見はそれ程被害が無いようでも、飛空艇のダメージはわからない。
だが、話をしやすそうな人物が表に出てきてくれたのは僥倖だ。
「あの人に話聞いてみよう」
ファルタを引き連れて飛空艇に近づく。
おそらく湾市に関する情報を、最も持っているだろう人物だ。
今まで少しずつ話を聞いて来たけれど、どうにも隔靴掻痒の感がぬぐえなかった。
情報が小出し過ぎて、湾市の全容もわからなければその王子であるはずの人物についてもさっぱり掴めない。
そこへ降ってわいたこの好機だ。逃してなるか。
先刻のファルタと鳥の睨み合いから推測するに、鳥が撤退したのはファルタが居たからだろう。
さもなくば、この艇はもっと徹底的に破壊されていたに違いない。
『だから私達は命の恩人だよね!』
と勝手にリクツを付けて、私は真っ直ぐ一番身分の高そうな人物の元へ向かった。
その人物は、年の頃は二十代前半、中肉中背、黒髪に黒い瞳で東洋系の顔だちの男性だった。
そして驚くことに、ダークグレーのスーツ姿だった。
この世界で初めて見るスーツ。
湾市はなーろっぱではないということだ。
にしても、男性……だよね?
スーツは男物だ。
なぜそこが疑問形かというと、非常に女性的な印象だということと共に、男と断定しかねる目の覚めるような美形だったからだ。
ファルタを見た時も美形だと思ったけれど、この人物は全然タイプが違う。
ファルタは女性だけどどっちかというと男性っぽいクールビューティだ。
私はずっと男だと思い込んでいたくらいだし。
そして人間離れした印象がある。
この人はおそらく男性で、逆に女性的な雰囲気だ。
なんというか、不思議な色気があるという感じだ。
しかもファルタとは逆に、とても人間的だ。温かな血が通っている印象が強い。
女にも男にもさぞもてることだろう。
「君たちが……」
ちょっと予想を超えた美形を前にして一瞬言葉が出なかった私を置いて、その人物が声をかけてきた。
声も艶やかだが確かに男性だ。
多少は墜落のダメージがあるのか、ややふらついているようだ。
「そうか、君は、竜人族か」
めっちゃ特定してきた。
今までも、アモは見ただけでファルタのことも私のことも特定したけれど、普通の人達はそんなことはしなかった。
この人もアモのような特殊な人間なのだろうか。
「何故わかりましたか?」
ここは判別しておかねば。
これ以上謎の種族がいるなら、把握しておくに越したことはない。
「あ……ああ、竜人族は今現在世界に二人しかいない。顔と名くらいは識っている。……助けてくれたこと、礼を言う。貴女は竜人族の連れなのか?」
なるほど。湾市のエリートともなれば、そのくらいの世界情勢は把握しているということか。
想定外に優秀だ。
「まあ、そうですね。貴方は?」
暗に、先に名告れと言ってみる。
頭の切れそうな人物だし、がちがちの貴族とかではなさそうだ。
私のラノベ知識によれば、貴族は格下から名告るとか格上から声を掛けるべしとか面倒なしきたりがあるらしいから、そうでないのは助かる。
「失礼した。私はアオイ・コーサカ。湾市の者だ」
アオイ? アカネと対になったような名前だ。
「もしかして、貴方アカネという人と関係があったりします? 兄弟とか親戚とか……」
「とんでもない! 単なる偶然だ。コーサカ家の長男は、代々アオイと名付けられる。湾市建造の計画を推進した初代から続く習わしだ。新参者のカミクラなどとは無関係だ」
情報量が多すぎる。とりあえずこのアオイくんがプライド高いことはわかった。
「そうですか。それはすみません。あ、申し遅れましたが、私は峨山の仙女でサヤといいます。あちらはファルタ。アカネ王子を探しています」
とりあえず自己紹介はしておこう。こういうタイプには、きちんと情報を提示しておいた方が話が早く進む。
「峨山の……」
コーサカ氏は考え込むようにしてまじまじと私を見た。
王候貴族のいる社会だから、最初は身分の高そうな人物=貴族かと思ったけれど、コーサカ氏は貴族というよりはビジネスマンというイメージだ。財閥の御曹司が一番ぴったりくる。
「アレがまた戻ってくることはありませんか」
相手が沈黙してしまったので、続けてちょっと脅してみる。
コーサカ氏はあからさまにびくっとして、空を見上げた。
まあ、妥当な反応だ。
あそこでファルタが現れなかったら、おそらく飛空艇は堕落をまぬがれなかったろう。
乗員の命があったかは、運次第というところだ。
それにもしかしたらあの黒い鳥は、飛空艇を狙うだけでなく乗員の命も狙っていたかもしれないと思う。
巨大な鳥に喰われるなんて、死んでいたらまだしも生きていたらスプラッタホラーだ。
怖すぎる。
とりあえず『命の恩人』を強調しておく作戦だ。




