61 デッツェン領主館
デェッツェンの領主館は、ダンジョンをはさんで街の反対側にあった。どうりで来た時に見かけなかったわけである。
広めの前庭があって車寄せがある以外は、街の他の建物と似たような木組みの家だった。
ただサイズがでかい。
まん中は五階建て、両翼は三階建てで、ざっと見た目でも部屋数は数十ありそうだった。
ダンジョンがあるだけの田舎町だと思っていたけれど、どうしてデェッツェンは立派な領主館まである栄えた街だった。
領主館はまだ新しそうで、ゴロー氏が『ダンジョン作って15年」と言っていたこととも合う。
ゴロー氏すごいな。
ダンジョンだけでなく、街ひとつ作ってる。
貢ぎ物だかお供えだかで食料を差し入れてもらっているというのもうなずける。
大切にされているのだろう。
この街はダンジョンによって成りたっているのだから。
街の人々は、ダンジョンマスターと呼ばれる精霊のような者がダンジョンを造り運営していることは知っているのだろう。
そして、ダンジョンマスターは食事を欲していることも。
質の高いダンジョンは街に多くの富をもたらすから、それを維持するためのお供えは重要だ。
食べ物ぐらいで良いならお安いものである。
高さ3メートル位ある扉が開いて、館の中へ招き入れられた。
玄関ホールは家一軒入りそうなくらい広く、コノンノの領主館を思い出させた。
ただあちらは市役所のような場所だったけれど、この館は住居らしい。
真っすぐ奥へ案内されると、領主が待っていた。
領主の部屋は玉座の間などという感じではなく普通の応接間だったが、この場合の普通はお屋敷基準だ。
高い天井には天井画が描かれ、窓には重そうなカーテン、壁にはタペストリーがかかっている。
巨大な暖炉もあって冬は寒いのだろうと思われた。
そしてなんと窓にガラスが入っている。
今は夏なので一部開け放たれているが、板ガラスを作る技術があったとは驚きだ。
今まで一度も窓ガラスを見たことはなかった。
ガラス製品はせいぜい小ぶりの器程度で、それは元世界の技術の発達にも合致する。
ガラス板が生産されだしたのは、せいぜい明治以降のことだ。
それにしても、突然ガラス板を作る技術が出てきたとはちょっと考えにくい気がする。
街の家には全く無かった。
もしかすると、これはダンジョン産なのかもしれない。
そう思い至ると納得する。
ダンジョンは、単にモンスターがいて魔珠を排出する場所ではなくて、稀にオーバーテクノロジーの産物をもたらすこともあるのだろう。
ダンジョンの街の領主館にダンジョン産のガラス窓は、権威の象徴としてこれ以上のものは無い。平らな窓ガラスを通して射し込む陽の光は明るく部屋を照らしていた。
家具は全て木製だが、重厚な作りで高級感があった。全体的に裕福な感じだ。
なーろっぱ貴族の館とはこういうものか、と納得するインテリアだった。
「よくおいで下さった。仙女殿、竜人族殿、私はここデェッツェンの領主を務めるヴェズモント・ブランデルと申す者、以後お見知りおきを」
立ち上って出迎えたのは領主自身らしく、挨拶もずいぶんと丁寧だった。
しかも『領主』という言葉からイメージしていたような太った中年男ではなく、若くて背が高く顔もそこそこ良い男だ。
なんかラノベっぽくなってきた。
本気でラノベだったら、絶世の美男子になるのだろうけど。
「どうぞお座り下さい」
席に着くと、ドアが開いてしずしずと茶が運ばれて来た。
香りだけでも分かる、雑草や穀類ではない本物の茶の葉から作られた紅茶だ。
これだけでラノベ感マシマンである。
菓子は素朴な焼き菓子だったが貴重な甘味だ。
遠慮なく(主にファルタが)いただかせてもらう。
「お招きしたのは」
と領主が話し始める間もなく、ファルタは控えていたメイドらしき人に菓子のお替りを催促している。
「すみません。私たちは貴族どころか庶民の礼儀にもうといので、失礼もあると思いますが、大目に見ていただけると助かります」
横目でちらりとファルタを見ながら申し開きする。
ファルタが絶対強者であるという情報は当然伝わっているだろうから、領主様はにこやかにうなずいて菓子の追加を命じた。
「仙女殿や竜人族の方とお会いする機会はそうあるものではありませんから、お話を聞きたいものだと思いましてね」
領主様は意外と気さくだった。
ラノベの貴族は、平民など人間ではないと思っているというような設定も多いのでこれは助かる。
興味本位で来てみたけれど、もめ事はおこしたくない。




