59 デェッツェンのダンジョン 4
「アカネ…… アカネ・カミクラか? 皇帝の息子の」
「そうそう、その人」
「探すって?」
「現在絶賛行方不明だとか」
「はあ、そうなのか。皇国も複誰らしいからなあ」
「皇国って、湾市と同一なの? その辺もよくわからないんだけど」
「位置としてはほぼ同一だな。湾市は皇国の首都だと言ってるが、その外側に人が住んでいる地域はほぼ無い」
「周り中砂漠だってきくけど」
「らしいな。大昔の醒嘯で、海と周辺が全て砂漠になったと言われてる。なんかバカみたいな規模の大災害だよな」
「恐竜絶滅の原因になった隕石衝突レベルだわね」
「そんな感じだ。まあそれで湾市はかつて海の中に建つ都市だったのが、そこだけ砂漠の中に残った。周囲の国はほとんど砂に埋もれてしまったという話だ」
「まわりにも国があったんだ」
「あったらしい。全滅だよ。湾市はそもそも、3000メートル級の都市を海上に造るってド派出なプロジェクトだったおかげで、砂の上に残ったわけだ」
「富士山並みのビル群? 意味わかんないわね」
「でもそのおかげで生き残って、今も当時のテクノロジーを伝えてるって話だ」
「計画した人は先見の明があったのか、ただのアホだったのか……それにしても、その湾市に対抗してる新王国もヤバいわね」
「ヤバさで言うなら、新王国の方がヤバい。国王の独裁ってのも恐い。でも王国内では国王は絶大な人気があるらしい」
「ヤダヤダ、できるだけ近寄らないようにしよう」
「それが良いと思う。とにかくあの国はヤバい」
いいオトナが二人でヤバイヤバイ言い合っている語彙の無さにアタマが痛くなる会話だが、なんとも他に言いようがないのだろう。
ゴロー氏はこの世界について私よりは遙かに知識があるようだけれど、ダンジョンから出られないのだから情報を得る手段は限られる。
もっと話を聞きたかったけれど、ファルタを放置している状態の上、彼のダンジョンを派手にぶち壊した後だ。
おそらく修復とか大変だろうと思われる。
あまり長居するのも申し訳ない。
「いろいろ教えてくれてありがとう。ダンジョン壊しまくってゴメンね」
「いや、コイツが完全にやられなかっただけでも有難いよ」
と言ってゴロー氏は、動きを止めているボスをなでる。
「それに、竜人族の力量も見せてもらったし。いやあホント強いよな。古参のダンジョンでも敵わないんじゃないかな」
「せめて参考にしてね」
「そうする。ああ、外まで送るよ、戻るなら」
「ファルタ、外へ送ってくれるって。帰ろう」
「わかった」
ファルタは私が行動を決める事に対して、いっさい反対しない。
おそらく『盟約』とやらの履行に必要だと考えているのだろう。
私はただ気分で動いているだけなのだけれど。
もしかしたらそれすらも『摂理』に操られているのかもしれない。
考えても仕方ない事は考えない。
この世界の摂理は、言ってみれば『運命』みたいなものだ。
対応することはできても、操作することはできない。
そう思っておくのが精神衛生上良いとわかってきた。
ゴロー氏に礼を言って、ダンジョン出口で別れた。
なんだか少しだけ心が軽かった。
久しぶりに日本のテンポとテンションで話せたのが、ずいぶんと楽しかったのだと思い至る。
ベースにある知識を共有していることは、会話の基本に必要なのだ。
この世界の人々とは、常識が違い、感性が違い、価値感が違う。
言葉は通じていてもどこか外国で外国語を使っているような違和感がある。
懐かしく遠い現代日本。
そこでの生活自体には未練が無くとも、文明と文化は恋しい。
もしかして、湾市にはそれに近いものがあるのではないか。
その希望が、私が湾市を目指す動機だった。
ダンジョンを出ると、ダンジョン産の物品を買い取る店が並んでいた。
入り口とは風景が違うところを見ると、入り口と出口は多少離れた場所にあるらしかった。
その中の一軒で大量の魔珠と魔石を換金しようとしたら、あまりの量に店主がお手上げ状態になり、両隣の店の店主も呼び寄せ、三軒に分けて換金するという、当分語り草になりそうな事態と相なった。
ともあれ、重たい珠だの石だのは高額貨幣に変わって、圧倒的に軽くなった。
普通ならそんな高額貨幣は怖くて持ち歩けないのだが、なにしろ所持者がファルタだ。
どんな盗賊も手出しできない。すなわち、どんな金庫より安全ということだ。
かまわず全て革袋に入れてファルタが持った。




