49 なーろっぱ再び
だからといって日常にはさしたる変化もなく、荒れ地と砂地の続く道なき道をオアシスだよりに歩き進む。
食事はピザで凌ぐとしても水はないと困る。
幸い小さなオアシスは点在していて、次第に道らしきものも現れてきた。
明らかに人や動物が歩いた跡があり、時折動物の骨なんかもあった。
そして数日後、町にたどり着いた。
普通のなーろっぱ風町並みだ。
インカ風の獣人(正体は半妖らしいが)の村でもなく、正体不明の蜃気楼の街でもない。
こうしてみると、なーろっぱ風の景色はずいぶんとこの世界に馴染んで見える。
ノミカノの街から川沿いに旅した時、通ったような規模の町。
家はおそらく日干しレンガでできていて、窓と扉だけが木製だ。道は踏み固められた土。
全ての風景から色鮮やかさを抜いたみたいな、茶色くて埃っぽい町だった。
ホラーだのファンタジーだのが続いた後のなーろっぱに、普通の世界に戻ってきたような気がしてなぜかほっとした。
いくばくかの金を払って門を入ると、宿屋らしき家がいくつかあるのも街道沿いの町らしかった。
その一軒に宿を取る。
本当に久々のベッドに、涙が出そうだ。
アモと別れてからこっちずっと露天で、テントもなく敷物も掛け物もない野生動物みたいな生活だったのだ。
人間慣れればただの地べたでも寝られるという事はわかったが、それが快適さからはほど遠いという事も嫌と言うほどわかった。
「はーーっ、お布団、サイコーっ」
硬い寝台に藁を敷いて布をかけただけのベッドでも、私は寝転んだ途端眠りに落ちていた。
ファルタに揺り起こされて、寝ぼけ眼のまま夕食を食べる。
食堂の明かりは暗すぎて、何の料理なのかさっぱりわからなかったが、ずっと食べていた固くてちょっと酸っぱい雑穀のパンではなくて、平たくて米粉パンみたいなもっちりした食感のパンが出ていることは気づいた。
あと煮込みの肉は羊肉のような味がした。
今までとは少し文化圏が違うのかなという印象だ。
部屋に戻ると私はすぐにまた寝た。
屋根と壁とベッドがあるだけで、こんなにも快適なのかと驚くばかりだった。
翌朝の朝食は、昨日と同じパンに、果物の甘みだけのジャムが出た。蜃気楼の街では砂糖を見かけたが、あれはあまり普及しているものではないようだ。
「デェッツェンへ行きなさるかね」
ファルタにパンの追加を持ってきた宿の女将さんが話しかけてきた。
「デェッツェン?」
「違うかね。デェッツェンのダンジョンに行くのかと思ったけど。あんたら冒険者だろ」
自己紹介はしていないが、ファルタの背負ったバカでかい剣を見たらそう思うのが妥当だろう。
私は何だろう。魔法使いかな。
「近くにダンジョンがあるんですか」
「近くはないがね。ダンジョンは王都のずっと向こうさね」
「王都はまだ遠いですか」
王都の響きにちょっとときめいた。もっと美味しいものとかもっといいベッドとかあるかも。
「王都は北に七日ほど行ったとこだね。レーメの町とセヌの村と川を越えた向こうだ」
距離の単位が相変わらず徒歩日数だ。
「行ってみようか、ファルタ」
「気をつけるんだよ。最近色々と物騒な噂を聞くからね」
「噂……」
「街道に盗賊が出るとか、もっと遠くでは戦をやってるとかね。戦場から流れてきたもんが盗賊になってるっていうしさ」
女将さんは肩をすくめながら言う。
「お前さんらは強そうだから、大丈夫だろうけどさ」
女将さんから見てもファルタは強そうらしい。
宿を出ると道端に市が立っていた。おそらく常設の店というものはなくて、朝市が買い物の場所なのだろう。
目についた食料を買い込んで街を出る。
アモがいた時は次の町までの時間とか天気とか調べてくれたけれど、ファルタはそんなことは気にしないので行き当たりばったりだ。
私はあの伝え石とかいうものが使えないので、やっぱり計画は立てられない。
ファルタはとりあえず食料と水さえあればいいと思っている節がある。しかも食料は謎のピザデリバリーがどこでもいつでも保証してくれるから、絶対必要なのは水だけだ。
私は宿も必要だと思うんだけどね。
竜っていうのは野生動物なんだろう。
一日歩くと次の村にたどり着いた。
村の周囲は麦畑と牧草地になった。
荒れ地と砂漠の地帯は抜けたらしい。はるか遠くにはまた山脈も見えている。
村には一軒だけ宿屋があった。それなりに行商人などが行き交う道なのだろう。
アモと旅した西の地の村々に比べると、だいぶ豊かそうだ。
峨山の麓から大河ゼルーまでの西の地は、辺境なのだそうだ。
宿に泊まって食事をする。だいぶ人間らしい旅が戻ってきた。




