43 お取り寄せ
ファルタはめちゃくちゃ喜んでピザにかぶりつく。
しかし私はそれどころではない。
取り寄せができたということは、日本の品で無双できる系の世界なのかもしれない。
とにかく確認しなくては。
取り寄せた日本の商品で商売するとか、料理作って成り上がるとか。
武器なんかも取り寄せちゃったりして、オレツエエエェできないかなとか。
……結構色々読んでるな私。
―――結果
食べ物はピザしか注文できなかった。
ピザのみ、サイドオーダーもなし。
ピザの種類だけはあった。
頭に来たからパイナップル乗せを頼んでやった。
ファルタは目をキラキラさせて喜んだ。
何を注文しても、ひたすらファルタを喜ばせただけだった。
しかし食品以外を試していたとき、なんとあの有名ファストファッション店のサイトに、アクセスできることに気づいた。
私は喜び勇んで注文を確定した。
クール系下着。これから暑くなりそうだし。
トレーナー、パーカー、ジーンズ、靴下、スニーカー。
機能性重視、快適さ重視の現代衣料だ。
この世界の衣服は、布はゴワゴワで重く、デザインは壊滅的に機能性から遠い。
中世ヨーロッパにしろ日本にしろ、昔の服は何故あんなに非機能的なのか理解に苦しむ。
長いスカートとか着物とか、不便すぎる。
冬はともかく、夏もずるずる長いものを着る意味がわからない。
髪型もそう。
やたら伸ばして結い上げる必要がどこにあったのか。
まあ、今現在を考えても、ハサミがないから切りようもないんだけど。
ハサミなんてそうそう手に入らなかった時代は、髪を切ることが難しかったのか。
心を飛ばしているうちに、ピザとは比べ物にならない大きな箱が現れた。
大きすぎる気もしたけど、色々頼んだしこんなものかと思いつつ箱を開ける。
「ナニコレ?」
箱から出てきたのは、機能を重視のファストファッションとは対極の服だった。
「……ゴスロリ?」
フリフリのいっぱいついた黒のワンピースに、黒赤縞のニーハイソックス。
なんか金属鋲のいっぱい付いた厚底ブーツ。
あと頭につけるらしい何か。名前は知らない。
下着もフリフリ付きの黒だ。
思わず半目になる。
「なんでゴスロリ…… ユ○ク○にゴスロリがあるなんて聞いてない」
「おお、新しい服か。仙女の魔法は素晴らしいな」
ファルタ、語彙少ない。
返品交換したいけれど、どう考えても無理そう。かといって、これを捨てて注文し直すのもためらわれる。また同じものが届いたらどうするのよ。
仕方なく、海賊の島で適当に見繕って以来ずっと着ていた服を脱ぎ、ゴスロリのウェアに着替えてみた。
サイズはぴったり。
着心地は思ったより悪くない。少なくとも、今まで着ていた古着の着心地が相当悪かったのだ、ということに気づいたレベルには良い。
現代技術すごい。
こんなに無駄なフリフリが付いているのに、前の服より断然軽い。
古着の方は、申し訳ないけど持ち歩くこともできないので畳んで地面に置き去りだ。全て天然素材だし、いつか自然に帰るだろう。
箱は不思議なことに時間が経つと消えてなくなる。
ピザの箱もそうだった。
ゴスロリを着込んだ自分がどんなふうになっているのか気になるけれど、ここに来てから鏡を見たのはあのダンジョンの中だけだった。
当分見ることはできそうにない
金髪碧眼で、くるくる巻いた髪は膝まである。華奢な身体にゴスロリ。
仙女というより魔法少女っぽいかもしれない。
厚底ブーツも見た目より機能的で歩きやすかった。
単にこちらの靴がレベル低いだけとも言えるが。
その後も、他に注文できるものがないか片っ端から調べてみたけれど、残念ながらひとつも見当たらなかった。
異世界通販での無双はできそうにない。
なんともすべてが中途半端だ。
圧倒的火力で無双できるのは、圧倒的脳筋の同行者のみ。
異世界通販はピザとゴスロリファッション自分用のみ。なんならピザはファルタ用なんじゃないかと思う。
盟約の仙女とかご大層な二つ名で呼ばれてはいるけれど、実情は微ラッキーアイテムだ。
定住もできなそうなので、ハンバーグとか石鹸で無双も無理。
そもそも飛空艇が造れるレベルの文明があるのに、今更ハンバーグもないわ。
最初の頃は、全世界が縄文時代水準かと思ってたけれど、単に地域差が激しいだけだったらしい。
まあ元の世界だってそうだった
蛇口をひねれば飲める水がいくらでも出る国もあれば、水を汲むために長時間毎日歩く地域もあった。
なんなら地域間格差はここよりも大きかったかもしれない。
ともあれ、現代知識で無双したいとか、オレツェェェェしてみたいとかいう私の希望からは遠いところで、この世界の物語は動いているらしい。
今のところ当てもなく彷徨っているようだけれど、私にもわからない『盟約』とやらに導かれている可能性は高い。
例えこんな山奥で迷っていたとしても。
「ここどこなの―――ッ なんでこんな山また山の山の中に来ちゃったのよ! 街はどこ! 人里はどこ!」
叫ぶ声に答えるのは木霊のみだ。
現在絶賛遭難中。
いやファルタがいるから遭難はしていない。
いざとなれば抱えて移動してもらえば山もひとっ飛びだ。
分かってはいるけれど、できればそれは避けたい。峨山の塔で抱えられた時の経験はトラウマものだった。
仙女ボディも、あの移動速度に耐えられるようにはできていない。
ずいぶん長い間山の中を移動してきて思うのは、ここは相当広い山脈地帯だろうという事だ。
高度はわからないけれど、それなりに標高は高くなっていそうだ。
仙女ボディが高山病にならないのか、ゆっくり歩いてきたから慣れたのかはわからないが、特に不調は感じない。
ただ、暑くなるだろうと思っていた気温は、下がっている。
やっぱり高度が上がっているのだろう。
苔むした木々と岩の間から湧く泉のそばで、ファルタの用意した鶏肉と私が摘み集めた山菜や、小ぶりな果物を焼いて食べる。
さすがに毎食ピザは無理だ。
ファルタはかまわないようだったけれど。
もりもりピザを食べて毎日ご機嫌元気だ。
私は野菜が食べたい。穀物も。
なんとか人里にたどり着きたい。
思いついてコノンノの町でアモの上司らしき人からもらった地図を出してみる。
あの時アモは何と言っていた?
東へ向かうのには、山脈があるから迂回すると言ってはいなかったか。
だとしたら、今は最短距離を突っ切って東へ向かっているのではないのか。
東の果てにあるという湾市を目指して。
それが漠然とした『盟約』の目的だったとして、今はそれを可能にできるファルタの力がある。
そして突然降って湧いた異世界通販だ。
食料と装備の問題を最低限解決した。
ゴスロリは誰得なんだと突っ込みたいが、世界の摂理だか不条理だかに文句を言っても仕方ない。
どこであろうと世界とはそういうものだ。
そんな諦めがつくほどには年を重ねている。
それにしたってどうして今、山の中なのよ。
ファルタがいて金銭に不自由はしないって時に、野宿! 野宿!
食事は野生動物の炙り焼き肉とピザのみ。
一銭もかかってない。
「はあ……」
ため息くらいは赦して欲しい。
「どうした? 何か気がかりなことでもあるのか」
珍しくファルタが声をかけてきた。




