50 なーろっぱを歩く
街道を進んでいくと、同じような規模の村が続き、少し大きな街が現れる。
周囲は緑が濃くなり森も出てきたと思ったら、行く手に転倒した馬車とそれを取り巻く人影が見えた。
これはもしかして、話に聞いた盗賊というやつではないだろうか。
どうするのが正解かと考えているうちに、向こうからやってきた。
ボロい武器を携えた、小汚い男達だ。
金を出せとか言うのかと思ったら、問答無用で切りかかってきた。それは最低の判断だよ君たち。
かかってきた男たちは、ファルタの目にも止まらぬ反撃で、一瞬にして首と胴が生き別れにになっていた。海賊の時と同じだ。
何のためらいも容赦もない。
私は「うわあ」とは思ったが、殺人を目にしてももうあまりショックは受けなかった。
殺らなければ殺られる。ここはそういう世界なのだ。
そして一気に距離を詰めたファルタは、馬車のそばにとどまっていた賊たちも一瞬で殲滅した。
慌ててあとを追いかけた私は、盗賊以外の生存者がいないか見て回る。
盗賊たちの、ほとんど鈍器な武器で殺された人が倒れている。
馬車は大型で小綺麗だった。
中を覗くと、積み荷の陰に女性と子供が隠れていた。
襲われたばかりだったのだろう。積み荷も人も無事だ。
しかし外にいた人は皆殺されたようで、馬も見当たらない。
「大丈夫ですか」
声をかけてみる。
隠れている人たちは、息を潜めて出てこない。
「盗賊は倒しました。私たちは通りがかった冒険者です。もう安全ですよ」
冒険者と名乗ってみた。まあ嘘ではない。
冒険者ギルドとか冒険者証とかあるのかな、と思ったけれど、今まで通った街でそれらしい場所も人も見かけなかったから、あまり多い職業ではないのだと思う。
それでもダンジョンがあって、宿の女将が普通に聞いてきたくらいだから、それなりに認知された職業なのではないか。
女性も子供もなかなか出てきてくれないので、ファルタの方に声をかけてみる。
「どうしようかこれ」
「賊はもういない。先へ進もう」
「え、この人たち置いてっちゃうの」
さすがにそれはちょっと……
「すいません、出てきてもらえませんか。状況について相談したいのでお願いします」
中の人は、私とファルタ以外に誰もいないことを確認すると積み荷の奥からゆっくり出てきた。
小学生ぐらいの女の子と、幼児を抱いた女性だ。
「あ……ありがとうござい……ます」
顔は土気色で涙にまみれ、声が出ないほど震えている。
「もう大丈夫だから落ち着いて。この馬車に乗っていた人は何人?」
もしかしたら、逃げ延びた人がいるかもしれない。
「6人です……私たちを含めて」
「6人だって、ファルタ」
「おう」
しばしの間。
「1人足りないな。逃げ延びているかもしれん」
それを聞いて、女性はすごい勢いで立ち上がり幼児を抱いたまま馬車の外で走り出た。
「サミーノ! サミーノっ!」
いなくなったのが夫であるらしく、あたりを走り回りながら声を限りに叫ぶのが聞こえる。
取り残された私と女児は、しばし睨み合いみたいになった。
「えっ……と、怪我はない? お嬢ちゃん」
「……」
返事はない。
まあそうか。トラウマ必至の襲撃事件の後に、怪しすぎる格好の女じゃ警戒するなという方が無理だ。
「お母さん外に行ったから、とりあえず出ようか」
「……」
ダメか。
仕方ないので、自分だけ出る。
そこでは、妻の声に応えて森から現れた夫と号泣する妻の感動の再会シーンが展開していた。
ひとまず落ち着くと、この後どうするかという問題になった。
横倒しになった馬車は、商人である夫の持ち物らしい。
馬もいないし、御者をしていた使用人は殺されてしまった。
もう一人の死者は、護衛の冒険者だったようだ。
犠牲者を葬るのも盗賊の始末も、私たちがやるべきことではないだろう。
「次の町まであとどのくらいかかるかわかりますか」
「大人の足で半日ぐらいでしょう」
いかにも商人風の夫が答えた。
「ここは安全な街道で、今まで盗賊が出るなど聞いたことがなかったのですが…… 北の方の戦で逃げ出した兵士や、焼け出された町の人たちがここまで流れて来るようになったから、そのせいかもしれません」
まだ顔色の悪い妻の方は、幼児をしっかり抱きしめて震える声で言う。
「戦……新王国と皇国が争っているっていうあれですか」
「そう……だと思います。戦なんて、ずっと無かったのに…………」
「ルニ」
夫が馬車の方へ声をかけた。
そういえば女の子の存在を忘れていた。
夫婦も娘に冷たすぎないか。
「はい、旦那様」
娘は馬車から這い出してきて答える。
え、この子、娘じゃなかったのか。
「お前はハンベルの街まで行って、門衛にこれを渡し、馬車が盗賊に襲われたことを話しなさい。私の名を出して、助けが必要だと」
そう言いながら小袋と板のようなものを預けている。
「はい、旦那様」
待て。この小学生ぐらいの子供ひとりで行かせる気か。
「子供ひとりで街まで行けと?」
我ながら声が尖がった。
「ルニはしっかりしているし、身も軽い。夜になる前にはハンベルに辿り着けるでしょう。馬車と積み荷を放置してはいけない。私たちはここで助けを待ちます」
男は平然と言った。
異世界の常識はよくわからないけれど、私基準でそれはない。
「じゃあ、私たちが一緒に行きます」
「は……え、ああ、そうしていただけると助かります。ではルニ、この方たちと一緒に街まで行ってもらいなさい」
この子が特に虐げられている、とかではないのだろうか。
男の態度は普通に紳士的だし、子供は当たり前のようにうなずいている。
頭の中で首をかしげながら、私とファルタは子供を連れて街へ向かった。




