64 竜都へ
宿の一階にある食堂で夕食を摂る。
宿を選べるほど大きな街ではないので、街に入ってすぐの宿だ。
それでも、コノンノを出てから泊まった宿のような魚油の灯は使っておらず、灯の油は植物油らしくてひどい臭いはしなかった。
おそらくは植物油の方が高価だ。
この辺りの方が豊かなのか、単に海から遠いから魚油は使っていないのかはわからない。
しかし宿というのは、建物や寝具の質もさることながら、不快な臭いがしないことは重要な要素だ。
元世界でも、ヘタな安宿に泊まると悪臭に悩まされることは珍しくなかった。
夜行バスで隣席の足が臭うとか、最悪だよね!!
夕食はおなじみの定食一択だったが、野菜多めのスープを食べていて気づいた。
そこはかとなく出汁味を感じるのだ。
野菜をつつき回しながらその中の一種類に辿り着く。
これだ。
昆布に似た旨味がある。
磯の匂いはしないから、海藻ではなさそうだ。
この野菜を手に入れられたら、野宿のQOLが爆上がりではないか。
と思ったが、食堂の灯火は乏しすぎて野菜の正体は判然とせず、名前を訊くことも難しい。
朝食にもこれが出たら絶対訊くぞと心に誓ったけれど、残念ながら朝食はパンと飲み物だけだった。
次にどこかでまた出会うことを期待しよう。
まぁ、そんなこんなでそこそこ快適な旅を続けて、ようやく彼方に竜都が見えてきた。
それは、なんとなく緩く盛り上った丘の上に、建造物らしき物がぽつぽつと見えるだけの、『都?』となるような景色だった。
どういう構造の街なのか、いまいち分からない。
オルトリ国の王都オルトリアは、丘の上に造られていたし、コノンノの街は岬の突端にあった。
大抵の城は、高い場所にあるものだ。
竜都はとりあえず丘状の街ではないらしい。
歩いてもなかなか近づかないところをみると、かなり大きな街なのだろう。
「遠いねー」
「そうだな」
私の足が遅いから、ということはファルタは言わない。
ありがたいことだ。
まあ、急ぐ旅ではないどころか目的のある旅ですらないのだけれど。
ぼんやりと彼方の街を見ながら歩いていたら、眼の端になにかが見えてきた。
故郷ではわりと見なれた光景だが、ここでは見たことのないもの。
空を飛ぶものの影が。
形も定かではなく、色も黒にしか見えない。
相当に距離があるのだ。しかし鳥ではない。
まず大きすぎるし、鳥の飛び方ではない。あれは航空機だ。
「ファルタ! 飛行機! いや、あれが飛空艇!?」
その影はみるみる近づいてきて、あっという間にその形もわかるようになった。
ファンタジーRPGで見るような、空飛ぶ船だ。
見なれた飛行機ではなく。
「様子が妙だな」
ファルタは眼をすがめて空を見やる。
言われてみれば、何か黒いものがもうひとつまとわりついている。
こちらは鳥か?
鳥にしてはずいぶん大きいけれど、飛び方は鳥に近い。
「攻撃されているのか?」
鳥が飛空艇を攻撃?
ファンタジーにしてもびっくりな光景だ。
その驚きの戦闘現場はどんどん近づいてきて、鳥が飛空艇を攻撃している様子も、飛空艇が反撃しているらしいのも見てとれるようになった。
飛空艇は、数ヶ所から煙が出ている。
どうも鳥の方が優勢らしい。
鳥と言っているけれど、相当に大きい。
中型のヘリくらいはありそうだ。
飛空艇に比べて格段に機動性が高く、ヒットアンドアウェイをくり返して攻撃している。
飛空艇はどんどん高度を下げてきて墜落寸前。
その時、鳥がいきなりこちらを見た。
見た、と明らかにわかった。
鳥の顔や眼の色まで、はっきりくっきりとズームしたように見て取れた。
鳥と目が合った私は震え上がったが、鳥が注目したのはもちろん私ではなく、剣を抜き放ったファルタだ。
鳥はほぼまっ黒で、眼だけが金色だ。
ファルタはそんな鳥にも全く臆することなく、両者は睨み合った。
それはほんの一瞬のことで、鳥はいきなり翼をひるがえして飛び去った。
すごいスピードで、あっという間にその姿は彼方の空に消えていた。
一方飛空艇の方は、大音響とものすごい砂塵と共に、目の前の荒れ地に墜ちた。
墜落なのか着陸なのか微妙なところだが、砂埃が治まると、機体はそれほど傷んでないのが見てとれた。
爆発炎上していない時点で、なんとか胴体着陸成功といっていいのかもしれない。
火を噴いている様子もないが、乗員は無事だろうか。




