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終末の月 ~異世界転生したら仙女でした…仙女ってナニ?~  作者: 天鳥たくみ


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51 なーろっぱの街

 前言撤回。

 子供の足は速くて、それにつられてファルタの足も速くなって、現状ひとり遅れているのは私だ。


「ま、待ってー」

 みるみるうちに離されていく。

 息を切らしながらやっと追いついても、またすぐに遅れる。


 これはむしろ子供ひとりで行かせた方がマシだったのではないか。

 完全に足手まといだ。

 今まで、ファルタやアがモどれだけ私のペースに合わせていてくれたのか思い知る。

 軽く自己嫌悪だ。


「ご、ごめんね、足遅くて……」


「いえ、さっきは助けていただいて、ありがとうございました。旦那様も奥様もご無事でよかった」


 足が速い上に礼儀正しい。

 しっかりしすぎている。

 この世界では、ほとんど子供と話したことがなかったから、この子が特別なのかもわからない。

 それにしても我が身の不甲斐なさに泣きたくなる。



 大人の足で半日と言っていたから、まだ町は遠いだろうという距離で、私はへばっていた。


「ちょっと……待って…… 少し、休憩しよう…… そうだお昼食べよう」


 ファルタの足がピタリと止まった。食べる気満々だ。


 子供は迷いながらも私の言葉に従う。

 さすがに1人で先に行くとは、言い出しにくかったのだろう。

 ほんとすいません。


 ピザを注文して受け取る。

 子供は目を丸くしてそれを見ていたが、見たこともない食べ物には、手を出しかねるようだ。

 けれど、

「食べてみて」

 と私が一切れを取って差し出すと、ファルタがどんどん食べていくのを見て、そっと口に運んだ。


「お姉さんは、魔法使いですか」

 真剣に聞かれた。

 確かに異世界通販は、魔法にしか見えないよね。

「まあそんなとこ」

 笑ってごまかす。

「私も魔法が使えたら……そしたら馬車を守れたのに」

 子供の瞳から涙がこぼれ落ちた。


 私は一瞬うろたえたけれど、そっと子供を抱きしめて、ゆっくり背を叩いてやることでしかできなかった。


 あれだけの惨劇の後だ。

 今まで泣きも喚きもしなかった方が異常だったのだ。

 そんな子供をひとりで使いに出すのも大概だが、彼もまたいっぱいいっぱいだったのだろう。


「ルニちゃんはよく頑張ったよ」

「あの森で盗賊が出るなんて、聞いてない」

「そうなのね」

「今までは危ない場所じゃなかった。旦那様はもしかして魔物が出るかもしれないって。この頃そんな話もあって。だから護衛の人も雇ってくださった。それなのに……あんな大勢で……」

「程度は低いが、それなりに統率が取れていたな。あれは野党の集まりではなくどこかの軍隊崩れだ」


 今までどこか遠い場所の噂話だった戦争が、一気に身近になった。

 そういえば辺境にいた頃、新王国が奴隷狩りをしているとアモは言っていた。今思えば兵士を集めていたのかもしれない。


「そもそもなんで、新王国と皇国は戦争をしてるの」

「そうだな。新王国とか言われているのは、つい最近台頭してきた国だ。王が戦好きで、周辺の国を次々と下して行ったというぞ。本当は別の名を名乗っているはずだが」


 ファルタにしては珍しく長い説明だった―――ではなくて。


「戦争好きの王様……もしかしてその人が、ファルタたちみたいに強いとか?」

「竜人族でないことだけは確かだが、強さはわからん」

「でもめちゃくちゃ強ければ、ひとりで戦争だって勝てるよね?」


 魔法もある世界なのだ。

 一騎当千が現実にあり得るのだと、私は知っている。

 主に目の前の人物のせいで。



 ピザの箱を始末して出発する。

 まだ涙目の子供と手をつないで、ゆっくり歩いた。


「新王国って、西にある大きな国ですよね」

 子供(ルニ)が口を開いた。

「ルニちゃんは、新王国について何か知ってる?」

「いえ、ただ大きな国で、王都はすごく賑やかで、すごく高い建物があるって聞きました」


 高い建物。ビルとかあるのかな。


「一度行ってみたいって思ってましたけど、あの盗賊が本当に戦争から逃げてきたなら、もう行きたくありません。大嫌いです」

 ルニは吐き捨てるように言う。


 慰めの言葉をかけるのもためらわれる。

 私は、この世界が全部無法地帯なのだと漠然と思っていたけれど、この子の暮らしていた環境は普通に平穏だったのだろう。


 行く先々で過激な事態にぶち当たってきた私の旅は、言ってみればまさしく『冒険者』らしいものだったのだ。


 謎のオカルト案件を仕事にしているアモと、暴力装置みたいなファルタが道連れである時点ですでにおかしい。

 そういうことなのだろう。

 そういえば最初に仕掛けてきた二人組と竜人族は、あれきり音沙汰がない。人里で怪獣大決戦はいただけないから、いいことだけれど。




 日暮れ前にはなんとか街へたどり着いた


 ルニは言われた通り、門衛の兵士に小袋を渡し板を見せて、馬車が襲撃にあったことを伝えた。

 私が口を挟む必要もなく、ルニの話で門に控えていた兵士たちは血相を変えてバタバタと動き出した。

 この街の警備はちゃんと機能しているらしい。


 街はかなり大きく、門を入ると石畳の道が続いていて、木組みの家(ハーフティンバー)が建ち並んでいた。


 顔色も悪くふらふらしているのに、門の前で待つと言い張るルニを説き伏せて近くに宿を取った。



 ルニは寝台に横にならせると、すぐ眠ってしまった。

 ファルタと私は宿の食堂へ降りる。

 ファルタはともかく、私はあまり食欲はなかったが、何がしか情報を仕入れられないかと思ったのだ。


 今まで通ってきた村や街に比べると、この街はだいぶ治安が良くて文明的な気がする。

 少女が門衛に報告した事件に対して、ただちに救援が向かったことからもそれが伺える。

 ルニは主人から預かった小袋を渡していて、当然それには金銭が入っていたのだろうけれど、それでちゃんと駆けつけてくれるなら安いものだろう。


 ファルタの、盗賊も獣も周辺にはいないという証言も、加味されているとは思うが。


 とにかく、今現在もそれ以前も、私は自分がどこにいるのかもわからなければ、この世界の地理もさっぱりわからない。

 せめて周辺の情報が聞けたらいいなと思うのだ。

 この穏やかな街の人なら、答えてくれそうな気がする。


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