45 山頂のピラミッド
人懐こい笑顔のケモミミ娘に案内されて村へ入る。
マチュピチュを思わせる村は、石造りの家と石段と段々畑で構成されていた。
村人はみんな獣人らしく、ふわふわした耳や尻尾がついた人がのんびり歩いている。
子供も走り回ってのどかな光景だ。そしてなぜか全員女性だ。
可能性の1。男性は別のところで仕事中である。
可能性の2。獣人には男性がいない。
分からないけれど、いきなり村人に尋ねるようなことでもないだろうし、ファルタと話すのもためらわれる。
性別の話はセンシティブだ。
案内してくれた女性に、商店か食べ物屋がないかと聞いてみたがどちらもないらしい。
村の中で作れないものは外から買ってくるか、行商人を待つかのほぼ自給自足生活のようだった。
本物のマチュピチュよりだいぶ小規模の村のようだ。
畑の作物はおそらくトウモロコシとジャガイモ。
狩りをすれば肉は手に入るかもしれないけれど、水はほぼ雨水頼みだろう。
かなり最低限の生活水準だと思われる。
そのはずなのだけれど。ケモミミ女性たちの服は色鮮やかで、アクセサリーの類いもなかなかきらびやかだ。
何か換金性の高い特産物でもあるのだろうか。
それにしてもなんとも、漠然とした違和感というか不安感というか、どうにも落ち着かない気分だ。
何故かというに、ケモミミ娘たちがまるでアニメの登場人物みたいなのだ。
現実感が薄く、変に可愛らしすぎる。
皆、視線が合えばニコニコと笑って挨拶してくれる。
声を掛ければ愛想良く応えてくれる。
その反応が、判で押したように同じだ。
ファルタはと見るといつもの無表情だ。
前回の村みたいな不快顔ではないことに、少しだけホッとする。
あんな気持ち悪いのはもうごめんだ。
ファルタやアモには、私には分からない危機察知能力があるのだと思う。
そんな私でも、ここに長居は無用だと思われた。
食事もできないし買い物もできない。鍋とか水筒とか欲しかったのだけれど。
そのまま村を通り抜けて山を下ろう、と思ったのは私だけだったらしく、ファルタはいきなり通りかかったウサギミミ娘を捕まえて言った。
「ダンジョンはどこだ」
「ダ、ダンジョンですか」
ウサギミミ娘はファルタの迫力に押されてのけぞった。
「えっと……メルネルのダンジョンは、あの一番高いところの建物から入れます」
彼女の目線の先を見ると石造りのピラミッドめいた建物があった。メルネルというのはこの村の名だろうか。
「行くぞ」
ファルタは言い捨ててさっさと歩き出す。
慌てて後を追う私を置き去りに、ファルタは山頂へ向かう。
行動が唐突すぎる。しかも足が速い。
息を切らせながら何とかピラミッドにたどり着く。
ピラミッドはあまり大きくはなく、二階建ての一軒家くらいのサイズ感だった。
その真正面に、入り口らしきものがある。
ただひたすら真っ黒な四角だ。
以前アモと入ったダンジョンは、ガラス造りのファッションビルみたいだったけれど、ここはずいぶんと無愛想だ。
「ここが……ダンジョンの……入り口?」
「そうだな」
「でもなんで、ここにダンジョンがあるってわかったの」
「女どもの着ていた服は魔物素材のものだった。この山中には魔物はそれほど多くなかった。ダンジョン産だと見るのが妥当だ」
「なるほど」
ぼーっとしているようでよく見ている。というかファルタの方が私より断然この世界の事情に詳しいので、私の知らないこともいろいろあるのだろう。
「それにしても普通は、ダンジョンがあれば周りの村や町はもっと栄えているものだが、ここは何もない。しかも住人が皆、妙な気配だ」
「妙な?」
「獣の耳や尻尾を付けていただろう」
「付けてたって……あれは本物じゃなかったの? コスプレ?」
「コス……なんだかわからんが、あれは半妖だ」
「ハンヨウ……半妖かな。魔物ってこと?」
「魔物と人間の混じったものだな」
「混じる……ってどうやって」
「それは色々あるな。大体があまり聞いて楽しい話ではない」
いやそれ、全然聞きたくないようなことに決まっている。
「だとすると、あの人たちは獣人じゃないんだ」
「ジュウジンとは何だ」
「獣の人……つまり獣と人が合わさったような生き物のことかな。もちろんこの獣は魔物じゃないのよ」
「ふむ。サヤのいた世界にはそんな生き物がいるのか」
「いやいや、そうじゃなくて空想上の話だよ」
「作り話か」
「まあそうだね」
「人と獣は混じらない。魔物とは混じることがある」
「私のいた世界には魔物はいなかったから、そういうのは全部作り話だったよ」
ケモミミ娘は魔物混じりだったのか。完全な魔物じゃないところに不穏なものを感じる。
でも魔物は人を見ると襲ってくるというし、魔物らしい魔物はゴムホースみたいな大群のあれだけしか見たことがなかったから、ケモミミ娘はおよそ魔物には見えなかった。
人に対して好意的な魔物もいたりするのだろうか。
「行くぞ」
躊躇いもなくダンジョン入り口に消えたファルタを追って、真っ暗な入り口をくぐった。
入り口は真っ黒だったけど、中は薄暗い岩の通路だった。いかにもダンジョンでございますという感じだ。
その後も、ダンジョンはいわゆるダンジョンらしいダンジョンだった。
洞窟っぽい通路には、スライムみたいな魔物が出現し、ファルタに問答無用で殲滅された。
それから草原エリア。
出る魔物は角の生えたウサギ、大型の鹿。どちらもファルタの敵ではない。
草原エリアのいわゆるボスは、ひとつ目の鬼だったけれどもちろん一瞬で始末された。
その後も二つほどのエリアを進んだが、私は何となくこのダンジョンにも胡散臭さを感じていた。
ファルタが限界突破に強すぎるので、踏破があまりにも簡単だということを差し置いても、魔物の数も種類も少ないしいわゆるギミック的なものもずいぶん単純だ。
前にアモと入った死んだダンジョンは、宝箱も魔物も出なかったけれど、作り込まれた細部が際立っていた。
ここはそれとは反対に、細部がおざなりというか適当というか、どうも中途半端な感じなのだ。
などと首を傾げている間に、洞窟、草原、森林、水辺、岩山と5層のエリアを、最速でクリアだ。
私は後を付いていくだけで精一杯だった。




