60 ダンジョンの街で
懐も温まったので、ダンジョンの街デェッツェンで夕食を摂る。
デェッツェンは国名だが王都は別の名らしく、有名どころのこのダンジョンがデェッツェンの名を冠されているため街の名もデェッツェンになったらしい。
ゴロー氏はがんばったのだなあと思う。
ダンジョンをただの金稼ぎの場だと思っていたのが申し訳ない。
街は賑わっていて食事処もピンキリだ。
名物はソーセージらしい。
屋台にも色々な形のソーセージが並んでいたが、ここはゆっくり腰をおちつけて食べたい。
粗野な冒険者や酔っ払いが騒いでいるような店も避けたい。
ということで、やや高級そうな店を選んだ。
ビアホールのような天井の高い店は、壁に装飾が施され、テーブルや椅子もしっかりした作りで居心地が良い。
しかし、店にはメニューもなければ食品サンプルもないので、私には注文すら難しい。
アモといた時はアモが、今はファルタが注文してくれる。
注文をとりに来た女性が、問答無用でハムの盛り合わせっぽいものとエールを置いていった。
突き出しみたいなものだろうか。飲み物も来ちゃうんだ。
ハムを食べ切る頃に、注文した品が届く。
なんと大きな鍋が運ばれて来て、びっくりだ。
この世界にも鍋料理ってあるのか。
まあ鍋料理は基本と言えば基本だ。
中身は、太めのソーセージとキャベツみたいな野菜だった。自分で椀にとり分けて食べる。
私が一杯食べる間に、残りは全てファルタがたいらげていた。
けっこう激熱なのに、竜人族って口の中も丈夫らしい。
味付けは塩とハーブだけだが、ソーセージから旨味が出て美味しい。
鍋が空になる前に、大きなソーセージを輪切りにして焼いたものが出てきた。
焼いたポテトやニンジンが添えられている。すっぱいピクルスもあって、油っこいソーセージに合う。
ハーブのきいたソーセージや、サラミみたいに固いもの、チョリソーのような辛いもの。
ソーセージのオンパレードだったけれど意外と飽きずに食べられた。
存分に名物を食べて、ちょと上等な宿でゆっくり眠る。
やっぱりお金があるって素晴らしい。
ダンジョンまでの切りつめ生活を卒業して、優雅な旅復活だ。
ありがとう、ゴロー氏。
もう当分ソーセージの顔は見たくない、と思う程食べて、良い寝台でゆっくり眠るという最高の贅沢をして、またハムとソーセージの朝食をちょっと飽きながらもちゃんと食べて、デェッツェンの街を発とうとした―――ところで「待った」がかかった。
見ためは十分豪華なのに、ちっともふかふかではない寝台のせいで凝った肩をまわしながら宿を出ようとしていた私は、突然前に立ちはだかった高級そうな服を着た壮年の男と、その後に控えた軽鎧の兵士に行く手をさえぎられた。
何事!?―――と警戒心がわきおこる。
何かやっかいごとに巻き込まれるのだろうか。
何を言うべきか見当がつかなかったので黙っていると、
「峨山の仙女様と竜人族のお方ですね」
と尋ねてきた。
「そうですけど……何かありましたか? これから街を出る予定なんですが」
身バレしてるじゃん。
そうか、ゴロー氏情報か。
ダンジョンで荒稼ぎしすぎたから、釘を刺しに来たとかだろうか。
警戒心もあらわに男を見すえて言うと、
「我が主、デェッツェンの領主が、貴女にお会いしたいとのことです。どうか、共に領主館までおいでいただきたく」
想定外のお招きだった。
お貴族様にこんな低姿勢で頼まれたら、嫌とは言い難い。
この人はおそらく執事とか家令とかいう立場の人だと思われたけれど、優雅な身のこなしはいかにもお貴族様だ。
宿の従業員たちは皆隅っこにひっこんで平身低頭しているし、ここで騒ぎをおこしたくはない。
というか、行くことは別にかまわない。
遣いの男の態度や口調から見て、何かを咎めようという意図は無さそうだ。
街の人たちの様子を見るに、この国には厳格な身分制度があるのだろう。
今まで辿って来た道が、ド田舎とか山奥ばかりだったので、あまり意識することがなかったのだ。
単に旅人として通過するだけなら、お貴族様と係ることもまず無い。
ここでその実態を見ておくのは、悪くない。
現代日本では貴族なんて、映画の中にしか存在しないものだったから。
導かれるまま宿の外に停まっていた馬車に乗る。
初馬車だ。
見かけは美しい黒塗りで、座席も天鵞絨のような布が貼られていたけれど、乗りごこちははっきり言って最低だった。
この世界の人が、長距離を移動しない訳である。
こんな乗り物しかないのでは、身分の貴賤問わず移動は苦行だろう。おそらくは高級車であろうこの馬車でコレなのだから。
たかだか10分にも満たない道程で、目的地にたどり着いた時にはあちこち痛くてへろへろだった。




