44 塔の盟約と山頂の町
ファルタの顔を見ていたら、常々疑問に思っていたことを口に出していた。
「ファルタはどうしてあの塔へ私に会いに来たの? そもそも王子様を探せっていうのは誰に頼まれたの?」
「そうだな。アカネ皇子を探し出すには、塔の仙女の助けが必要だと言われた」
「誰に?」
「アカネ皇子だ」
「は?」
本人が自分を探せと頼んだってこと?
いや、わけがわからない。
「頼んだ本人は何してるの? どこにいるのよ」
「今現在は行方不明だな」
「ということは、頼まれたのはだいぶ前なの?」
「そうだな。一年ほど前になるか。王子には先読みの力があると言われている」
「あー、予知能力……か」
魔法がある世界なのだから、一概に無いとは言えないだろう。
「ファルタは傭兵みたいなことをしているの? その帝国の兵士というわけではないんでしょ」
「皇国とは関係ない。皇子の頼みを引き受けたのは、たまたまだ」
にしてはすごい執念だと思う。塔を百階登ったり、海を走ってきたり。
「その王子様と親しかったの?」
「いや、別に。たまたま湾市で出会ったんだ」
いったいどうやったら王子様とたまたま出会うんだか。
「湾市の食堂で金が足りなくなってな。もめていたらアカネが来た」
「それは予知だったのかな」
「かもしれん。そしてさっきの依頼をされたわけだ」
それはたまたまとは言わないのでは……
「依頼ってことは、報酬は何だったの?」
竜人族なんて人外と契約するとは、王子様は度胸がある。まあ、財力もあるんだろうけれど、ファルタはなまじな報酬では動かなそうに思えた。
「それはな」
いつも表情に乏しいファルタが何だか嬉しそうだ。
「湾市の食事処のどこでも、好きなものを好きなだけ食べていいという手形だ」
……聞いた私がバカでした。
何を期待していたわけでもないけど、残念感がすごい。
ファルタ舐めてました。
「食べ物に釣られたと」
「そう言うがな、湾市は特別なのだ。あそこの食事は、仙女の魔法の『ぴざ』に匹敵するものだ」
食べ物の話になると熱が入る。
それにしてもファルタは結構湾市に詳しいようだ。
「湾市ってどんなところなの? 飛空艇があるっていうぐらいだから、相当科学技術が進んだところなんでしょ」
「カガク……がなんだかは知らんが、湾市は砂漠の中に立つ巨大な塔だ。サヤの峨山の塔よりもずっと大きいぞ」
それはすごい。
峨山の塔は山と一体化していたから、単体の大きさがどのくらいかいまいちよくわからなかったけど、かなりのスケール感なことは確かだ。
「そしてうまいものがたくさんある」
……ファルタにこれ以上の情報を求めるのは無理な気がしてきた。
「そっか。楽しみだね」
「ああ」
ひとりでニコニコしている。超美形の超笑顔だ。すごい珍しいものを見た気がするけど、あまり嬉しくないのはなぜだ。
「じゃあ、頑張って歩こう」
重い腰を上げ、木々の間から空を見上げる。
アモは今頃どうしてるんだろう。
どこかでまた会えるのだろうか。
私の足が遅いので、山行は遅々として捗らない。それでも何日か歩くうちに景色が変わってきた。
岩場が増えて坂が急になる。山頂が近いのだろうか。
空気は冷たく澄んできて、空の色が濃い。
高度の割りに雪がないのは、乾燥地帯だからなのだろうか。
そんな山道を進んでいくと、明らかに人工的な階段が現れた。
「ファルタ! 階段だよ! 人が住んでるのかも!」
ファルタは無言で頷き、目を細めて行く先を見る。
警戒しているのか。
進んでいくと、石積みの段々畑が広がっていた。
ここはかなりの高山だと思うけれど、今まで見た村と比べても上位に入る整備された畑だ。
とうもろこしみたいな丈の高い作物が植わっている。
どこかで見たような風景だ。
「マチュピチュかな……」
行ったことはないけれど、テレビでは何度も見た。
アンデス山中の古代都市。
開けた空には大きな鳥が飛んでいる。コンドルだろうか。
この世界に来てからずっと、いわゆるなーろっぱ的な風景を見慣れていたからちょっと新鮮だ。
人の服なんかも南アメリカ風だったりするんだろうか。
そう考えながら歩いていると、畑の中に何か動くものを見つけた。
ひょこひょこと草の上で揺れているそれは、動物の耳のように見える。犬とか狐とか、そういう感じの。
でも犬にしては位置が高い。頭があの高さなら体高は1メートル50はあるだろう。犬というよりは牛に近い大きさだ。ちょっと怖い。
いつでもファルタの後ろに隠れられるように、用心しながら見ていると、耳は草を掻き分けて近づいてきた。
そして姿を現したのは、頭の上に犬か狐の耳を乗せた人間だった。
コスプレでなければ、いわゆる獣人だ。
おかしい。アモはこの世界に獣人はいないと言っていなかったか。
「わあー、びっくりした。人ですかー。どこから来ましたかー」
犬耳の女は口をきいた。うん、やっぱりどう見ても獣人だ。
「ずっと遠くから旅をして来ました。あなたはここに住んでいるの?」
「はいー。向こうの方向にちょっと下ったところに村がありますよー」
間延びした話し方がアモを思い出させる。元気だといいけど。




