56 デェッツェンのダンジョン
「着いた一っっ」
ダンジョンがあるというデェッツェンの街に着いた。
街はとても賑やかで、商店や宿が並んでいる。それも高級宿から安宿までよりどりみどりだ。
冒険者らしき人々でごったがえしており、食べ物を売る屋台や、水を売り歩く子供などもいた。
このダンジョンは、栄えているらしい。
ファルタは宿もとらずに、ダンジョン直行だ。
王都を出てから、ピザ以外ろくな食べ物もなかったからか、いささか不機嫌ではある。
畑や牧草地がつづく場所では狩りの対象となる野生動物も少なかったので、食事は宿や屋台のぱっとしないメニューばかりだったのだ。
そしてその分、やる気まんまんだ。
「私は外で待っててもいいんだけど」
と言ってみたが
「ダメだ。サヤは目を離すといなくなるかもしれない」
いや、子供じゃあるまいし、そうどこかへ行ったりはしないけど。
まあ、ファルタの気分もわからなくはないので、おとなしく着いて行く。
「このダンジョンって、相当良い物が出るのかな」
「サヤはダンジョンの事はあまり知らないだろう」
「そうね、この間入った虫が居た所と……」
「あれは別モノだ。ダンジョンの体躰は成しているが、実体はただの虫の巣だった」
「うぅ……」
思い出したら気持ち悪くなる。
「だいたい、あそこでは魔物を倒しても魔珠が残らなかった。そんなダンジョンは不良品だ」
「そうだったっけ……」
「サヤも拾わなかったろう?」
「そういやそうだったわ。魔珠のことなんか忘れてた」
「ダンジョンの主な戦利品は魔珠だ。装備やアイテムがドロップすることもあるが、確率は低い」
「なるほど……あと、アモと大河ゼルーの向う側で、滅びたダンジョンに入ったよ」
「ああ、水晶迷宮と呼ばれていた所だな。もうずい分前に閉鎖されている。活動していた頃は良いダンジョンだったようだが」
ダンジョンマスターが死んだから閉鎖されたのか、ダンジョンに何かあってマスターが死んだのか。
わからないけれどマスターとダンジョンは一心同体なのだろう。
「ここはどうなの」
「悪くないぞ、ダンジョンマスターにやる気があると言われいてる」
そういう問題なの!?
「よし、行くぞ」
ダンジョンの入り口には、検札があった。
小さな門と小屋があり、人が常駐しているようだ。
ダンジョン内部の昼夜は外の世界とは関係ないから、出入り口も一日中開いているのだろう。
そしてその門では、なにやら入場料をとっているらしき様相だ。冒険者が列を作って入場待ちしている。
まあ確かに、大人数がいっぺんに入ったら中で渋滞してしまうかも。
ここでもファルタは、前回で味をしめたのか列の先頭に割り込んだ。
不満の声が上がるが、ファルタがひとにらみすると、一瞬でしずまり返った。
さすが冒険者を仕事にしている者たちは、強者の気配に敏感だ。
強者が優遇される事も珍しくはなく、むしろ当然のことなのだろう。
ファルタの持つカードは最強(凶?)の証で、私たちはすみやかにダンジョン内へ移動した。
たしかにこのダンジョンは、例の虫の巣なんかに比べると断然やる気に満ちていた。
出て来る魔物も、やっつけ仕事っぽいスライムとか一角ウサギではなく、手がかけられていると分かるデザイン(デザイン?でいいのだろうか?)だ。
有りものの動物をただ大きくしただけ、なんてテキトーなものも出て来ない。
しかし惜しむらくは、ファルタの功撃力の前にはどれも紙きれ同然だったのだった。
ファルタは容赦なく剣を振るい、魔物を蹴散らした。
虫の巣の時と違うのは、消滅した魔物が残す魔珠を捨い集めたことだ。
もちろん私も手伝う。
その位しか役に立たないが、その位と言ってしまうにはこれって結構重労働だよね。
ファルタが私を連れて来たのは、単に一人にしない為だけじゃなく、魔珠を集めたり持ったりする労働力として使う為だったのだ。思ったより計算高い。
走り回って集めた魔珠の多くはファルタが持ってくれたから、まだ良かったけれど。
こんなものそうそう持ってけない。
一個一個はビー玉程の大きさといっても、数がハンパないのだ。
重い。
ビー玉だって百個も持てば重い。
とはいえ、普通の冒険者たちではこの量を稼ぐことはできないだろう。
とにかくファルタは規格外なのだ。
層を降りるごとに魔物は強くなり、魔珠は大きくなる。
そして荷物はますます多く重くなり私の持つ量も容赦なく増えていった。
ゲームのようなアイテムボックスは、存在していないのだ。
いや、もしかしたらどこかに存在はしているのかもしれないが、今現在無いものは存在しないと同義だ。
重いよ。
層ごとのラスボスの魔珠は、ニワトリの卵程もあった。
ますます重い。
私はそろそろギブアップだ。
爆速で四層まで駆け抜け、五層のボスに相対する。
ボスは、なんだかキレイっぽい顔をした彫像みたいな巨人だった。
どこかで見たような気がする造形だ。
主にモニターの中で。
巨人は謎の技を次々にくり出してきたけれど、やっぱりファルタの敵ではなく、あっという間に傷だらけになって膝をついた。
必殺の気合いを込めてファルタが巨人に最後の一撃を加えようというところに、悲痛な声が割り込んで来た。




